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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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103.鉱石の納品

 ロゼをジュリアとシルヴィに任せ、イリスとラズライトはタッカーの武具工房へやって来た。


 目的は鉱石の納品だ。依頼のあったミスリル原鉱や単斜硫黄はもちろん、その他採取できた鉱石は全てギルドで売らずに持って来た。


 オリハルコンと思しき謎の金属結晶にタッカーがどんな反応を示すのか、ラズライトもちょっとわくわくしている。


《タッカー、居るー?》

「おうお前ら、帰ったか!」


 工房主は丁度休憩中だったらしい。

 コップをテーブルに置き、足早にこちらへ歩いて来る。


「ミスリル原鉱は見付かったか?」

「はい、多分」


 断言しないのは、ノジュールを割らないと中身が分からないからだ。


「そうかそうか。炉の準備は終わってるからな。良かったら、今から手伝ってもらえるか?」

《…イリスが持ち帰って来る前提で準備してたんじゃない、タッカー…》


 しかも、いつ戻るかはっきりしない状態で、だ。期待値が高いにも程がある。


 奥へ入り、防護具を身に付けたり防御魔法を展開したりして準備すると、タッカーは早速イリスが手渡したノジュールの重さを確認し、期待に満ち溢れた表情でハンマーを振るった。


「アタリだ!」

「じゃあ、炉に入れるよ!」


 そこから先は、一度経験した作業である。


 タッカーがノジュールを砕き、全員で欠片の中から青いミスリル原鉱を拾い出して炉に放り込む。

 暑いだの熱いだの言っている場合ではない、時間との勝負だ。


 持ち帰ったミスリル原鉱入りのノジュール7個全てを砕き、処理を終えると、タッカーは炉の扉を閉めた。


「…ふう」


 汗を拭い、呆れた顔で炉を一瞥する。


「大収穫にも程があるだろ…」


 どうやら、タッカーが想定していた量を軽く超えたらしい。

 呆れてはいるが、その目はとても楽しそうに輝いていた。


 ラズライトはイリスと視線を交わし、そっと頷く。

 そろそろ、『次』を出してみようか。


「タッカーさん、これも見て欲しいんですけど」


 イリスが台の上に例の『ちょっと違う』ノジュールを載せた。


「うん? まだあったのか?」


 タッカーが反射的に炉の扉を開けようとするのを、ラズライトは即座に止める。


《タッカー、これ、ミスリル原鉱じゃないらしいんだ。中身を確認してみてよ》

「…?」


 首を傾げながら、タッカーがハンマーを振り下ろす。


 イリスの持っているハンマーと違って、プロの鍛冶師が使うごついハンマーだ。

 ノジュールはあっさりと割れ、きらきら輝く金属質の結晶が顔を出した。


「……………は?」


 溢れ出す濃密な魔力。

 白っぽい金色の輝き。


 タッカーが見事に固まった。


「タッカーさん?」

《おーい、タッカー?》


 予想できた反応だが、硬直時間がとても長い。


「……な、」

「な?」



「なんじゃこりゃあ──!?」



 硬直から脱したと思ったら、タッカーは一歩後退って叫び始めた。


「えっと…オリハルコン?」

「んなわけあるか!」

「じゃあ、何か別の鉱物?」

「あってたまるか!」

「わがままだなあ」

「わがままじゃねえ!!」


 ひとしきり叫んだところで、息が切れたらしい。

 ゼイゼイと肩で息をして、タッカーはハンマーを床に落とした。


 とても重い音がする。


「………ああもう、何だってんだ……」


 途方に暮れた顔で、タッカーが頭を抱えた。


 気持ちは分かる。

 だが、イリスに関わった時点で仕方の無い事だ。


《まあしょうがないよ、イリスだし》

「それで全部片付けるなよ」

《だって突っ込みが追い付かないし》


 イリスに関してはもう悟りをひらくしかないと思う。割と本気で。


「大変ですねえ、タッカーさん」

「誰のせいだ、誰の」


 恨めし気な視線がイリスに突き刺さるが、当人は涼しい顔で目を逸らして圧縮バッグに手を突っ込み、



「ちなみに、今のと同じのがあと2つあるわけだけど」



 容赦無く追撃を仕掛けた。


「………」

「あれ、要りません?」

「………要る」


 どう足掻いても、タッカーはドワーフの鍛冶師だった。


 ハンマーを拾い上げ、残り2つのノジュールも次々割って行く。

 中身は見事な白金色。イリスの見立て通り、全てオリハルコンだった。


「………やばいな……」


 ノジュールをさらに割り砕き、中の結晶だけを集めると、両手のひら1杯分くらいになった。

 意外と多い収量に、タッカーが呆れ半分恐れ半分の顔で呻く。


「…これがバレたら、ドワーフ連中がこの街に大挙して押し寄せて来るぞ」

「え? でも、これだけしかないんですよ?」


 イリスが首を傾げるが、


「お前、台地の上でこれを拾ったっつってたな。どれくらいの時間、探した?」

「えっと…ノジュールを拾ってたのは、2、3時間くらいかな」


 タッカーが深々と溜息をついた。


「…ドワーフの里の鉱山だったら、()()()()()()1()0()()()()()()1()()()、一番期待度の高いエリアでこれだけを目的に掘り続けてようやくこの量だ」

「え」

「自分がどれだけ常識外れの事をしでかしたか、分かったか?」

「えっと……ハイ」


 イリスが小さくなって頷く。


 オリハルコンは本当に希少なのだ。

 イリスは拾って来ただけなのであまり実感は無いが、本来ならば硬い鉱床をひたすら砕き、掘り、その中から目的の物を見付けるという気の遠くなる作業が必要になる。


「しっかし、台地か…。登れるんだったら、俺も直接採りに行きたいところだが」

《タッカー、採掘もできるの?》

「ドワーフの鍛冶師をなめるなよ。採掘、選別、精錬に鍛錬。当然、一通りできるさ」


 一通り経験した上で、一番適性のある分野に特化していくのがドワーフ流なのだという。

 全工程を把握できるので、とても良いやり方だと思う。


「垂直崖登りが出来るなら行けると思いますけど」

「…それなぁ」


 イリスの言葉に、タッカーががっくりと肩を落とした。


《まあ、難しいよね。骨格が違うもん》


 ドワーフはかなり骨太な体格で、背が低く全身の筋肉が発達している。

 つまり、体重がかなり重い。


 腕も足もヒューマンに比べたら短いので、垂直崖登りには徹底的に向いていない。


「なあラズライト、浮遊魔法で上まで運ぶとか、無理か?」

《あの台地、結構風が強かったから難しいと思う。変な方向に飛ばされちゃうよ》

「そこを何とか」

《無理だってば。僕は危険を冒さない主義なの》



「…イリスの相棒やってるお前が言う台詞か?」



《……》



 ラズライトはそっと目を逸らした。




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