108.鉱床開発の問題
「待て待て待て。落ち着け」
《落ち着くのはそっちだと思うよ》
以前も見たロベルトの反応に、ラズライトは容赦無く突っ込む。
ロベルトはがしがしと頭を掻いた。
「ああうん、そうだな。──じゃなくてだな」
セルフ突っ込みに磨きが掛かっている。
「北側? どういう事だよ。南の半島ならともかく、街の北には何も無いだろ?」
《それ。『無い』って、ちゃんと調べたヒト、居るの?》
指摘すると、ロベルトは視線を彷徨わせ──首を傾げた。
「……俺の把握してる限りじゃ、居ない…?」
「…そうですね」
ジュリアも頷いた。
どうやら冗談抜きで、調べてもいないのに『何も無い』と思われていたらしい。
「──とりあえず、報告を聞こう」
ゴホン、と咳払いをして、ロベルトが話を戻した。
…誤魔化しただけのような気もするが。
「えーと、まず…」
イリスがテーブルに『街の人から貰った金鉱石』と、『実際に現場で採って来た鉱床の一部』を並べ、状況を簡単に説明する。
「…行商人のお楽しみ袋…」
一通り聞いたロベルトが呆れ顔になった。
「そういうちょっとした手掛かりから出所を探るのが、醍醐味なんです」
イリスが胸を張る。
タッカーは深く頷いているが、他の誰も賛同していないので、少数派の意見なのは間違い無い。
「ま、まあとにかく…街の北の山間部に金鉱床がある、これは確認できたんですね?」
ジュリアが地図を広げた。
「正確な場所を教えてください」
「えっと、街がここだから…」
イリスが即座に一点を指差す。
「ここ。この川沿いに登った先で、最初に崖が露出している地点。この崖側の山一帯が、全て金鉱床です」
「全て…?」
「タッカーさんとロゼが確認してくれました。地下方向にも広がってて、すごく大きい鉱床だ、って」
「ああ、間違い無い」
自信満々に言い切るタッカーの横で、ロゼも頷いている。
鉱石を扱うプロと、火山生まれの火精霊の言葉だ。ロベルトが表情を改めた。
「…これは、冒険者ギルドの手に余るな。ジュリア、ハドリーを呼んでくれ」
「承知しました」
そこから先はもはやいつもの流れだ。
ジュリアが駆け出し、十数分ほどで商業ギルド長のハドリーが会議室へやって来る。
「概要はジュリアから聞いた」
カイトたちやロゼと初対面の挨拶を済ませると、ハドリーは即座に本題に入った。
「街の北に金鉱床を発見したそうだな」
「はい。結構大きくて、採掘も出来そうなんですけど」
イリスが地図を示しながら説明すると、ハドリーは難しい表情になった。
「なるほど…」
ふむ、と唸り、タッカーを見遣る。
「採掘の難易度はどの程度だと思う?」
「見た感じ、ドワーフの金鉱床と大して変わらん。熱水鉱床だが、周辺地盤はしっかりしてるからな。表層だけなら、ヒューマンでも十分掘れる」
「深くまで掘るのは難しいか?」
「坑道を安定させる必要があるからなぁ。本気で深部まで掘りたいなら、専門職を呼んだ方が良い」
「貴方では無理か?」
「無理無理。俺は大規模採掘の指導者にゃなれねぇよ。そっち方面はさわりしか経験して無ぇからな」
(…そこまで暇じゃ無ぇ、って言ってなかったっけ)
ラズライトは内心で呟く。
まあ、断るのにも当たり障りの無い理由が必要なのだろう、オトナには。
とりあえずハドリーはそれで納得したらしく、一つ頷いた後、また難しい顔になった。
「…鉱床の規模で考えるなら、十分元が取れそうだが…」
ちらり、イリスを見遣る。
視線の意味に気付いたらしいイリスは、パッと手を挙げた。
「あ、この金鉱床、所有権?とか主張するつもり無いんで。採掘したいならそっちで勝手にやってください」
即座に主導権をぶん投げる。
イリスにとって、金鉱床の発見は採掘屋のロマンであって、金銭目的では無いらしい。
「またお前は…」
ロベルトが呆れ顔になった。気持ちは分かる。
普通なら採掘希望者に大金を請求しても良い案件だ。
何故そこでいきなりこっちに投げる? とハドリーの顔にも書いてある。
《じゃあ、発見の報奨金みたいな形で、イリスと、あとタッカーとカイトたちとジーンとロゼにお金払ったら?》
ラズライトが提案すると、今度はカイトたちがざわついた。
「いや待て! 俺たちは鉱石の探し方を教わりに行っただけで、大した働きはしてないだろ?」
「俺もただ単に息抜きに行っただけだからな」
「私も教えてもらった身なので、報酬は受け取れません」
《私も》
全員に否定されるが、そうかな? とラズライトは首を傾げる。
《金鉱床を探すのに、河原の石を片っ端から引っ繰り返して手掛かりを探してたじゃない? 人数が多かったから、これだけ早く見付かったんだと思うけど》
つまり人海戦術だ。
いくらイリスでも、一日に見られる石の数には限度がある。
かなりハイペースで川を遡上出来たのは、カイトたちが居たからこそ。
「そうそう。正直私も、こんなに早く見付かると思ってなかったもん」
イリスも深く頷いた。
「私が報酬を受け取るなら、一緒に行った全員、受け取る権利があると思う」
「いや、でも」
なおも尻込みするカイトたちの前で、パン、とロベルトが手を叩いた。
「そこまでだ」
全員を見渡し、
「…良いか? 冒険者ギルドには、『未知のものを発見した冒険者には報奨金が出る』っつー決まりがあるんだよ。誰が活躍したとかしてないとか関係無く、な。だからお前らには、冒険者ギルドから一律で報奨金が出る」
タッカーとロゼは冒険者ではないが、協力者という形で報奨金の対象になるそうだ。
「我々商業ギルドからも全員に謝礼金を出そう。でなければ、大手を振って金鉱床の採掘に取り掛かれないからな。けじめを付けるためにも受け取って欲しい」
ハドリーにも言われ、発見者全員への金銭の支払いがあっという間に決定した。
そして、話題は鉱山開発へ移る。
「──金鉱床となると、市長…下手をしたら、国への届け出が必要になるな」
「うえっ!?」
イリスが変な声を上げた。
金は貨幣の原料、つまり物の価値を決める共通単位のようなものだ。
それを採掘するのだから、国が絡んで来てもおかしくないのだが…イリスは想像もしていなかったらしい。
「国か…ここは市長に出張ってもらうしか無いんじゃないか?」
ロベルトがイリスの反応を無視して話を進める。
どうやら、ロベルトもイリスの扱いに慣れて来たらしい。
「そうだな…あの屋敷の件もある。こちらから働き掛けるのは難しくないだろう」
ハドリーが頷いた。
イリスが『いらない』と盛大に拒否した屋敷を報酬として無理矢理押し付けて来たのは市長である。代わりに金鉱床開発の面倒な諸手続きを押し付けても問題あるまい、と言っているわけだが。
「イリス、この件──おい、何で耳塞いでるんだよ」
ロベルトが半眼になった。
振り向くと、イリスが両手で思い切り自分の耳を塞いでいる。
「私には何も聞こえマセン」
ロベルトの問いに反応している時点で色々と理論が破綻しているのだが、イリスは真顔で続けた。
「鉱床開発の手続きなんて、所有権がある訳でもない私には関係無いし。発見の報酬貰った後は知りません。そっちで頑張ってください」
国家権力なんて怖過ぎる。
《…君、国を何だと思ってるのさ…》




