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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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105.金鉱床探訪(1)

「と、いうわけで!」


 寒空の下、イリスがテンション高く拳を突き上げる。


「これから金鉱床を探してみようと思います!」

「おー…?」


 横で首を傾げながら拍手するのは、冒険者パーティ『上弦の月』の面々と、駆け出し冒険者のジーン。

 ラズライトは溜息をつき、半眼でイリスを見上げた。


《…で、何でカイトたちまで呼んだのさ》

「いや、前に『鉱石の見付け方を教えて欲しい』って言われたなーと」

《カイトたちが言ってたのは、『鉱石の』見付け方、でしょ? 『金鉱床の』見付け方じゃないよね!?》

「細かい事は気にするなよ」

《気にしようよ、そこは!》


 言ったって無駄な事は分かっているが、言わずにはいられない。


「まあ、正直似たようなもんだからなあ」


 イリスの擁護を始めたのは、これまたイリスに誘われて2つ返事でOKしたタッカー。

 メランジ唯一のドワーフの武具工房として多忙を極めているはずだが、『気晴らし』で今回の金鉱床探しに参加するそうだ。


 ドワーフの気晴らしの概念がイマイチ分からない。


《似たようなものなの…?》


 そのタッカーの隣で、ロゼが首を傾げる。

 火の精霊である彼女は、街の様々な施設を見て回り、自分の立ち位置を探している最中だ。

 その一環として、街の外も見てみたいとのことで参加した。


 …金鉱床探し、というマニアック過ぎる探索で、正しく街の外の様子が分かるかどうかは未知数だが。


「おうよ。目印になる物を探して、その大元の在り処を割り出すってのは、鉱石探しの基本だからな」


 タッカーが気さくに頷いた。工房の炉で火の魔力に親しんでいるためか、ロゼにはかなり友好的だ。


「そうそう。基本基本」

《調子に乗らないの》


 得意気に頷くイリスには、ぴしゃりと言い返しておく。


《…で、どうやって探すの?》


 南の半島とは魔素の濃度が違うせいか、少し北だからか、街の北の平原は一段階寒く感じる。

 できれば早めに済ませて、温かい宿に帰りたい。


 ラズライトが訊くと、イリスはウエストポーチから例の白い石を取り出した。


「今回は、これを手掛かりに金鉱床を探しまーす」

「ほう、熱水鉱床系の母岩だな」


 タッカーが一目見ただけで指摘する。嬉しそうに頷いたイリスは、白い石をタッカーに渡した。


「貰い物なんだけど、元は行商人の『お楽しみ袋』に入ってた石らしいんだよね。で、行商人に聞いたら、ここの川べりで拾ったって話で」

「拾った石を商品にしたのか…」

「それってどうなのかしら」

「まあほら、普通にちょっとした飾りになら使えそうな感じだし」


 カイトたちが渋面になるが、それを言ったらイリスなど『拾った石で生計を立てている』事になる。

 深くは突っ込むまい。


「こりゃあ、極上品質の金鉱床だな」


 白い石を光にかざし、タッカーが感嘆の声を上げた。

 ドワーフの目から見ても、この石の金含有量は多いらしい。


「極上品質?」

「ほれ、ここと、ここと、それからここな。結構デカい金の粒が入ってるだろ?」

「えっと…これ?」

「おう。これと同じ品質の金鉱床だったら、一財産間違い無しだぜ」

「これで一財産…」


 カイトが呻く。


 金は単価が違うので、見た目上の含有量が低くても十分採算がとれるのだという。

 もちろん、実際にやるとなったら大規模採掘になるので初期投資などの問題はあるが、


「もし金鉱床が見付かったら、後の事は商業ギルドのロベルトさんに丸投げすれば良いよね」


 イリスは全部他人に押し付ける気満々だった。

 見付けるのが目的で、採掘が目的ではないからだ。


 ロマンと言えば聞こえは良いが、大変迷惑な話である。


「お前さん…割と鬼畜だな」

「え、じゃあタッカーさん、責任者やります?」

「馬鹿言え、そこまで暇じゃない」


 タッカーが即座に首を横に振った。

 既に工房主として名を馳せているのだ。金鉱床の管理などしていられないだろう。


 …まあ、誰が管理するか以前に、採掘に値する金鉱床が見付かるかどうかは未知数なのだが。


「まあそんなわけで」


 イリスが強引に話を戻した。


「まずはこの河原で、これと同じような石を探して欲しいんだ。で、見付かったら少し上流へ移動して、また同じように探す。これを繰り返して、見付からなくなった地点で一旦停止」

「最後に見付かった地点と、見付からなかった地点との間のどこかに鉱床があるってわけだな」


 タッカーも鉱床探しの知識はある。と言うか、ドワーフなのでそちら方面でもプロだ。


「まあ、見ての通りの白い石だ。河原なら結構目立つだろ。あとな、白一色じゃなくて、白い部分が帯状に入ってる石にも注目してくれ」

《白い帯が入ってる石?》

「おう。熱水鉱床の末端は、そういう風に違う石の隙間に白い岩脈が走る形になってることが多いからな。それも手掛かりになる」


 例えばこれな、と、タッカーが足元の黒っぽい石を拾い上げる。


 大きさは握りこぶしほど。

 その中央に、親指の太さくらいの白い岩脈が走っていた。


 白い部分は黒い部分より硬くて削れにくいらしく、白い部分だけ、一段盛り上がっている。


「これは──ああ、ここに金が入ってるな」


 タッカーがあっさりと言った。イリスがいそいそと覗き込み、あ、と声を上げる。


「これ? 結構大きいね」

「今まで金鉱床が見付かってない方がおかしいぞ、これは」

「うはー、やばいね」

「腕が鳴るぜ」


 明らかに、鉱石マニア2人のテンションがおかしい。

 イリスに至ってはタッカーに対する敬語が取れている。


 …楽しそうで何よりだ、と思う事にしておこう。


「じゃあ、探索開始―!」


 少し上流に移動した後、イリスが腕を振り上げると、その場の全員が動き出した。


 改めて白い石を確認したカイトたちは、水辺に近い乾いた場所へ。

 タッカーは戸惑うロゼと初心者のジーンに石を見分けるコツを教えながら、川が弓なりに曲がっている場所の内側、少し拓けた河原へ。


 そしてイリスは、腕まくりをして川の流れの中に手を突っ込み始めた。


 …冬である。

 凍ってないだけマシ、というレベルの、厳寒期である。


 正気の沙汰ではない。


《いやいやいやイリス、何やってんの!?》


 思わずラズライトが突っ込むと、イリスはきょとんと顔を上げた。


「え? だってホラ、今日は人が多いから、探しやすい乾いた場所は任せておけるじゃない」


 だからと言って、真冬の川に素手を突っ込む理由は無い。


《前に持ってた鉄の棒とか使えば良いでしょ!?》

「あれじゃ川底の石つかめないからさあ」

《じゃあ掴める道具、何か無いの!?》

「無い」

《胸を張るなー!》


 必死に突っ込むラズライトの念話が、河原に響く。

 カイトたちはこっそり顔を見合わせて肩を竦め、タッカーは苦笑した。


「まーたやってるよ…」

「最近、イリス、ラズライトに突っ込んでもらうためにわざとやってるんじゃないかって気がしてるわ」

「…否定できんな」



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