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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
序章

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11.ツインヘッド

 羽でも生えているのかと思うような勢いで、巨大な蛇が上空の伝令カラスに喰らい付こうと伸び上がる。


 ラズライトは咄嗟に魔力を練り上げるが──間に合わない。


(ノラ…!)


「──させるかぁ!」


 横手から、影が走る。


 イリスが信じ難い速度で踏み込み、ツインヘッドの胴体に強烈な上段蹴りを叩き込んだ。


 ──ドン!


 爆弾が炸裂したような打撃音が響き、巨大な蛇の胴体が大きくたわむ。

 勢いを殺された蛇は伝令カラスの1メートル手前で止まり、口を開けたままぐらりと上体を傾けた。


《──焔槍(ファイア・ジャベリン)!》


 瞬間、ラズライトはこの姿でできる最大威力の魔法をその口目掛けて叩き込んだ。


 炎の槍はツインヘッドの口の中から上顎を貫通し、一瞬で頭部を焼き尽くす。


「やった!」

《まだだよ!》


 快哉の声を上げるイリスに、警戒を叫ぶ。


 頭部が黒焦げになって、地響きと共に倒れる上体。

 次の瞬間、砂煙の中から、鞭のようにしなる黒い影が恐ろしい速さで飛び出して来た。


 ラズライトを狙うその先端が、斜陽を反射して紅く光る。


《──!》


 身構えるラズライトの前に、イリスが立ちはだかった。


 一瞬の閃きと、キン、という小さな音。


 黒い影が弾かれたように明後日の方向に逸れ、落ちた先で2つのパーツに分かれて転がった。


《き、斬った…?》


 上空から見ていたノラが、呆然と呟く。


 イリスが腰の短剣を抜き、襲い来た物体を切り捨てたのだと、一瞬遅れて理解する。


「──ふう」


 イリスが息をつき、剣を収めて腰に手を当て、



「うちのラズライトに手を出そうだなんて、100年早い!」


《いや『うちの』じゃないし》


 あと、もう聞こえていないはずだ。


 偉そうに言い放つイリスに突っ込みを入れてから、ラズライトは先程襲って来た物体に近寄る。


 暗褐色のウロコが規則的に並んだ物体──ツインヘッドの尾である。

 特徴的なのは、先端が鋭い毒針になっている事と、そのすぐ下に人間の頭ほどもある瘤が備わっている事。

 この瘤の中身は、感覚機能を備えた神経の集合体。

 頭部を焼かれても襲って来たのは、一時であれば脳の代わりにこの瘤が体を動かせるからだ。

 『双頭蛇(ツインヘッド)』の名は、この特性に由来する。


 実際、毒針と瘤は胴体から切り離された状態で、まだぴくぴくと動いている。


「近寄って大丈夫?」

《もう完全に無力化してるよ》

《すげーな、瞬殺じゃねーか》


 瘤の形状は個体差があると言うが、このツインヘッドの瘤は幾重にもウロコを重ねた楕円形。

 『あちらの世界』で言うドラゴンフルーツの形に近いだろうか。


 このウロコが曲者で、柔軟かつ強靭、しかもこの瘤付近では二重以上になっているため、ベテランの剣士でも刃が立たない。


 …はずなのだが、目の前の尾は、瘤の根元ですっぱりと斬られている。切り口は実に綺麗で、ウロコごと一息に切断されたのが見て取れた。


「おい、大丈夫か!?」


 冒険者たちが慌てた様子で駆け寄って来る。

 ラズライトが、もう終わったよ、と応じれば、マジかよ…と呆然と呟いた。


「これ、ツインヘッドよね…?」

「…相当でかいな…」


 地面に横たわる巨体は、ざっくり10メートル以上。腹部の太さは軽く50センチを超える。

 頭部のサイズは先程冒険者たちが倒した大口トカゲ(ビッグ・マウス)には及ばないが、蛇は自ら顎を外して、自分の頭部をはるかに超える大きさの獲物を丸呑みにできる。

 大口トカゲ(ビッグ・マウス)だけでなく、このツインヘッドも牧場の牛を食い荒らしていた犯人だろう。


「いやあ、さっすがラズライト。口の内側を狙って炎の槍で貫くなんて、なかなかできないと思うよ?」

《…君の方が非常識な事をやってのけたんだけどね…》


 実際、口の中に打ち込めたのはイリスの蹴りでツインヘッドの態勢が崩れていたからだ。


 自分よりはるかに巨大な魔物に、委縮する事無く踏み込める度胸。

 自分より数十倍重い相手の態勢を崩せる蹴り。


 何より、普通なら不可能なはずの『剣でツインヘッドの尾を斬る』という所業。


 この自称旅人、色々とおかしい。


《──まあでも、さっきの大口トカゲ(ビッグ・マウス)と、このツインヘッドで、『牛を丸呑みにした魔物』の討伐は完了なんじゃねーか?》


 伝令カラスがやれやれと翼を竦めた。


《そうだね》


 確かに、先程の振動探査の際、反応したのはこのツインヘッドだけだった。

 地下に潜む魔物が他に居るとは考えにくいし、被害状況を考えても、この2匹が原因だった可能性は高い。


 ラズライトが同意すると、カイトたちははっとこちらに向き直り、揃って頭を下げて来た。


「その──ありがとな。本当に助かった」


 自分たちだけでは、そもそも魔物の居場所にたどり着けなかった。

 礼を述べる冒険者たちに、ラズライトは素っ気無く応じる。


《別に良いよ。自分が気になったから手を出したってだけだし》

《目が泳いでるぞー、世話焼き》

《うるさいよ》


 礼を言われるのには慣れていない。

 内心の動揺を誤魔化すように、ラズライトは話を変えた。


《──ところでものすごい大物だけど、どうやって持って帰るの?》


 カイトたちは冒険者なのだから、圧縮バッグくらいは持っているだろう。

 しかし一般的な圧縮バッグでは、大口トカゲ(ビッグ・マウス)とツインヘッド、両方を持ち帰るには容量が足りない。


 ラズライトがツインヘッドの死骸を視線で示して聞くと、カイトは意外そうな顔をした。


「いや、大口トカゲ(ビッグ・マウス)はともかく、ツインヘッドはお前たちが倒したんだから、お前たちの物だろ?」

《僕は要らない》

《だな。こんなん貰っても困るしな》


 ラズライトとノラが即答する。

 人間には貴重な獲物かも知れないが、ドラゴンと伝令カラスには無用の長物だ。


 残るはイリスだが、


「私も要らない。圧縮バッグ持ってないし、運べないもん」


 案の定、首を横に振った。


 いや、でも、と食い下がるカイトに、イリスはツインヘッドの瘤をずいっと差し出す。


「良いから。これ、完全解毒薬の素材になるし」




《『…へ?』》


 イリス以外、全員の声が重なった。




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