魔王様襲来
静まり返った森の中。
鬱蒼と生い茂る木々は風に煽られ、まるで意志があるかのようにその枝葉を揺らす。
見張りをしている魔法使いたちは、周囲に気と魔力を張り巡らせながら雑談を続けていた。
「ルウェスト薬師長って家族とかいるのかな?あんな自由人、どうやったらついていけるんだよ」
苦笑いでそう話す若い魔法使いは、半年ほど前に辺境から異動してきたばかり。自由奔放な薬師長の護衛になるのは初めてで、その言動に戸惑っていた。
その相棒であるもう一人の魔法使いは、王都育ちの男爵令息なので、ルウェスト薬師長の護衛を務めて早五年。さほど驚くこともなくなったが、今回のように突然「採取を延長しまーす」と言われるのは正直言ってつらい。
だが、宮廷薬師のトップに逆らえるわけもなく現在に至る。
「家族はいないらしいよ。昔、結婚してたとかしてなかったとか、なんか色々と噂はあるけれど」
「へ~。逃げられたのかな?」
「どうだろうな。まぁ貴族の結婚なんて政略結婚が多いから、妻子は領地にいるとかそういうパターンもあるんじゃないか?」
ほー、と相槌を打つ魔法使いは、眠そうな目をこすり、話題を変えた。
「そういえば見送りにいた、あの背の低い薬師の子……。可愛かったよね」
「ん?あぁ、ルウェスト薬師長の弟子か?」
二人の記憶には、見送りの際にあれこれ薬師長に話しかけて確認事項をおさらいするシュゼットの姿が浮かぶ。
「薬師長の年の離れた恋人に見えなくもないよな。俺もあんな可愛い子と付き合いたい。もし彼女に恋人がいないなら、ちょっと声かけてみようかな」
冗談めかして、彼は笑う。
だが、それはすぐに否定された。
「やめろ、あの子はうちの団長の恋人だよ。あ、もう結婚したんだったか」
「えっ、グランジェーク様の?」
目を丸くする彼は、心底「意外だ」という顔をした。
「絶対に手を出すなよ。話しかけたらその時点でおまえの命は尽きる」
「そんなバカな」
「いいか、冗談でも可愛いとか何とか口にするな。狙ってると思われてその瞬間に……」
バサバサと突然に大きな羽音がして、周囲に魔力の揺らぎが発生する。
二人は何事だと目を瞠り、すぐに攻撃魔法が放てるよう構えた。
──ザッ……。
暗闇に、人影がぼんやりと浮かぶ。
緊張でごくりと喉を鳴らし、身構えた二人の前に現れたのは、殺気立った目をした美貌の男だった。
「どこだ…!」
「「わぁー!!」」
恐怖で叫び声を上げる二人。
ほの暗い目をしたグランジェークは、亡霊のようにゆらりとそこに現れた。
「一角獣の変異種を探している五班の者だな……!?ルウェスト薬師長はどこだ」
空気がビリビリと振動するほどの魔力に、二人は絶句する。
一人は立ったまま気絶していて、もう一人は半泣きで直立していた。
(死ぬ。早く返事しなきゃ消される……!)
そんなことを感じたその瞬間、手に旧型のランプを持った薬師長が偶然にもやってきた。
「あれ?グランジェーク?何してるんだい?」
呑気な声に、グランジェークの放っていた魔力が霧散する。
二人はその場にドサッと膝をつき、ガクガクと震えていた。
グランジェークはルウェスト薬師長に近づくと、ギラギラとした目で用件を告げた。
「一角獣、俺が捕まえにきた」
「え?いいのかい?」
嬉しそうなルウェスト薬師長に対し、グランジェークは黙って頷く。
「俺が燃やす」
「燃やしちゃダメだよ。生け捕りにしないとツノの成分が抜けちゃうから」
困った子だなぁ、とルウェストは笑う。
まさかグランジェークがシュゼットを置いてまでやってくるとは、そこまで考えて事態の深刻さに気付いた。
「とりあえず、朝にならないと捕獲は無理だよ。だから近況報告を君からしてくれないかい?」





