9.欠けた月
「──俺たちは、4人でパーティを組んでいるんだ」
連れ立って牧場へ移動する道中、冒険者たちは事情を話してくれた。
──冒険者パーティ、『上弦の月』。
近くの街を拠点として活動する彼らは、4人のメンバーで構成されている。
剣士のカイト。
戦士で盾持ちのギア。
魔法使いのナディ。
そして、弓使いのアイン。
いずれも冒険者となってから5年以上経つベテランで、『上弦の月』を結成してから3年、大きなトラブルも無く、順調にキャリアを重ねて来た。
だが3日前、ある魔物の討伐中、アインが魔物の攻撃をまともに喰らい、特殊な毒を受けてしまった。
すぐに回復術師の元へ担ぎ込んだが、容態の悪化を防ぐだけで精一杯、解毒には至らなかった。
その毒には、一般に流通する解毒薬が効かない。
最後の頼みの綱は、熟練の錬金術師だけが作成できる、『完全解毒薬』。
ただ、
《…それ、素材を集めるのがすごく難しくて、ものすごく高価な錬金薬だよね?》
錬金術師の作る薬は、効果は高いが、希少素材を大量に使う。
販売価格は目の玉が飛び出るほど高い上、そもそも店頭に並んでいる事自体がほとんど無い。
完全解毒薬は、その中でもさらに高価な部類に入る。
「ああ。──素材と費用さえ揃えば作ると約束してくれた錬金術師は居る。だから──」
後は、材料とお金の問題という事か。
聞けば、素材の方は冒険者ギルドの方でも探してくれているらしい。
ただし当然、そちらで素材が入手できた場合は、対価の支払いが必要になる。
加えて、錬金術師への支払いも発生するし、今現在、アインの命を繋いでいてくれている回復術師の報酬も必要だ。
だから彼らは、1人欠けた状態で、難易度の高い依頼を請け負ったのだ。
「…討伐依頼ならば、依頼報酬とは別に、討伐した魔物の素材を売って収入を得る事もできる」
「もしかしたら、錬金薬の素材に使えるかも知れないしね」
ギアとナディが補足する。
《ちなみに、必要な素材って何?》
「コカトリスの尾、サラマンダーの牙、サンドコブラの神経節、アオツメクサの露、虫入り紅琥珀」
何度も確認しているのだろう。カイトはすらすらと答えた。
他にもいくつかの希少素材が必要だというが、それは錬金術師が手持ちのストックから提供してくれるらしい。
(難しい素材ばっかりだな…)
ラズライトは内心で呻く。
コカトリスの尾とサラマンダーの牙、アオツメクサの露くらいは冒険者ギルドで確保できるかも知れないし、虫入り紅琥珀は、宝飾品店に掛け合えば入手できる可能性はある。
問題は、サンドコブラの神経節だ。
サンドコブラは、ここから遥か西方、内陸の砂漠地帯に棲む珍しい魔物である。
この辺りにはそもそも生息していないし、神経節は体から切り離した瞬間に変質が始まってしまう。
内陸の街の冒険者ギルドに協力を要請したとして、錬金術の素材として使える程度に新鮮な物が、果たして手に入るかどうか。
「──とにかく今は、牧場の依頼を片付けるのが先だ」
迷いや不安を振り切るように、カイトが首を横に振った。
「徹底的に探して、さっさとケリを付ける」
その目には、冒険者らしい強い意志の光。
『上弦の月』メンバーたちが頷き合ったところで、上空に伝令カラスがひらりと舞った。
《帰ったぜー》
《おかえり。どうだった?》
ノラには、牧場近辺で地面に違和感のある場所が無いかどうか、先行して確認するよう頼んであった。
ラズライトが尋ねると、伝令カラスは人間たちの目線の高さまで降りて来て、歩調に合わせて飛びながら、きらりと目を光らせる。
《あったぜ、痕跡。牧場の北側、ちょっとした茂みの向こう側だ。そこだけ所々草が剥げて、地面が見えてる》
「…!」
冒険者たちの顔色が変わった。
真剣な表情で視線を交わし合い、カイトがノラに向かって頭を下げる。
「悪い、案内してくれないか?」
《おうよ、任せとけ》
ばさり、ノラが翼を打って高度を上げた。
数メートル上空を滑るように加速する伝令カラスの後を追い、冒険者たちが走り出す。
《ほら、僕らも行くよ》
いまだイリスに横抱きにされたままのラズライトは、早く行けとイリスを急かす。
素直に足を踏み出しながら、イリスは軽く首を傾げた。
「さっき私に抱えられて移動した結果見事に酔ったわけだけど、良いの?」
《……やっぱり降ろして。自分で走る》
「はーい」
数秒のやり取りで、ノラと冒険者たちとかなり離れてしまった。
ラズライトが走り出すと、そのすぐ後ろにイリスが続く。
夕闇の迫る中、ラズライトたちは一路、魔物の潜んでいるであろう場所を目指した。
短いですが、切りが良いのでこのへんで。




