気になる転校生
「高橋くん、ちょっといいかしら?」
一時間目の授業が終わった直後、前の席に座っていた香苗が後ろを向いて話しかけてきた。
「な、何かな?」
落ち着きは取り戻したものの、香苗が亡くなった姉に似すぎているせいで話しかけられると緊張してしまう。
「さっきからあなたの視線を感じて授業に集中出来なかったのだけれど……どうしたのかしら?」
やはりバレていたか……と思いながらも、隆史は香苗を見る。
近くで見ても本当に似ているため、一緒にいると双子だと思ってしまうほどだ。
麻里佳や隆史の両親など、香菜を知っている人がいたら誰だって見てしまうだろう。
「ホームルームの時に言っていたお姉ちゃんと関係あるのかしら?」
意外と鋭いのかもしれない、と一瞬だけ思ったが、よくよく考えれば分かることだ。
「そうだね。高野は俺のお姉ちゃんと瓜二つだよ」
一つ違うとこがあるとしたら話し方だけで、後は同じ。
話し方については育った環境の影響を受けるので、違うのは当然のことだ。
「そうなのね。少し会ってみたいかも。同じ学校なのかしら?」
自分と同じ容姿の人に会ってみたいと思うのは仕方ないのかもしれない。
「会いたいなら天国に行くしかないよ」
写真なら後日家にあるのを持ってこれるから見せられるが、会いたいとなると無理な話だ。
死なずに会えるならこちらが会いたいくらいだし、会えるなら最後に「今までありがとう」と言いたい。
恋愛の一つもせずに面倒を見てくれたのだから。
「そう。ごめんなさい。それは見てしまってもしょうがないわね」
どうやら今の一言で察してくれたらしく、香苗は見られていることについては怒っていないようだ。
今の話を聞いて怒る人の方が少ないだろう。
亡くなった姉と瓜二つの人が現れたから見てしまってもしょうがない、と思ってくれたようだ。
「ところでさっきから私たちのことを見てる女の子がいるのだけれど……」
確かに授業中から姫乃の視線はずっと感じている。
彼女からしたら彼氏が他の女の子をずっと見ているのが気になってしょうがないのだろう。
「まあ俺の彼女だからね」
転校生に隠すつもりはないし、むしろ付き合っていることを知ってほしい。
言いふらす気はないが。
「……本当に?」
「本当」
「とんでもない美少女を彼女に出来たものね」
確かに姫乃ほどの美少女を彼女に出来たのは運が良かった、と言わざるを得ないが、実際に両想いなのだから付き合える。
「姫乃、おいで?」
あまり放っておくのはよろしくないため、隆史は姫乃を手招きして呼んだ。
小走りで嬉しそうな表情をした姫乃が抱きついてきたのは、転校生にあまり仲良くしてほしくない、と牽制をかけたためだろう。
「教室で抱き合うなんて本当に付き合っているのね」
まるで実際に見るまで信じられない、といった感じの言葉だった。
信じようが信じなかろうがどうでもいいことだが。
「姫乃可愛い」
「タカくんはカッコいいです……あ……」
銀色の前髪をかき上げておでこにキスをしてあげると、姫乃は甘い声を漏らした。
本当に可愛らしい声だ。
「既に二人だけの世界に入っているわね」
きちんと聞こえているから完全には入っていない。
入れるのであれば入りたいが、完全に入ると歯止めが効かなくなるから止めた方がいいだろう。
二人きりの時は歯止めが効かなくなっても問題はないが。
「高橋くんについて気になるわ。こんなに可愛い彼女と私そっくりな姉……」
何やら呟いている香苗だった。




