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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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101/174

100.未踏破地域、未踏破地域じゃなくなる。

祝・100話達成!

 冒険者ギルドに戻って来ると、イリスたちは即座にジュリアに呼ばれ、応接室へ通された。


 もはやお決まりの展開だ。窓口で普通に手続きした回数の方が少ない気がする。


「カイトさんたちから事情は少し聞いています」

《あ、そうなんだ》

「流石カイト、仕事が早い」


 多分、先触れが無ければイリスが窓口でいきなり火の精霊を紹介し始めて大変な騒ぎになると予想したのだろう。


「それで、そちらが、南の半島で保護したという…?」


 ジュリアの視線がロゼに向いた。

 少し肩を強張らせたロゼは、すぐに小さく首を振ってジュリアに向き直る。


《…火の精霊の、ロゼよ》

「私は商業ギルドからの出向者で、この冒険者ギルドで主に受付を担当しています、ジュリアといいます」


 ふっとジュリアの雰囲気が和らいだ。


「この街は初めてですか?」

《ええ》

「私も、火の精霊さんにお会いするのは初めてです。この街を気に入っていただけると良いのですが」


 微笑むジュリアに、ロゼが軽く目を見開く。

 こうもすんなりと受け入れてもらえるとは思っていなかったのだろう。


 しかしこの街には、アインの養母という前例がある。

 それに、オーサンが『冒険者ギルドが色々と相談に乗ってくれるはずだ』と言っていた事を考えると、精霊が街に住みたいと申し出た場合の受け入れ制度は、冒険者ギルド内で整備されていると見て良い。


「まずは書類を作るので、貴女の事を聞かせてください。ロゼさん、出身はどちらですか?」


 ジュリアが机を挟んでロゼの対面に座り、ペンを持つ。


《ええと…南の半島の…》


 早速ロゼが言葉に詰まった。

 南端の火山地帯は未踏破地域。先程カイトたちが驚愕していたのを見ていたのだから、言い出し難いのも無理は無い。


「南の端の火山地帯です」


 ロゼの横に座ったイリスがあっさりと言い放った。

 言い難いことをさらりと言う、それがイリスである。


 案の定、ジュリアは見事に固まった。


「………え?」


 今何て?


《…ジュリア、聞き間違いじゃないよ。南の半島の、南端の火山地帯がロゼの出身地》


 ラズライトは溜息と共に告げた。

 ジュリアはラズライトを見、ロゼを見、最後にイリスを見て──かたりと席を立つ。


「…すみません、少々お待ちいただけますか?」

《え、えっと…》

《分かった》


 据わった眼をしたジュリアが部屋を出ると、ロゼが泣きそうな顔になる。


《私、何かしたかしら…?》

《大丈夫だよロゼ。何かしたとしたら、ロゼじゃなくてイリスだから》

「身に覚えが無いなー」


 イリスがサッと目を逸らした。

 絶対分かってやってる。


《またギルド長の事情聴取コースだね。ヴィクトリアも来るかな、この分だと》

「冒険者の常識ってめんどくさいよね」

《君も冒険者でしょ》


 若干、いやかなり、『普通の』冒険者からはかけ離れているが。


 動揺しているロゼを宥めながら待っていると、ノックの直後に勢い良く扉が開き、冒険者ギルド長のロベルトが飛び込んで来た。


「お前ら、またやったのか!」


「問題起こしたみたいな言い方には断固抗議シマス」


 イリスが落ち着き払って言い返す。

 イリスを睨んだロベルトは、その横で縮こまっているロゼに目を留めて、慌てて態度を改めた。


「…ゴホン。そっちのお嬢さんは初めましてだな。冒険者ギルド長のロベルトだ。驚かせてすまない」

《ええと…ロゼ、です。よろしくお願いします》


 ロゼが頭を下げると、ロベルトは落ち着きを取り戻し、イリスの対面に座った。


「…で、イリス。今度は南の半島の火山地帯に行ったって?」

「はい」

「どうやって行った? あそこへ行くには、アノマロカリスが占拠している大地溝帯を超えなければならないはずだ」

「秘密、って言ったら通ります?」

「…お前な」


 イリスが首を傾げると、ロベルトが渋面を作った。


「通るわけないだろ。あそこはギルドの重点目標地域だ。情報提供は冒険者の義務だぞ」

「うーん…でも、」


 ちらりとこちらを見遣り、


「かなり特殊な方法で攻略したんで、多分他の人には無理かなーと」

「はあ?」


 ロベルトが片眉を跳ね上げたところでまたノックが響き、ジュリアとヴィクトリアが入って来た。


「ハイ、イリスにラズライト。ちょっと振りね」

「ヴィクトリアさん」


 ロベルトに断りも無く適当な席に座ったヴィクトリアは、ロゼに明るく自己紹介した後、イリスに向き直った。


「ジュリアから聞いたわ。今度は南端の火山地帯に行ったんですって?」

「ええ、まあ」


 イリスが目を逸らしながら頷くと、ヴィクトリアは腕組みして笑った。


「相変わらず突拍子も無いわね。他の冒険者連中が聞いたら腰を抜かすわよ」

「…皆さん、そんなにあそこに注目してるんですか?」

「当たり前だろ。ギルドが大々的に掲げてるってのもあるが、どう考えても未知の素材の宝庫だからな、あそこは」

「目視できる限りでも、大地溝帯のこちらとあちらで、明らかに環境が違いますからね」


 南の半島はただでさえ特殊な場所だ。

 その中でも、他から隔絶され、完全に様相の異なる火山地帯。『見えるのに行けない』という意味で、半島に点在する台地以上に注目の的だったらしい。


 …そこに単身で行って帰って来ていた人間が、目の前に居るわけだが。


《ねえイリス、君が最初に火山地帯に行った時の事なら、話せるんじゃない?》

「最初に行った時…ああ、『蝕』の時のあれか」


 アノマロカリスを魔法封じで倒すのは、正直人間には難しい。


 潜在魔力量が非常に高く、超遠距離から目標物に正確に魔法を展開できるラズライトだからこそできたことだ。

 それだって、もう一度やれと言われたらできるかどうか分からない。


 しかし、『蝕』のタイミングを利用するなら、普通の冒険者でも大地溝帯を超える事ができるのではないだろうか。


「『蝕』の時?」

「はい。えっと──」


 イリスが眉を寄せるロベルトたちに説明する。


 大地溝帯のアノマロカリスは、大気中の魔素濃度が極端に落ちる『蝕』の時だけ自分の縄張りから離れるらしく、大地溝帯から姿を消すこと。

 大地溝帯の火山側の壁面はそれなりに凹凸があるので、登り降りするのはそれほど難しくないこと。

 大地溝帯のこちら側の壁面は台地と同じ鏡肌だが、行きにロープを垂らして降りてしまえば、帰りはそれを使って登れること。


「なので、行きと帰り、それぞれ『蝕』のタイミングになるまで粘れるなら、火山地帯に行って帰って来るのは難しくないんです」


『……』


 ロベルトたちが絶句している。


 そりゃあそうだろう。特殊な自然現象を利用して未踏破地帯へ行くなど、普通は思い付かない。


 まあイリス自身、行きは偶然『蝕』と重なっただけなのだが。


「……なあ、一つ聞いて良いか」


 ロベルトが、眉間に人差し指を押し当てながら呻いた。


「はい?」

「『最初に行った時』っつったよな。という事は、今回が初めてって訳じゃないんだよな?」

「今回は2回目です」



「…………どう報告すりゃ良いんだよ、コレ……」



(あ、絶句してたのって、そっち?)




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