幼馴染みの幸せ
「たっくーん」
姫乃の家から自分の家に帰ってきた瞬間、走ってきた麻里佳に抱きしめられた。
いくら合鍵を持っているとはいえ、最近の麻里佳は夜遅くまで家にいる。
先程まで抱き合いながらキスしまくっていたから姫乃の寂しさはなくなったらしくて帰ってきたのだが、今度は麻里佳と触れ合うことになりそうだ。
姫乃より若干小さいとはいえ、麻里佳はティーシャツだから柔らかな感触がほぼダイレクトに伝わってくる。
「たっくんの感触、癒やされるよ」
胸元に頬ずりしてきた。
以前の麻里佳では考えられないくらいに密着してくる。
原因は分かりきっており、一緒にいられる時間が減ったからだろう。
重度のブラコン並に溺愛しているのだし、寂しくなってもおかしくない。
もし、告白していなかったとしたら、以前のように手を繋ぐ程度だったはずだ。
「とりあえずリビングに行こう」
「うん」
玄関でずっといるわけにもいかず、抱きしめられたままリビングに移動した。
ソファーに座って息を吐いた隆史は、離れない麻里佳を見る。
充分に美少女と言える麻里佳は可愛いのだが、やはり姫乃と抱き合っている時に感じるドキドキがあまりない。
以前は本気で好きだったとはいえフラれてしまったし、今は姫乃が好きだからというのもあるだろう。
幼馴染みである程度触れ合いになれているのも原因があるかもしれない。
「ごめんね。たっくんは白雪さんが好きなのにくっついちゃって。でも最近寂しくて」
かなりの時間一緒にいたのだし、いきなり一緒にいられる時間が減れば寂しくもなるだろう。
「まあ、麻里佳だから」
他に好きな人がいるのにも関わらず、やはり幼馴染みである麻里佳にはどうしても甘くなる。
本当なら離れた方がいいのだろうが、そうすると麻里佳が壊れる可能性が否定出来ない。
どうあっても姉であろうとするため、拒否したら麻里佳の存在意義がなくなってしまいそうだからだ。
以前言っていた誰とも結婚しないのだって本当だろうし、告白されても間違いなく断っているだろう。
最大の難関である隆史が姫乃とくっついていると勘違いしている人が多いため、麻里佳に告白した男子はいるはずだ。
でも、麻里佳は隆史の姉であろうとするので、誰も好きな人を作らずにいる。
何とかしてこの呪縛を解かなければならないのだが、恐らく並大抵のことではない。
隆史が姫乃と付き合ったとしても、この呪縛が解かれることはないだろう。
「私ならいいんだね」
えへへ、と笑みを浮かべた麻里佳は、本当に離れようとしない。
香菜が亡くなった時に物凄く献身的に接してくれたため、隆史は麻里佳に強く言うことが出来ないのだ。
感謝してもし足りないくらいに感謝しているのだから。
「白雪さんと一緒にいる時は邪魔しないから、せめて二人きりの時はこうしてたいな」
甘い声で囁かれたら勘違いしそうになるが、あくまで姉として弟と触れ合っていたいのだろう。
「夜だけだな」
姫乃の家に泊まる可能性があるから必ずしも出来るとは言えないが、これからしばらくは麻里佳と触れ合うことになりそうだ。
けれどそれもあまり長い期間はよろしくないため、いつかは呪縛を解く。
感謝しているからこそ、麻里佳に幸せになってもらいたい。
彼氏を作ってみたら? と言うつもりはないが、同性の友達と遊びに行くとかしてみるのもいいだろう。
麻里佳は隆史といようとするあまり、友達と遊んだりしない。
隆史が姫乃と一緒にいる時ですら、麻里佳は家で待ってるね、とメッセージを送ってくる。
家にいるフリをして男と遊ぶなんて嘘をつく性格でもないし、間違いなく家で隆史の帰りを待っているだろう。
この家にはゲームや漫画などあるし、後輩である美希と電話したりで時間を潰しているはずだ。
「うん。たっくんのお姉ちゃんをしてる時が一番の幸せだよ」
頬ずりを止めようとしない。
幸せを感じてしまうほどに呪縛の鎖は深く、複雑に絡まっているようだ。
本当にちょっとやそっとじゃ解けないくらいに。
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