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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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121.トレントの報酬

 オークション会場に居た関係者たちは、全員捕縛された。


 中心となって動いたのは街の警備隊と冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドは、ギルド長が捕縛されたため副ギルド長が指揮を執り、事態の収拾に当たった。


《組織のトップが逮捕って、大変なんじゃないの?》

「そうでもないわ。元々あの男、実務は何年も前から副ギルド長に丸投げで、ろくに仕事をしてなかったから」


 引継ぎも要らないくらいよ。


《ええ……》


 組織としてそれはどうなのか、色々と突っ込みたいところではあるが。




「おーい、トレントー!」


 人間側の事後処理をするというラフェットとレオンと別れ、イリスとラズライトは街近郊の森にやって来ていた。


 イリスはオークション会場から救出したブラウニーを両手でそっと抱えている。

 萎れたトレントの枝を抱いたブラウニーは、気絶寸前といった風体だ。


 本来なら被害に遭った魔物として一時ラフェットたちが保護するはずなのだが、『トレントと共生してるブラウニーだから、一刻も早くトレントの所に戻した方が良い』と、ラフェットがイリスに預けてくれた。


 イリスが森の中ほどで呼び掛けると、奥の方で枝が揺れる。


「あ、そっちか。ちょっと待ってね」


 茂みをかき分けて近付けば、待っていられないと言うように、枝の間から小さな影が飛び出して来た。


「…!」


 魔力で分かるのだろう。枝の先端ギリギリまで身を乗り出し、ブラウニーが必死の形相でこちらに手を伸ばす。


《落ち着いて。大丈夫だから》

「ほら」


 イリスが保護したブラウニーをそっと差し出す。


 イリスの手の中でふらりと立ち上がったブラウニーは、大きくよろめいて──駆け寄って来たブラウニーに抱き留められる。


「…! …!」

「…」


 こちらには聞こえない声で、何かを語り合っているらしい。

 ブラウニーたちの目には涙が浮かんでいた。


「良かったね」


 イリスが笑うと、その手の中のブラウニーたちも抱き合ったままこくこくと頷く。


「じゃあ、枝に乗せるよ。どこが良い?」


 途端、トレントが動き、先端部分に葉がベッドのように集まった枝が差し出された。

 イリスはそっとブラウニーたちをそこに乗せる。


 トレントとの魔力の繋がりが再び強くなったのか、保護された方のブラウニーの顔色が良くなって行く。


《これで大丈夫かな?》

「…!」


 元気な方のブラウニーがぴょこんと立ち上がり、空中に文字を書き始めた。


《えっと…『大丈夫、ありがとう』…かな?》

「!」


 翻訳すると、にこにこと頷いてくれる。


 ブラウニーは一旦トレントの幹の方へ入り、すぐに大きな実を抱えて戻って来た。


「これ…トレントの実?」


 差し出されたそれを受け取り、イリスが首を傾げる。


 それもそのはず。

 貰った実は、最初に会った時に投げ付けられた小さな緑色の実とは似ても似つかない。


 色はルビーのような、艶やかな深紅。大きさは成人男性の握りこぶしを上回り、今どうやってブラウニーが抱えて来たのか、ちょっと分からないくらい大きい。


《完熟したトレントの実だよ。すっごく珍しい果物だね》


 トレントは世界樹の端末なので、基本的には自ら繁殖する事は無い。

 つまり、本来なら、実をつける必要が無い。

 それでも実をつけるのは、主に護身用──攻撃手段として使うためだ。

 それも未熟な硬い実を使う事が多いので、樹上で完熟させる事は極めて稀。

 完熟した実は、森の仲間──ブラウニーや他の精霊たちが傷付いた時に、彼らにのみ与える物と言われている。


「え、そんなの貰っちゃって良いの?」


 イリスが目を見開くと、ブラウニーたちはこくこくと頷いた。


 トレントの枝が近付いて来て、イリスの手をそっと押す。貰っておけ、という動作に、イリスは小さく頷いた。


「じゃあ、有難く」


 トレントの実をバックパックに丁寧に収めると、イリスは改めてトレントに向き直る。


「えっと…」


 ぽりぽりと頬を掻き、


「…報酬を貰っちゃったところ申し訳ないんだけど…ちょっとお願いが」

「?」

「トレントに、枝を何本か分けて欲しくて…」


 イリスが言うと、ブラウニーたちが驚いた顔をした。

 ふわり、空中に文字が浮かぶ。


《どうして、だって》


 ラズライトが翻訳すると、イリスはトレントたちにきちんと向き直り、話し始めた。


「実は、ブラウニーを救出するのに協力してくれたケットシーが居るんだけど──」


 そのケットシーの妹が、ブラウニーと同じように捕まっていたこと。

 一緒に救出する事は出来たが、その妹は石化病で、放っておくと死んでしまうこと。

 特効薬の材料はほぼ揃っているが、唯一、世界樹の葉もしくは枝だけが足りないこと。


 順に説明して、イリスは頭を下げた。


「材料として、世界樹の葉の代わりにトレントの枝が使えるはずなんだ。勝手なお願いで申し訳ないんだけど、何本か分けて欲しい!」

「…」


 ブラウニーたちは顔を見合わせた後、トレントを見上げた。

 ざわざわと、木々が揺れる。


 数秒後──


「うわっ!?」


 突然イリスの頭に、枝が降って来た。

 それも、葉付きの新鮮なものが、何本も。


「え? こんなに!?」


 落ちて来た枝を束で抱えて、イリスが驚きに目を見張る。


《良いの?》


 この枝は明らかに、トレントが自分の意思で切り落としたものだ。

 ラズライトが訊ねると、トレントがざわざわと動き、ブラウニーたちがにっこりと笑って頷いた。


「あ…ありがとう!」


 イリスは笑みを浮かべて再び頭を下げた。




 その後、街へ戻ったイリスとラズライトは全ての材料を袋に詰め込み、伝令カラスのノラを呼び出した。


《何だ何だー、いきなり》

「おお、本当に来た」

《こいつの魔力は分かりやすいからなー》


 久しぶりに会った腐れ縁の伝令カラスが、ラズライトを翼の先で示しながら首を振る。


 伝令カラスは荷物や手紙、伝言などを運ぶ事を生業にしている、不思議な魔物だ。

 特定の魔法──『伝令カラス呼び出し魔法』を使うと、最寄りの伝令カラスがやって来て、用件に対応してくれる。


 ついでに、目的地に関しては、地名を告げるのでも良いし、届けたい相手の名前を伝えるのでも良い。

 送り主には相手の居所が詳細には分からなくても、伝令カラスはちゃんと荷物を届けてくれる。


 ノラ曰く、『相手の名前を意識すると、頭の中に行先が勝手に浮かぶ』そうで、家出をして各地を放浪していたラズライトの元にノラが頻繁に訪れていたのも、その能力を活用した結果だ。


 ちなみに『伝令カラス呼び出し魔法』をちょっと応用すると、今のように、伝令カラスの中でも特定の個体を指名して呼び出すことが出来る。


《んで、用件は何だー?》

「あ、これ。知り合いの錬金術師に届けて欲しいんだけど」


 イリスが材料の入った袋を差し出すと、ノラはそれを足で掴んだ。


《結構な大荷物だな。そいつの名前は?》


 ノラに訊かれ、イリスは一つ頷いて答えた。



「グレン。グレン・ウラノス。山岳都市ハルンフェルスに住んでる錬金術師だよ」




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