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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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122.石化病の特効薬

 翌日の夕方、伝令カラスのノラは小さな包みをぶら下げて帰って来た。


《おらよ、お届けだぜー》

「おお、早い。流石」

《そりゃな》


 包みを受け取ったイリスが褒め称えると、ノラは手近な木の枝にとまって胸を張る。


《んで、グレンの奴から伝言だぜー。『依頼料は、メモにある素材全部。こっちに着いてから採りに行っても可』だってよ》

「メモ…?」


 イリスが包みを漁ると、液体の入ったガラス瓶と、手のひらくらいの大きさの紙切れが出て来た。

 その紙に目を通したイリスの顔が、苦笑いへと変わって行く。


「……すっごい吹っ掛けられた」

《え?》


 ほら、と見せられたメモには──



 ドラゴンのウロコ 5枚以上

 ケットシーのヒゲ(抜けたやつで可) 3本以上

 翡翠(白もしくは緑) 握りこぶし大、2個以上

 カンラン石(粒状で可) 両手のひら山盛り1杯分

 カナキリグサの根 5株分

 …

 …



《…うわあ……》


 ずらずらと、米粒のような小さな字で素材の名前と数量が並んでいる。


 石化病の特効薬の対価として適当かどうかは分からないが、とりあえずとんでもない量だ。


《…これ、集められるの?》

「ドラゴンのウロコと翡翠は手元にあるし、カンラン石はハルンフェルスに行く途中の河原で拾える。カナキリグサは高山地帯にしか無いから後でかな。あと──」


 次々と素材の当てを口にして、ちょっと眉を寄せる。


「ケットシーのヒゲは…ラズライトのやつじゃダメだよね?」

《一応僕、ドラゴンだからね?》


 まさか忘れてはいないか。

 ラズライトが眉間にしわを寄せると、イリスは明後日の方を向く。


 ノラが呆れたように首を傾げた。


《その薬飲ませるヤツに頼んだら良いんじゃねーの? ケットシーだろ?》

「ああ、なるほど!」


 イリスがポンと手を打つ。


 その後ノラは飛び去り、イリスとラズライトは冒険者ギルドへとやって来た。


「ラフィ姉!」

「あらイリス。そっちの用は済んだの?」


 受付でギルド職員と話をしていたラフェットが振り返る。


 ラフェットとレオンにも石化病の特効薬の件は共有済みだ。

 と言うか、材料の一部を快く提供してくれた恩人でもある。


 イリスは頷き、アオとシロは居るかな?と問い掛けた。


「ええ。さっき事情聴取が済んだところだから、今は保護部屋に居ると思うわ」

「分かった」


 違法オークションに掛けられていた魔物たちは、先行してトレントの元に返したブラウニー以外、全てこのギルドで一時保護されている。


 意思疎通が図れる魔物には事情を聞き、故郷に戻るか、専門の保護施設で過ごすかを決めてもらう。

 言葉の通じない魔物に関しては専門家に詳しく調べてもらい、先行きに関するアドバイスを貰う。


 その一方で、オークションに関わった人間に対しても事情聴取を行い、違法行為を取り締まる専門組織に引き渡す。


 当初はこの街の冒険者ギルドのギルド長を内偵するだけのはずだったラフェットとレオンの仕事は、たった数日で大変な量になってしまった。


「えっと、保護部屋は…」


 一方イリスは、そんな姉弟子と兄弟子の忙しさを意に介さず、マイペースにケットシーたちの事に注力している。

 曰く、『私が手伝っても足手まといになるだけだと思うんだよね、世間知らずだし』。


 …こういう時だけ『世間知らず』を盾に立ち回るあたり、あながち世間知らずとは言えないと思うのだが。


 ラフェットとレオンの方も、そんなイリスを咎める事は無い。

 ケットシーの兄妹の事はイリスに任せる、と苦笑するばかりだった。


「アオ、シロ、居るー?」


 少しは手伝った方が良いんじゃないかと思い悩むラズライトをよそに、イリスはギルドの奥の方にある扉を開ける。


 摘発された業者で扱っていた魔物は多岐にわたるため、違法と認定された魔物だけでもかなり多い。

 そのためギルドでは、急遽複数の部屋を空けて、魔物たちの一時保護場所として使っていた。


 この部屋に居るのは主に、特殊な環境が必要無い小型魔物たちだ。


《イリス、ラズライト!》


 アオがすぐに駆け寄って来た。


「アオ、お疲れさま。シロの様子はどう?」

《相変わらずだよ。今は疲れて寝てる》


 ちらり、アオが視線を向けた先には、柔らかそうなクッションの上で丸くなるシロの姿。


 保護された際に軽く身体の汚れを拭き取ってもらったため、焦げ茶色に薄汚れていた被毛は少し艶を増し、白に近くなっている。


 ──本当は洗浄魔法を掛けたかったのだが、石化病に冒されている状況では負荷に耐えられそうも無かったのだ。


「アオ」


 イリスが真面目な顔でケットシーを見詰める。


「──石化病の特効薬が出来たよ。シロに飲ませたいんだけど、良いかな?」


《…!!》


 アオが大きく目を見開き、数秒後にぶんぶんと首を縦に振った。


《もちろんだよ! お願い!》


 すぐさまシロの額に肉球を押し付け、軽く揺さぶる。


《シロ、シロ起きて!》

《んー…お兄ちゃん…?》


 薄ら目を開いたシロは、疲れているように見えた。


 そりゃあそうだろう。一昨日の救出劇の後に冒険者ギルドに保護されたものの、その後は証言が出来る被害者として事情聴取に協力していたのだ。

 進行している石化病の症状もあって、動くのも億劫だろう。


《イリスたちが石化病の特効薬をくれたんだ!》

《え…》


 シロは目を見開き、こちらに視線を向けた。


《ホント…?》

《本当だよ、シロ》

《…私が飲んで良いの?》

「シロ専用だから、飲んでくれると助かる」


 イリスが真面目な顔で頷く。


 特効薬自体は別に専用でも何でも無いのだが、今ここにある薬はシロのために用意したものだから、間違いではない。


《…分かったわ》


 シロは素直に薬を飲んでくれた。


 どう?と落ち着き無く訊くアオを、イリスが制止する。


「薬が効くまで、ちょっと時間が掛かるらしいよ」

《そ、そうなの?》


 薬を作った錬金術師は、ご丁寧に効果の出方や今後の注意点までメモにして寄越していた。

 イリスは豆粒より小さいその文字を読み解くのに苦労していたが。


《シロはゆっくり休んで。起こしちゃってごめんね》


 ラズライトが言うと、シロは小さく頷いてベッドに丸まった。

 ちらり、細く目を開け、小さく囁く。


《その……ありがとう、イリス、ラズライト、お兄ちゃん》





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