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【WEB版】もふもふ後宮幼女は冷徹帝の溺愛から逃げられない ~転生公主の崖っぷち救済絵巻~  作者: たちばな立花
幕間そのに:冷徹帝は夜伽をご所望です

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い→今日の夜伽はご遠慮します

すっかり予約するのを忘れていました…

お待たせしました。

 四日働いて突如降ってきた休み。愛紗あいしゃは部屋の寝台に転がっていた。昼にさしかかるころにはいつものように子猫から人間へと戻った。ふだんなら、ここから行動開始なのだが、今日はその必要がない。なぜなら、黎明れいめい運命録うんめいろくが平和を示したからだ。

 

 今日は絶対に暗殺されない日である。刺客にも休日は必要なのであろう。黎明が暗殺されない日ということは、愛紗が夜伽をおねだりする必要がない日なのだ。

 

 いつも、子猫から人間の姿に戻るとまっすぐに黎明の執務室――秀聖殿しゅうせいでんへと向かっていた。それが必要なくなる。

 

「姫さん、そんなゴロゴロしていると太るぞ~?」

「子どもは少しくらいふくふくしててもいいのよ」

 

 育ち盛りだもの。と十然じゅうぜんの言葉を無視した。

 

 今日は刺客にとっても休日だが、愛紗にとっても休日なのだ。天気も良い、今日は日なたぼっこをしてもいいかもしれない。

 

 愛紗は子猫のように大きな口を開け、大きなあくびを一つした。

 

 

 

 

 そのころ、秀聖殿では凍てつく空気に如余じょよを含めた太監たいかんたちが身を固めていた。

 

 冷徹帝れいてつていがお怒りなのだ。身震いすら許されない空気に秀聖殿にいる太監たちは雛典宮すうてんきゅうに向かって祈りを捧げる。

 

 どうか、早く来てください。愛紗様――と。

 

 日が昇り、昼餉ひるげの時間になると、愛紗は決まって秀聖殿にやってきて、「夜伽をしたい」とねだる。それはすでに四日続いており、日常となっていた。だから、皆、今日もあの小さな足で一所懸命に黎明のもとまで走って隣に座る姿を予想していたのだ。

 

「如余、今は幾時か」

ひつじの刻を過ぎたころかと……」

 

 如余は恐怖に汗を拭う。いつもなら愛紗が黎明と夜伽・・の約束を取り付け、満足げに帰って行く頃合いだ。

 

 最近、黎明の機嫌がいいのは全て愛紗のおかげだった。ただでさえ黎明は整っていて近寄りがたい顔形をしている。その上、笑みの一つも見せないと氷のような冷たさを感じるのだ。

 

 しかし、愛紗の前だとその顔が少しばかり和らぐ。それだけで、この秀聖殿は春の陽気で満ちたように温かくなる。

 

「愛紗様に、な、何かあったのやも……」

 

 太監の一人が控え目に口にすると、黎明からぎろりと睨まれた。この太監はときどき口が滑り余計なことを言ってしまう。

 

 如余は頭を抱えた。愛紗のように身体を小さく丸めて消えてしまいたい気持ちで一杯である。

 

 黎明は静かに立ち上がった。その際、墨に濡れた筆が転がり、書きかけのみことのりが汚れてしまったが、彼にはそのようなことは関係ないようである。

 

「いかがなされましたか?」

「雛典宮へ行く」

「かしこまりました」

「そこの饅頭も持ってついてこい」

 

 黎明の視線の先には山になった桃饅頭がある。愛紗の好物だ。今日も来るであろう愛紗のために朝から用意させた物だった。

 

 執務室に積まれた奏上文は山になっていたが、如余は引き留めることなどできない。黎明は御輿の用意も断り、足早に雛典宮へと向かう。如余をはじめ、太監たちはぞろぞろと彼のあとをついていくことしかできなかった。

 

 突然皇帝が現れたのならば、その宮は大いに騒がしくなる。ただ一人の寵姫、映貴妃えいきひが暮す蓮華宮れんかきゅうならまだしも、雛典宮に黎明が足を踏み入れたことはただの一度もない。

 

 黎明の姿を見つけた女官など、今にも倒れてしまいそうなほどよろめいた。

 

「愛紗はいるか?」

「は、はい。お部屋に。ただいまお呼びいたします」

「いや、私が行こう」

 

 慌てる女官をよそに、黎明はまっすぐ愛紗の部屋へと向かう。雛典宮は部屋数が少なく、こぢんまりとした宮だ。大抵の宮は、部屋数が多く作られ、数名の妃と世話をする女官たちがともに暮らせるようにできている。しかし、この宮は数代前の皇帝が目の見えない妃のために用意した宮で、一人でも迷わないように最低限の部屋しか用意していない。数名の妃が暮すようにはできていないのだ。

 

 初めて入る黎明でも、大体の場所は把握できてしまうようにできていた。

 

 黎明が愛紗の部屋に入ると、うすぎぬがひらひらと舞う中、彼女は寝息をたてている。まるで猫のように丸くなり、小さな手で頭を抱えていた。

 

 開け放つ扉から風がながれ、時折前髪を揺らす。

 

 如余は黎明の後をついて歩いていたが、彼の愛おしそうに緩める横顔を見て、一歩、二歩と後ずさった。

 

 あまり近づけば、とがめられるかもしれない。

 

 見てはならぬと思いながらも、気になるのは致し方ない。顔は足下にまっすぐ向けながらも、如余は聞き耳を立て横目で彼らの様子を盗み見ることにした。

 

 黎明は寝台に静かに腰掛けると、愛紗に向かってゆっくり手を伸ばす。いつものように頭を撫でるのは明白であった。しかし、黎明の手が愛紗の頭に届く前にピタリと動きを止める。

 

 愛紗の目が大きく開かれたからだ。

 

「お……父さま?」

「起きていたのか?」

 

 黎明の問いに愛紗は小さく頭を横に振る。そして、小さな手で目をこすった。彼女の答えに嘘偽りはないようで、まだ眠たそうだ。

 

 くわっと大きな口を開け、大きなあくびを一つ。よろよろと起き上がると、首を傾げた。

 

「ここ、あたしの部屋です。なんで?」

「今日も『夜伽』をしに来るだろう? その確認をしにきた」

 

 愛紗は目を数度瞬かせる。そして、にこりと笑った。

 

「今日はいいです」

 

 はっきりとした声が部屋を駆け抜けたのだ。


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