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#64 愛しさと切なさと任務遂行と

 ――曙区総合医学研究所。

 建物の老朽化を理由に、半年前に閉鎖となったこの施設。地下一階には、不要な機械の物置部屋となっていた一室がある。

 今から約十ヶ月前、朝日が日本からこのヒノワ国へと転移してきた場所だ。


 そして、今。

 その時に朝日が通ってきたものと同じ――淡黄色に発光する霧が渦巻くトンネルの入り口が姿を現していた。

 ちょうど乗用車が一台通れる程度の広さで、奥はどこまで続いているのか全く見通せない。

 朝日は部屋の引き戸を開け放ち、つかつかと光のトンネルの前へと進みでる。


「朝日様っ、お、お待ちくださいっ! 一体、これは、どういうことですのっ?」


 あまりにも突然の事態に、動きが止まっていた三人。

 真っ先に我を取り戻した五月が、あわてて声をかける。

 先ほどまでの喜びはどこへやら、真っ青な表情で朝日を後を追う。


「――ふあっ? 朝日君!」「――ハッ、おい朝日。ちょっと待てよ!」


 あわてふためく五月の姿に、遅れて反応した深夜子と梅が我先にと駆け出す。

 その後ろで、弥生と新月は朝焼子に付き添い見守っている。


(あね)様……これは?」

 立て続けて目の当たりにする超常現象。朝焼子は戸惑いながら弥生に確認をする。

「ふむ。いざこの目で見ても信じ難いが、あれが坊やの国と繋がる道……とのことじゃよ」

「いやいや……聞かされとってもこりゃあ肝がつぶれる光景じゃのう」


 二日前。弥生は朝日と二人で話をして事前に聞かされていた。

 実際は半信半疑ではあったが、目にした以上は受け入れるしかない。

 同じく事情を知っていた新月も、心の準備はしていた。それでも驚きを隠せない。

 そして、弥生が朝焼子に経緯の説明をする。

 朝日から頼まれたこの時に対するいくつかの準備。麻昼から伝えられたという言葉を――。



『えっ……麻昼さん、それって?』

『そうだよ。俺が君にしてあげられるお礼さ。君がこの世界にやってきたあの道を、少しの時間だけ繋げてあげよう。俺には、そんな大した力があるわけじゃない。そう……ほんの三十分間ほど。偶然(・・)をそこに持ってくるだけさ』

『……僕に、日本に帰れ……と?』

『そうじゃない。言っただろ? ちゃんとした人生の選択を、未来の選択を、君たち若者にして欲しい。それと、はっきり言っておくよ。これ(・・)を逃したら、多分、君が日本に戻れる偶然に出会う確率は……』

『――無いっ、てことですね』 

『そう、それにあの道は君しか通れない。どちらにしても君には辛い選択肢だと思う。別れて戻る。別れて戻らない。……だ』


 深夜子たちと別れて戻るか、家族と別れて戻らないか。朝日に究極の選択が突きつけられる。


『でも……僕は……深夜子さんが……』

『今の君は戻れない(・・・・)から、それを選んでいるにすぎない。辛くても、自分の意思で未来を進んで欲しいんだ……神崎君。俺には選択肢すらなかった。いや……今思えば、選択をせず流されていた。それこそ最悪の選択肢がやってくるまで、ね』

『麻昼さん……』

『だから、君には、深夜子には、どちらに進んでも未来のある選択肢をプレゼントしたい』



「――なんと……麻昼さんがそのようなことを……」

 朝焼子は胸の前できゅっと手を握り、麻昼を想って天井をあおぐ。

「そうよのう……果たして、坊やにとってはどうかは知れん。わしからすれば、(おのれ)が故郷へ帰るも良しじゃろうて。じゃが、それを決めるのは坊や自身じゃ。何も言えぬさ――」

「おっと、(ねえ)さん。そろそろじゃ、……ワシらも見届けにゃあならんじゃろ?」

「おお、そうじゃったな。……それでは参ろうか」


 弥生ら三人も少し遅れて、部屋へと足を踏み入れる。

 ちょうど朝日も深夜子たちに事情の説明を終えるところであった。


「麻昼さんにそう言われたんだ……幸せの形は一つじゃない。だからこそ、僕が選ぶべきだって――」

 そこに五月が、もう我慢ならないといった(てい)で言い寄った。

「朝日様っ、何故っ、どうしてですの? そのような大事(だいじ)を、こんなに急に……なんの相談もなく。そ、そんな、ことをいきなり言われ……まし……ひっ、五月、さつ、ひぐっ、五月は……」

 おおよその真意がつかめた五月。嗚咽(おえつ)交じりで、朝日に詰め寄る。

「五月さん、ごめんなさい。でも、自分で決めなきゃって思ったんだ。それに、深夜子さんがいない時に相談しても――って、うわ?」

 鬼気迫る表情の五月が、朝日にすがりつく。

「朝日様! 何か、ご不満なことでもっ、ご不便なことでもっ、ご不足なものでもっ! 言ってくだされば五月はなんでもします。朝日様のためなら、どんなことでもしますからっ!」

「おい五月。落ち着けっての、ンなこと言ってる場合じゃねえのはわかってんだろ」


 混乱気味な五月を、梅が引き剥がしながら言い含める。が――いつものような余裕は感じられない。


「……あっ、(わたくし)としたことが……申し訳ありません。取り……乱しましたわ」

 

 梅に後ろから羽交いじめにされたところで、五月が冷静さを取り戻す。

 残る深夜子はきゅっと下唇を噛んで押し黙り、ここまで微動だにしていない。


「ごめんなさい、五月さん。それに深夜子さんも、梅ちゃんも……もう時間も少ないし、聞いてくれるかな?」


 朝日は光のトンネルに目をやる。

 残された時間は、もう二十分は切っているだろう。

 察した五月と梅がうなずく。深夜子は無言のままだ。


「まず、僕の気持ちを正直に言うよ。僕は……深夜子さんが好き。五月さんと梅ちゃんも好き。三人となら、この国でもきっと大丈夫だと、やっていけると思った。この世界で……みんなと家族になって、それでいいやって……」

「朝日……」「朝日様」「…………」


 朝日は自分の思いを語る。

 この世界に来てからのこれまで、少しづつ変わっていった気持ち。

 様々な出来事をともにして、深夜子ら三人に愛情が産まれた。

 さらに深夜子には恋愛感情も抱いている自分。このまま三人といっしょになれば、きっと幸せに暮らしていける……気がしていた。

 だが、日本に帰れると聞いた時、迷ってしまった自分も確かにいたのだ、と。


「僕の中に……そう、ここに残ろうって自分と、日本に帰りたいって自分。情けないけど、別々の自分がいて……迷ってるんだ。だから、深夜子さん、五月さん、梅ちゃん、みんなの本当の気持ちも知りたい。教えて欲しい! 僕もはっきりと、自分の気持ちに決着をつけるから!」


 しばらくの沈黙。

 深夜子らそれぞれの脳裏に、この十ヶ月の日々がめぐるましく浮かんでは消える。

 朝日に対しての気持ちを、正直な気持ちを三人は自問自答する。


 ――数分の静寂が経過したのち。まず、口火を切ったのは五月であった。


「朝日様……」

「はい、五月さん……」

「五月は、朝日様のことを愛しておりますわ。誰よりもお優しくて、常に人を思いやる心を持たれた素敵な殿方。お恥ずかしい話……五月はどんな手段を使っても、朝日様を失いたくないと思ってしまいますの……」


 朝日を手放したくない。

 少し自嘲気味な含み笑いを見せ、五月が告げる。過去の思い出を、果ては未来を、二人の理想的な将来像すらも語る。

 最初はにこやかに話していた五月だが、だんだんと表情はくもり、涙まじりになっていく。


「――それで、朝日様がご家族に……二度と……会えなく……。でも……きっと、力ずくで、帰れないように……そうです……わ。ふふ、五月はひどい女ですわね。……それでも。……それでも……朝日様を……、すみま……せん。五月は選べ……ませんわ。こんな、こんなっ……ひっく……ううっ、うわあああああああっ!」


 泣き崩れる五月。本心は朝日を手放したくない。

 だが、それを断言することもできない。

 愛しているから、離したくない。愛しているから、離れなければならない。

 答えを出すことが出来ない不甲斐なさに、五月は両手で顔を伏せ、その場に崩れるようにうずくまった。


「五月、別にお前は間違っちゃいないさ……。決められねえってのも立派な答えだと思うぜ……」

 そんな五月の背を、梅が軽くぽんっと叩いてから前に進みでる。

「梅ちゃん……」

「ああ、朝日。昨日の夜は悪かったな、お前もすげえ悩んで……それで俺ンとこに来たんだな」

「うん。自分でこうしようって思っても……不安でたまらなくて、あんな変な話して……ごめんね。でも、梅ちゃんのおかげで昨日は凄く気が楽になったよ」

「へへへ、そうかよ」


 指で鼻元をこすりながら面映(おもは)ゆそうにする梅。

 だが、すぐに気を入れなおして朝日へと向きなおす。


「朝日! 俺の気持ちは簡単だ。お前が好きに選びゃいい! だけど、お前がどっちを選んだって俺の気持ちは変わらねえからよ!」

「変わら……ない?」

「そうだ。お前が、その……自分の国に帰ったら、そりゃあ寂しいかも知れねえけどよ。自分の家族とまた暮らせるんだったら幸せじゃねえか、幸せに決まってる。だから、俺はよ。朝日が幸せになったんだって笑っていられるぜ。そんで、もしお前がここに残るなら、何があろうと俺が幸せにしてやるし、お前を守ってやる。絶対にだ。だから、心配すんな、どっちを……選んだって……ぐすっ……気に…………気にするこたぁねえんだよっ、わかったかああああ! 好きだあああっ、朝日ぃ! ちっきしょおおおおおお! ふぐうううっ――」


 真っ赤な顔で涙と鼻水を垂れながし、梅、渾身の叫び声が部屋に響き渡った。

 肩を上下させ、ふうふうと息を荒げながら涙をぬぐっている。


「ありがとう梅ちゃん。それに五月さん。もう泣かないで……」

「ううっ、あさびさまぁ……」

「あざひぃ……」


 五月と梅、へたり込んでいる二人を朝日が優しく抱きしめる。


「後は……」


 ゆっくりと立ち上がって、朝日は深夜子へと視線を移す。

 すると、ここまで一言も発っせず微動だにしていなかった深夜子が、朝日の前まで静かな足取りで近寄ってきた。

 口を真一文字に結んだまま、猛禽類のような目をまっすぐ朝日に向ける。

 その表情は能面のように固まっていて、感情が読み取れない。


「深夜子さ――」


【パシッ】


 深夜子へ声をかけたと同時に、軽い音が朝日の頬を鳴らした。

「えっ……?」

 それは、深夜子の震える手のひらが、朝日の頬を打ちつけた音。

 そして恐ろしく頼りない。力の無い。弱々しい平手打ちだった。


「おい、深夜子! てめえ、なんのつもりだっ!?」

「深夜子さんっ、貴女っ! 殿方に、朝日様に暴力をふるうなど、気でも違われたのですかっ?」


 梅、五月は言うまでもない。

 ここまで静かに見守っていた弥生たちも、驚きに目を見開いている。

 それも当然。この世界基準ならば、男性への暴力行為は重罪も重罪。即、現行犯逮捕からの長期懲役刑まっしぐらである。


 しかし、その場で誰よりも驚いていたのは朝日であった。

 痛みなどない。力など、まったくこもっていなかった。

 なのに、とても重い、胸の底に響くような衝撃が頬から伝ってきたのだ。


「……らい」

「え? ……深夜子……さん」

 深夜子の口が動き、小さく言葉がもれる。

 それを聞き取れずに朝日が戸惑っていると、今度は、はっきりとその単語(・・・・)を口にした。

嫌い(・・)

「えっ……?」

「朝日君なんか嫌い。帰れば、帰ればいい」


 朝日が深夜子と出会ってから、初めて聞く拒絶の言葉であった。


「おいこら、てっめええええ――」「深夜子さん貴女と言う人はあああ――」

「おっと、お主等はおとなしゅうしとれ」

 あわや深夜子に飛び掛かるところだった梅と五月を、弥生と新月が寸前で食い止める。


 

 ――朝日と深夜子、真っ直ぐにお互いを見つめ合う。一呼吸置いて、深夜子が再び淡々と語りはじめた。


「あたし、朝日君のこと嫌い。ご飯の時にあたしの嫌いな野菜食べろって言った」


【でもいつか、絶対、元の世界に……ニッポンて国に、帰す――】深夜子は朝日と出会って間もない頃、約束をした。


「ゲームした時も全然手加減なしで、あたしをボコボコにしたから嫌い」


 自分が寂しいのは我慢できる。自分が辛いのも我慢できる。

 でも、朝日が不幸なのは我慢できない。今、約束を果たすその時がやって来たのだ。

 

「お部屋掃除した時。あたしの……その、エ、エッチなコレクションをチェックしてたし。きらい、きらい」


 見た目で男性から怖がられ続けていた自分を、カッコイイと、好きと言ってくれた、世界にたった一人の男性。


「きらい、きらい、朝日君のことなんかだいっきらい!!」


 だから、愛する君は自分の国に戻って、家族の元に戻って、幸せに……幸せになって欲しい。――ああ、あなたを愛しています。


「帰って……帰ったほうが……いいよ。あたし、朝日君のこときらい……だから――」

「ねえ、深夜子さん」


 深夜子の肩に、ふいに朝日がそっと手を添え声をかける。

 その瞬間、深夜子はびくりと身体を震わせた。動揺が走る。


「あ……だ……から、あたし……は……」

「ねえ……じゃあ、どうして深夜子さんは……、涙を流してるの?」


 猛禽類を思わす瞳から、こぼれ落ちる大粒の涙。

 ついには感情を押さえ切れず、悲しみでくしゃくしゃになった愛しい女性の顔を、朝日は優しく見つめる。


「それは……ちがっ、あたしは……あっ……あた――」

「そんな悲しい顔をしないでよ。そんなくしゃくしゃな表情じゃ、せっかくの深夜子さんのカッコイイ目(・・・・・・)も台無しだよ?」

「あ、ああああああ……、うえ゛え゛、ええええええ……あ、あしゃひくぅん……ひっ、ひいいいいいいいいいん」

「ありがとう深夜子さん。これで、僕の気持ちは……決まったよ!!」


 朝日がそう告げた瞬間。

 トンネルに渦巻いていた光が、まるで蛍がいっせいに飛び立ったかのように霧散し始めた。

 その決意に呼応したのか、それともただ時間が経過したのかはわからない。

 

「あっ、ダメッ! あしゃひく……、が、かえれなくなる」

 泣きながら、霧散していく光のトンネルに駆け寄ろうとする深夜子。

 それを今までで最も力強く、朝日が抱き止める。

「あしゃひ……くん?」


「深夜子さん。君を、愛してる」


 舞い散る光は、さらにその数と明るさを増す。

 まるで、唇を重ね、愛を確かめ合う二人を祝福するかのように。その周囲を飛び交いながらトンネルと共に消えていった――。



「朝日様……道が、光のトンネルが……」

「朝日、お前……じゃあ」

「朝日君……本当にいいの?」


 朝日から離れた深夜子の元に、五月と梅が駆け寄る。

 朝日は目元の涙をふき取り、その場にいる全員に笑顔を向け、ぐっと拳を握り締めて声をあげた。


「深夜子さん、五月さん、梅ちゃん。僕の国ではね……男ってのは女の子を泣かせちゃいけない。幸せにしなきゃいけないんだ! だから僕は、自分のやり方でみんなを幸せにしてみせる!」


 高らかにそう宣言すると、朝日は深夜子らそれぞれに視線を向けて声をかける。


「深夜子さん!」

「うん。朝日君」

「五月さん!」

「はい、朝日様」

「梅ちゃん!」

「おうよ! 朝日」


「みんな、僕と結婚してくださいっ!!!!」

「「「けっ――――――――!?」」」

 

 朝日からの、実にストレートなプロポーズに硬直する三人。もちろん、あまりの衝撃(しあわせ)にだ。


 この男性比率が人口の五%を切ってしまう世界。

 男性側からの求婚など、歴史上類をみない奇跡とも呼べる行為。

 のちに男性保護特務警護官たちの間で、伝説として語り継がれることになる一幕である。


 そんなことなど露知らず。朝日は深夜子たちの反応に、何か失敗でもしたのかと困惑中だ。


「あ、あれ……その、あの、みんな僕と結婚を――――うわあっ?」

「あさひくううううううううううん!」

「うあさひさまあああああああああ!」

「あさひいいいいいいいいいいいい!」


 恐る恐る聞きなおそうとした朝日へ、三人が一斉に飛びかかった。

 プロポーズだけではない。

 朝日が自分たちを選び、故郷を捨ててまで残ってくれたこと。

 何よりこれからもずっといっしょにいられること。

 純粋に喜びを四人で分かち合う。

 


「――あっ、そうだ。みんな。まだ少し続きがあるから、や、弥生おばあちゃん、新月ママ。よろしくお願いします」


 あれこれと深夜子らにもみくちゃにされながら、朝日が弥生たちに頼んでいた件を思い返し、合図の言葉を送る。


「はいよ。ほっほっほ、それにしても自らが嫁取りとは、まさに前代未聞の男子(おのこ)よのう。さて、坊や。きっちりと改正法案は通してあるよ。安心おし」

「はーい。それからー、朝日ちゃーん。十八歳のお誕生日おめでとー。今日からヒノワ国では立派な成人だねー。なのでー、帰化申請も承認が取れてちゃってまーす。ママがー、えらい人たちにバッチリお願いしてきたのでー今日から有効でーす! 朝日ちゃんはー、もう立派なこの国の成人男性ですよー。うふふ」

「神崎さん……いえ、婿殿(むこどの)。深夜子さんを選んでくれた貴方の未来、寝待の一門が必ず支えましょうや」

 

 朝日が弥生に頼んでいたこと。

 それは自分がこの国に残る選択をした場合。その場で深夜子たちに結婚を申し込みたいと伝えた。

 まだ、保護されて一年未満の朝日。特殊保護男性がその条件をクリアするには、手続きに時間がかかる。

 詳細は割愛するが、弥生が強引にそれが可能になるよう法改正。さらに新月が裏で動いて、これまた時間のかかる帰化申請を短縮した。


 などと言っても、実際の現場はもちろん矢地亮子である。

 デスマーチにつぐデスマーチ、よくぞやりきった。


「ふえっ? 朝日君が……帰化?」

「でも、朝日様は特殊保護男性。いくら成人年齢と言えど、昨日今日でそう簡単には……」

「つーことは、ババア……やりやがったな?」


 これで時間的なハードルは消え去り、深夜子ら三人と結婚することは可能になるはずなのだが……。


「あの、朝日様。さすがに殿方にそこまでさせてしまって”はいお願いします”では、女の沽券(こけん)に関わりますわ。そ、その改めて……(わたくし)たちからも……け、けけけ結婚の申し込みをさせ―――ん? 申し……込み……ハッ!? 確か……Mapsの業務規定が……か、閣下!!」

 五月が顔を青くして弥生に話を振る。

「おう……そういや……そうじゃったのう」


 そう、朝日に問題がなくてもMapsには(・・・・・・)業務規定なるものが存在する。『原則として任務期間が継続して一年間以上のMapsが、警護対象男性の同意を得ることができた場合。婚姻ないし婚約することが許可される』とある。


「そう言えばそんなのあった。あああああ……せっかくの朝日君のプロポーズがががが」

「おいおい台無しかよ。どうすんだこれ?」

「弥生おばあちゃん……どうしよ?」


 円満ムードに突然の陰りが差し、朝日が弥生に助けを求める。が、すでに弥生はスマホで何処かに連絡を始めていた。


「おっ、亮子かい? ん、寝ておったか。いや、すまんのう。それで実はのう……もう一働きを――」

 もうやめて! 矢地のライフはゼロよ!



 ――結果、暫定的ではあるが、男性の意志が優先となるように規約改正される流れとなった。

 まずは朝日と深夜子、五月、梅の婚約はここで成立。


 ただ、三人と同時に結婚することは『男性権利保護法』で禁止されているため、まずは深夜子と結婚。

 その後三ヶ月の期間を取って五月、梅と続けて結婚する計画が、弥生を立会人として朝焼子、新月の同意の元、無事決定した。


 SランクMaps寝待(ねまち)深夜子(みやこ)

 AランクMaps五月雨(さみだれ)五月(さつき)

 SランクMaps大和(やまと)(うめ)


 ここに見事、美少年(あさひ)との警護任務(こんかつ)成功である。

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