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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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99.精霊は近くに居る

「いや、待て」

「またお前は…」

「さすがと言うか…」


 唖然とするカイト、呆れるギアとナディ。


 衝撃を受ける仲間たちを横に、アインがケラケラと笑う。


「あははっ! 話には聞いてたけど、ホントに突拍子も無いね!」

「笑ってる場合か? 精霊だぞ!?」


 カイトが唸ると、アインは肩を竦めた。


「何言ってるのさ。精霊はどこにだって居るでしょ?」

「どこにだって…って………」


 何故か不自然に言葉が途切れた。


 固まったカイトは、視線を彷徨わせて数秒後、がっくりと肩を落として額に手を当てる。


「──ああ、居るな。居たわ。精霊」

「でしょー?」


 アインが得意気に胸を張る。


《精霊の知り合いが居るの?》


 ラズライトが訊くと、カイトたちは顔を見合わせた後、頷いた。


「ああ。俺たちが知ってるのは風の精霊だが…」


 曖昧に言葉を濁したところに、アインがあっけらかんと言い放った。


「ボクの養い親が風の精霊なんだよ。外見は本当に普通の人間と変わらないし、今も一般人としてメランジの街に住んでる。多分、養母(かあ)さんが風の精霊だって気付いてない人も多いんじゃないかな?」


 意外な所に街に住む精霊の実例があった。


「あの人は本当に馴染んでるよなあ」

「私も初めて会った時は全然気付かなかったわ」

「俺もだ」


 カイトたちが口々に言う。

 どうやら、アインの養い親は自分の力を完璧に制御して、街での生活に溶け込んでいるらしい。


 イリスがポンと手を打つ。


「じゃあさ、もし良かったら、アインのおかあさんに相談させてもらえないかな? ロゼ、魔素の吸収と消費の釣り合いが取れなくて大変なんだって」

「そうなの?」


 アインがロゼを見詰めると、ロゼは肩を落として頷いた。


《……ええ。どうしても魔素を吸収し過ぎてしまうの。自分でも、どうやって調節したら良いのか分からなくて…》


「魔素を吸収し過ぎると、どうなるんだ?」


 首を傾げるカイトの横で、ナディが深刻な顔をした。


「…恐らく、飽和した魔素が魔法に近い状態になって無差別に放出されるわね。古い文献に似たような事例が載ってたわ」

《ナディ、ご名答。とりあえず魔素濃度の高い場所に居ると吸収量が多くなって余計に危険だから、こっちに連れて来たんだよ。今は魔法封じを掛けてるから、暴走する心配は無いんだけど》


「魔法封じ…相変わらず規格外ね」


 ナディが呆れた顔をしているが、出来るのだから仕方ない。


 アインがうんうんと頷いた。


「なるほどねー…。それなら確かに、うちの養母(かあ)さんに相談するのが良いよ。帰ったら早速紹介するね。今日は家に居るって言ってたから」


 普通に一緒に街に行く流れになっている。

 しかし、カイトたちはカイトたちで何かしていたのではないだろうか。


《帰ったらって…みんな目的があって南の半島に出て来てるんじゃないの?》

「ああ、それなら大丈夫だ。アインのリハビリを兼ねて、肩慣らしに魔物を狩ってただけだからな」

「成果は十分だし、そろそろ帰ろうかって話してたところなのよ」

「ついでに受けた採取の依頼も終わったところだ」

「そうそう。気にする事無いって」


 ポンポンと話が進む。


 フットワークの軽いパーティだ。とても心強い。



 その後改めてロゼとカイトたちが自己紹介を済ませると、大所帯になった一行は街へと移動を開始した。

 カイトたちはロードランナーをレンタルしていたのでそれぞれ騎乗し、スピネルがロゼを乗せる。ラズライトを肩に乗せたイリスは身体強化魔法付与で自力で走る。


 ロードチェイサーとロードランナーの群れに人間が並走するというとても異様な光景だが、この面子だと『まあイリスだし』で済まされてしまうあたりが恐ろしい。


「そういえば、ロゼとはどこで会ったの?」

「ん? 南の端の火山地帯だよ」


「はあ!? お前あそこ、未踏破地域だろ!?」


《…イリスにとってはそうじゃなかったんだよ》

「ああ…」

「…そういうやつか…」


《…ねえ、イリスって他の人にどう思われてるの?》

《それは突っ込んじゃダメなやつだよ、ロゼ》


 途中何度か休憩を挟みつつ、一行はメランジの門へと到着した。


 日は既に傾き、夕焼けが門を赤く染めている。

 この時間帯は南の半島に出ていた日帰りの冒険者たちが戻って来るため、門前に人影が多い。門の前で帰還手続きを待っている列もそれなりに長かった。


「じゃ、俺たちはこっちだな」


 しかしカイトたちもイリスも、ロードランナーやロードチェイサーをレンタルしている身だ。

 専用の入り口を使えば、南の半島に接している外門はフリーパスで通り抜けられる。


《私も一緒に通ってしまって良いのかしら…》

《大丈夫だと思うよ。あっちに並んだら『南の半島に出た記録が無いのに南の半島から街に入ろうとしている』事になっちゃうし》


 余計な混乱を生む必要は無い。


 もし街に入る手続きが必要だというのなら、内門の門兵、『おっさん』ことオーサンに頼めば良いだろう。


 そのまま次の門も通り過ぎ、ロードランナーたちの牧場でスピネルたちを返却する。


 返却手続きをしてくれた門兵のオーサンは、おどおどと周囲を見渡しているロゼを見遣り、イリスに向けて溜息をついた。


「お前さん、またやったのか」


 スピネルに続いて、南の半島からの大変珍しい『拾いもの』である。

 付き合いの長いオーサンが呆れるのも無理は無い。


 イリスは全く悪びれずに肩を竦めた。


「だって出会っちゃったし」


《…えーっと。オーサン、ロゼを連れて街に入りたいんだけど、特別な手続きとか必要なのかな?》

「いや…そういうのは特に無いが…とりあえず、先に冒険者ギルドに連れて行った方が良いな。彼女は精霊だろう? 街に住みたいのであれば、色々と相談に乗ってくれるはずだ」

《分かった》


「それじゃあ、養母(かあ)さんにはギルドに来てもらえるように伝えるね。多分、すぐ来てくれると思う」


 片手を挙げて言うなり、アインが街へと走り出す。

 カイトたちが慌てて後を追い掛けた。


「こら、アイン!」

「私たちもギルドへ報告に行くのが先でしょ!」

「先に行ってやってて~!」

「…やれやれ」


 最後、ギアは苦笑して溜息をついていたが。


《それじゃあ、僕らも行こうか》

「そうだね。ロゼ、行こう」

《ええ》


 ラズライトとイリスが促すと、ロゼは緊張した面持ちで頷いた。




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