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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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119.不法侵入

 2日後の夜、ラズライトとイリスは、アオと共に歓楽街にやって来た。


 温泉街マイロの中でも比較的新しい建物が並ぶ区画。

 観光客向けなだけあって、夜でも魔法道具のランプが煌々と灯り、かなり明るい。


 ラフェットとレオンが仕入れた情報と、ラズライトが魔物販売店で得た情報を突き合わせた結果、今日、この繁華街にある店の地下で違法な魔物オークションが行われる事が分かった。


 もっとも、具体的な店の場所は分かっていない。

 だからラフェットとレオンは今、確実にオークションに参加するであろうこの街の冒険者ギルド長を尾行している。


《大丈夫かな? 尾行に気付かれたりしない?》

「大丈夫だと思うよ。ラフィ姉もレオ兄も、こういうの慣れてるし」


《…え、何で?》


 はて、冒険者とは、尾行に慣れるようなスパイ紛いの職業だっただろうか。


「何か前に色々あったらしくて」


 イリスも詳しくは知らないらしい。

 暫く歩いていると、通りの向こうからラフェットがやって来た。


「イリス、ラズライト、アオ。お待たせ」


 軽く片手を挙げ、イリスの隣に並ぶ。


「──場所が割れたわ。今、レオンが侵入口を探ってる」

「分かった」


 どうやら上手く行ったらしい。


 そのままラフェットの案内で大通りを進み、大きな建物の手前で左に折れ、細い道に入る。

 さらにもう2回ほど分岐を曲がると、人がすれ違うのにも苦労しそうな細い路地に出た。

 少し進むと、レンガ造りの壁の横、レオンが建物の影に同化するように立っている。


「レオン、お待たせ。どう?」

「裏口からは無理そうだ。物置の窓から入るしかないな」

《窓》


 レオンが示したのは、少し高い位置に設けられた小さな窓。

 恐らく物置の明かり取り用なのだろう。横長で、侵入口としては正直狭い。


 この店は、かなり大きい飲食店だ。

 …飲食店と言っても、ただのレストランではない。

 客一人一人に給仕──接客係が付いて酒を飲みつつ歓談する、所謂『そういう店』である。


 魔物販売店の関係者が『いつもの』店の地下を押さえた、と言っていたから、この店自体も魔物の違法取引に一枚噛んでいる可能性が高い。正面突破は難しいと見ての不法侵入である。


(…まあ不法侵入って言っても、ラフェットとレオンが街の代表者から許可貰ってるらしいけど…)


 この街の代表は、南のメランジとは違って『市長』ではない。

 マイロ温泉組合の組合長だ。


 ラフェットとレオンによると、温泉組合は今回の件とは無関係。

 この街で魔物の違法売買が行われていると知らされた組合長は、その場で全面協力を申し出てくれたそうだ。


(観光で栄えてる街だし、犯罪者が蔓延ってたらイメージダウンもいいところだもんね。必死なんだろうな)


 その結果、ラフェットの手元には今、『温泉組合長お墨付きの捜査許可証』という木札がある。


 …あれだろうか。散々暴れ回った後、おもむろに印籠(木札)を取り出して『控え控えぃ!』ってやるんだろうか。


 ラズライトが思考を飛ばしているうちに、レオンが魔法で窓の鍵を開けた。


「開いたぞ」

「あら、意外と防犯対策が甘いのね」

《待って、何で()()()()なんか使えるの》


 開錠魔法は、隠形魔法、隠蔽魔法と並んで習得者が少ない魔法である。


 何せ『開錠』だ。どう考えても犯罪一直線の魔法だ。

 使いたい場合は自力で開発・習得するしかないが、そもそも必要になる場面に遭遇すること自体があまり無い。


「深く考えない方が良いぞ」

「そうそう」


 レオンがさらりと流し、ラフェットが肩を竦める。

 この2人、ちょっと普通の冒険者とは言い難いスキルが多すぎる。


(…イリスの同門って話だけど、それだけじゃないんじゃ…)


 だが、それを根掘り葉掘り聞くのは危険な気がする。色々と。


「ラズライト、行くよー」


 名を呼ばれて顔を上げると、イリスが平然とした態度で手招きしていた。

 既に窓は全開。準備万端だ。


「先に覗き込んで、様子見てもらって良い? 人の気配は無いんだけど」

《分かった》


 イリスの肩に飛び乗ってから、イリスの手を足場にして窓枠に前脚を掛ける。


 中を覗き込むと、そこはレオンが言った通り、物置だった。

 窓は他に無く、壁沿いにずらりと棚が並び、雑多な物が置かれている。


 出入り口らしい扉のそばの壁に魔法道具の照明が備え付けられているが、今は動いていない。ほぼ真っ暗だ。


《大丈夫、行けそうだよ》


 告げて、ひょいと窓枠を乗り越えて中に侵入する。

 音も無く床に飛び降りると、ひんやりとした石床の感触。

 ケットシーの姿をした自分なら肉球だから足音を消せるが、人間にはちょっと厳しそうだ。


《床、石だから、音を立てないように気を付けて》


 念話で告げると、窓枠からこちらへ身を乗り出していたラフェットがちょっと眉を上げた。

 そのままあっさりと窓枠を通り抜け、軽やかな身のこなしでこちらの隣へ着地する。


 底が分厚いブーツを履いているのに、足音は全くしなかった。


「このくらいなら余裕よ」

《…わあ》


 もはや突っ込む気も起きない。


 さらに、アオに続いて降りて来たレオンも、イリスも、当たり前の顔で足音を立てずに着地する。


(…もうこの一門のスキルについて突っ込むのはやめよう…)


 心に決めて、ラズライトは部屋の扉へ視線を向けた。


《オークションの会場は地下って話だよね》

「ええ。この店だから、地下の小劇場ね。客用の表の階段の他に、従業員専用区画にも階段があったはずよ。そっちから行きましょうか」


 ラフェットが囁き、扉に張り付く。


 どうして間取りを把握しているのかと言うと、『多くの人を収容できる部屋が地下階にある店』全ての間取り情報を、温泉組合長から提供されたからだ。


 どれなのか分からないから全部提供しておくという組合長も組合長だし、それを全部覚えるラフェットたちもラフェットたちだと思う。


「…」


 暫くタイミングを計り、やがてラフェットは細く扉を開け、身体を滑り込ませた。

 ひらひら、手招きされるのを確認して、ラズライトたちもそれに続く。


「──」


 出た先は廊下だった。従業員区画だからか、天井の照明も必要最低限で薄暗い。


 ラフェットは自分の口元に人差し指を立て、黙ってついて来るようにと身振りで示して歩き始める。


 角を右に折れるとすぐ、地下へと続く階段があった。

 全員で頷き合い、音を立てずに降りて行く。


(…人の声…?)


 階段から続く廊下の端、開け放たれた扉から、明るい光が差し込んでいる。

 ラフェットの先導でそこに近付くと、声がはっきりと聞こえるようになった。



「──それでは早速、最初の商品に参りましょう! まずはこちら、とある高原地帯に棲む美しい羽を持つネズミ、フェアリーラットです!」



 どうやら既に、オークションは始まっているようだ。


 そっと覗き込むと、そこは舞台裏だった。

 何人か人影が見えるが、全員舞台の方に集中していて、こちらに気付いた様子は無い。


「…じゃあ、手筈通りに」


 ラフェットが囁くと、レオンが頷いてその場を離れた。

 レオンは客席側の出入り口を封鎖し、客が逃走できないよう見張る事になっている。


 ちなみに、ラフェットは今回の捜査の指示役。

 アオは、適当なタイミングでオークション会場に乱入し、注意を引くよう頼まれている。

 イリスとラズライトはバックアップだ。


 待っている間にも、オークションは進む。

 フェアリーラットが落札されると、今度は別の魔物が舞台に上げられた。


「…聞いてはいたけど、反吐が出るわね」


 ぼそり、ラフェットの囁きが怒りに満ちている。



 そして──



「さあさあ、どんどん参りますよ! 続いては、希少な()()()()()()()()()()()です!」



 進行役が言った瞬間、ラフェットが合図して、アオが全速力で駆け出した。




《オイラの妹を、返せ──!!》





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