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【WEB版】もふもふ後宮幼女は冷徹帝の溺愛から逃げられない ~転生公主の崖っぷち救済絵巻~  作者: たちばな立花
第三話:鬼ばかりのかくれんぼ

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い→鬼の正体

お久しぶりです。

今日から投稿再開します。

 愛紗は朝から幼子には似つかわしくない唸り声を上げた。


 ここは雛典宮。愛紗の部屋だ。しまってあった運命録を握りしめ、ごろりと転がる。


「予想はしてたけど……」


『宴の際、殺害される』


 運命録は昨日と変わらない。不穏な言葉が記されていた。


「また雨を降らせばいいんじゃないのか?」


 隣で静観していた十然が言う。


「あれは大変なのよ。周りの雲を集めてこねてるんだから」


 できないことはない。しかし、やりすぎれば、王都周辺の地域は日照りが続くことになる。そうなれば、飢饉の危機であることくらい、愛紗にだってわかっていた。


 飢饉が訪れることで黎明に訪れる不幸は計り知れない。いくら彼の命だけが大切だったとしても、不安要素を増やすのは得策ではないだろう。


 とにもかくにも、今の最善策は鬼の正体をつきとめることだ。愛紗は胡遊が黎明を狙っていると予想したのだが、どうやら違っていた。


「仕方ない。行くのよ!」

「どこに?」

「もちろん、現場によ!」


 愛紗はビシッと指を差す。情報がないのならば、現場に行くしかない。そう、愛紗は思った。





 愛紗は十然に抱かれて小さな門を見上げる。後宮の外に繋がる小門だ。後宮の外に出るためには、小門か中央に鎮座する大門を潜る必要がある。


 大門は皇帝と皇后のみが許されるため、ほとんどの者が小門を使うのだ。


 昨夜、胡遊と潜った小門はほとんど開くことのない小門らしい。小門はいくつか存在する。後宮の外から皇帝の執務室に向かうことのできる門。これは基本官吏たちが使うことを許されている門だ。


 そして、後宮の北にある質素な門。これは宦官が外と出入りするときに使う。宮女たちは出ることを許されておらず、宦官でも出入りの際は厳しく検査をさせられるようだ。


 宮中の罪人を出すときもこの北の門からだという。


 そして残るは愛紗の見上げている門。この門はほとんど使われることはない。外からしっかりと錠がかけられ、門の外には衛兵も二人立っている。


 愛紗はためらいもなく、門を叩く。


 門には小さな小窓が作られており、その窓が開いた。門の外に立つ衛兵がその小窓を開き、こちら側を覗く。


 十然に抱き上げられていると、愛紗の目線が小窓にちょうど合う。


 愛紗と目が合った途端、面倒そうに歪んでいた衛兵の顔に緊張が走った。


「こ、これは愛紗様! どうなされましたか?」

「あのね、昨日、そっちに落とし物をしちゃったの。ちょっと出たいの」

「申し訳ございません。私どもは勝手に出すことはできないのです。落とし物でしたら探すように命じることもできますが」

「だめ。あたしじゃないと見つけられないものなのよ」


 探しているのは鬼の正体。昨日は暗がりだったため、明るいうちに現場を確認すれば、何か手がかりがつかめるかと思ったのだ。


 しかし、後宮に住む女は皇帝の許可なしに外に出ることは許されない。それは、幼い愛紗も例外ではなかった。


「ちょっとだけなの。すぐに戻るから」


 愛紗が小窓に手を入れる。小窓は、幅はあるが高さはない。大人の手だと指先を出すくらいしかできない大きさあったが、子どもの愛紗は腕を出すことができた。窓を閉じられないように、両腕を小窓の外に出す。


 例えばこれが宮女であるならば、無理に押し戻し、窓を閉じることも可能だろう。しかし、相手は皇帝が溺愛している一人娘だ。衛兵たちは「しかし」と声を上げ、「そのようなことをすれば私どもが……」と頭を抱える。


 愛紗がどんなに粘っても、衛兵たちは門を開けることはなかった。


 頬を膨らませる愛紗の腕を窓から引き離したのは、彼女を抱えている十然だ。愛紗の腕が離れた瞬間、小窓はしっかりと閉められてしまう。


「ちょっと! 十然! あともう一息だったのに!」


 あと一刻も粘れば、渋々開けてくれるかもしれない。そう愛紗が唇を尖らせる。


「悪い悪い。もう腕が限界だわ」


 十然は愛紗を地に下ろす。悪びれもなく笑う十然に愛紗は眉根を寄せた。


「あの様子じゃ絶対外になんて出れないって。今夜また宴に出させて貰えるんだろう? そのとき確認すりゃいいじゃん」

「そういうわけにはいかないのよ。胡遊おじさまのお守りもしないといけないの」


 胡遊ともう一人の鬼が仲間ではないという確証はない。鬼を探しているあいだに胡遊が黎明の命を奪う可能性だってあるのだ。


 愛紗は諦めきれず、扉をかりかりと引っ掻いた。その姿は猫である。


「まぁまぁ。どうせ出られないんだからさ、少し情報を整理しようぜ?」

「整理って言っても……」


 十然は落ちていた木の枝を手に取ると、地面にまずは一本の線を書く。


「今いるのはここ。小門な。そとには庭園があって、そのちょっと先に今回の宴の広場だったかな」

「よく知っているのね」

「姫さんがいないときは暇だろ?」


 十然はニッと白い歯を見せた。愛紗は仙の魂ではあるが、身体は人間だ。しかし、仙の身体のまま地上に降りた十然ならば、暇潰しにふらふらと後宮の外へ出ることなど容易い。


「ちょっと。外に出れるなら、今すぐあたしを出してよ」

「んー、それは無理。だって姫さん目立つし。見つかったら怒られるの俺じゃん? あの皇帝陛下、姫さんのことになると鬼より怖いって」

「……十然の意気地なし」

「それに、これは姫さんの修行だろ? 俺の仙術で手助けしたって知ったら、天帝は合格と言ってくれるかどうか……」

「ぐ……たしかに。なら、仕方ないのよ」


 愛紗は十然が書いた見取り図の前に座った。そして、目を閉じ、昨夜のことを思い出す。


「昨日は会場のこのあたりにお父さまがいて……。あたしは胡遊おじさまとここ」


 屋外の会場ではあったが、提灯がぶら下がり、明るかったのを覚えている。


「そしたら、こっち側から殺気がしたのよ」

「こっち側……は後宮だな?」

「そうね。廊下を走って、この庭園を抜けようとしたの。途中で殺気が強くなって、仕方なく雨を降らせた。そしたら殺気もなくなったんだけど……胡遊おじさまに捕まっちゃったのよ」


 あれは一生の不覚であった、と愛紗は顔をしかめる。


「じゃあ、後宮の中に鬼が潜んでいる可能性があるな」

「鬼の力を使えば、後宮なんて簡単に出てこれるのよ」

「無理に出られない理由があったのかもな。それで、“おじさま”に捕まった後はどうしたんだ?」

「おじさまとこの門をくぐったのよ。猫は出ていないって言って揉めたの」


 仙術を使ったあとは猫になってしまう。愛紗が外に出た記録はあっても、猫が出た記録はどこにもないだろうから。


「あっ! そのときに先帝の妃が外に出たがっていたと言っていたのよ!」


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