愛と執念は紙一重
私もグランジェーク様の後に続き、ごくごくと薬草ドリンクを飲み干した。
彼は、正確にこのドリンクのまずさを伝えていたとすぐに気づく。
「本当ですね。グランジェーク様の言った通り、謎の甘みが後引くまずさです」
「これってスープにできないの?ベースをヨーグルトじゃなくてもっとあっさりしたものに変えた方がいいんじゃないかな」
「そうですね。生の方が酵素やビタミンが破壊されずに摂取できるかと思ったんですが、温めてスープにした方が消化吸収率が高まることを思えば、スープの方が効果的かも……?」
「別に飲めないわけじゃないけれど、どうせならおいしい方が脳にもいいんじゃないな」
う~ん、と私は頭を悩ませる。
すると、グランジェーク様がくすりと笑って私の眉間に人差し指を当てる。
「えっ」
「ここにしわが寄ってる。考え過ぎはよくない」
脳を回復させようとして、脳を使ってしまっている。
そう指摘され、私は困ってしまった。
「薬師は料理人じゃないので、味のことは二の次なんですよね」
「まぁ、俺もそうだけれど」
ははっと笑ったグランジェーク様は、目を細めて言った。
「シュゼにはおいしいとか楽しいとか、幸せだっていう感情だけを感じて欲しい。たとえドリンク一つにしても」
「っ!」
あああ、今日も笑顔が神々しい!
そのキラキラした眼差しが眩しくて、私は思わず両手で顔を覆って呻く。
しかしそこへ、腰ほどの背丈のメイドロボがスススッとやってくる。
『イブツ発見、イブツ発見!キケンにつき除去いたしマス!』
「はぃ!?」
メイド服とエプロンをさっと翻したロボットは、そう言うとミキサーごと薬草ドリンクを持っていたゴミ袋に回収した。
「えええ!」
『解析します……解析します……』
唖然とする私の隣で、グランジェーク様がメイドロボに指示をする。
「それは薬草ドリンク。異物じゃない。洗浄、のち収納、でよろしく」
『かしこまりました?』
こてんと首を傾げるメイドロボ。納得いかない、という風に見える。
でも彼女は主人の言いつけ通り、ぴかぴかになったミキサーやグラスを出して棚に片づけてくれた。
「あの、このお邸って人間はいないんですか?」
昨日、結婚式の後にここへ連れて来られたときから、ロボットしか見ていない。
メイドロボに執事ロボ、魔法使いの家ではこれが普通だって聞いていたけれど、一人も使用人の人間がいないのは珍しいような。
「うん、いないよ?人間は俺とシュゼだけ。ほら、人って嘘ついたり裏切ったりするから」
なかなかに闇の深い発言である。
笑顔でそう言われると受け流してしまいそうだけれど、グランジェーク様って人間嫌いなんだろうか?
マルリカさんとは普通に会話していたのに。
私の疑問に気づいた彼は、眉尻を下げて言った。
「信用できる人間は、数えるほどしかいないかな。シュゼになら騙されても裏切られてもいいけど」
「そんな……」
「そもそも裏切らせないしずっとついて行く」
「執念がすごい」
「愛だよ、愛」
ちょっとその愛、重すぎませんか?
戸惑う私を見て、グランジェーク様は話題を変える。
「さぁ、朝ごはんにしよう。シュゼの好きなものをたくさん用意するように、ロボットたちに伝えてあるから」
そっと手を差し出され、私は無意識にそこに自分の手を重ねる。
まるで、今までもこうしていたかのように自然に体が動いてしまった。
一カ月前から一緒に住んでいるって、グランジェーク様は言っていたっけ。
記憶はなくなってしまっても、体が覚えているのかもしれない。
じっと手を見つめていると、グランジェーク様は笑顔で言った。
「今日は休日だから、二人きりでゆっくりしよう」
結婚休暇により、私とグランジェーク様は三日間お休みをもらっている。
この人と二人きりで三日間も大丈夫かと心配になるけれど、あまりに彼が幸せそうに笑うから、もうどうにでもなるかなぁと思ってしまった。





