45話 ピタヤのお手伝い
朔たちがエルンテルについたその日。
ピタヤと別れた一行はルシアが見つけたお店にふらっと立ち寄って食事を済ませた。
その後は近くの宿に泊まり、特別変わったこともなく次の朝となっていた。
支度を済ませたシャルロッテを含む4人は、初めてピタヤと出会った場所で待ち合わせをしており、全員戦闘用の防具に加えて武器も携帯するようにと言われていたからか、専用武器を持っている朔とルシアは各々大太刀やらヴェアボロフを手にしていた。
待ち合わせ場所では、片手にサンドイッチを持ったピタヤとバケットを持たされているルフートが先に来ている。待たせていたことに気づいた朔が謝ると、ピタヤは朝ご飯を食べるために早く来ていたのだと言う。そして、ピタヤお手製のサンドイッチをバケットから取り出して、朔達に渡してくれた。
上質な小麦粉で作られた天然のパンは甘みがあり、パキッとしている野菜と朝からは重く感じるような肉をまとめて包み上げてくれる。そして、僅かなアクセントで入っている胡椒のような調味料がさらに味を引き立てていた。
美味しいと言って食べるルシアや命の4人を見て、ピタヤは孫を見るような目で見守る。
食べ終わったのを確認すると、朔、命、ルシアの3人に各々一枚の地図を手渡した。
「これは?」
「とってきてもらいたいものさ」
命が不思議そうに紙を見る。
相変わらず黄色く古びた紙に内容は書かれていた。
3人ともに詳しい場所や見た目の説明、そこに加えて模写であろう絵も描かれている。
「それはあたしが欲しい物を書き込んだ地図さ、一人一人に相性の悪いものを用意してるからね」
そういったピタヤは、僅かに緊張した3人を見て笑う。
そしてゴソゴソとポケットをまさぐると、3つのイヤリングを取り出した。
銀色の金属でできており、吊り下げられる中心には黄色く透き通った石がはめ込まれていた。
「これは観測用の魔法石だよ、あたしの術式と連動している、その石を通してあたしも見えるんだよ」
ピタヤが説明している間に、3人はイヤリングを付けてしまう。
人間の耳とは違うルシアがつけるのに苦労していたが、そこは命がつけてあげたようだった。
だが、かなり違和感があるようで、イヤリングがある方に首を曲げては頭を振って、という行為を繰り返していた。
「ねぇ、どう?『フィリム君』?」
ルシアの様子をじっと見ていた朔を、ニヤニヤした命が冒険者名で名前を呼ぶ。
それに気づいたルシアも、いたずらをするような少年の目をしながら首をかしげて近づいてきた。
「ふ、二人とも、か.........」
「「か?」」
「かっこよくて、似合ってるとおもうよ.......?」
朔がカッコイイと口にした瞬間、命はため息をついてルシアは一瞬固まる。
そして、命は不貞腐れたような顔をして「じゃぁ行ってこよー」と背を向け、ルシアは朔の肩に手をポンポンとおいて「朔君もかっこいいじゃん」と言いながら命の後を追った。
「はぁ.....そこは可愛いって言ってあげるんだよ」
その様子を見ていたシャルロッテは、朔の横に立ってやれやれというかのように肩を上げた。
煽られたかのように感じた朔は「わかってますよ」と言ったが、シャルロッテに「さては恥ずかしかったんだ?」と返されてしまい、何ともいたたまれない様子であった。
朔がピタヤから頼まれたのは、パールオレンジと呼ばれる果実。
それはエルンテルの周りで自生している貴重な固有種で、食べたことのないほど美味しい果実をつける魔法樹だった。
その魔法樹があるのは、エルンエルから5キロ程離れたヘマ・ボスケと呼ばれる樹林の中である。
樹林は魔境と呼ばれる濃い魔力貯まりの場所であり、ピタヤからは十分に装備や毒消しなどを持っていくといいと言われていた。
「すみませーん、ヘマ・ボスケというところに行くのに、色々買いたいんですけどぉ~?」
「おぉ~いらっしゃい、あそこに行くんかい」
ピタヤにおすすめされた店には、ピタヤと同い年ぐらいであろうお爺さんが白い髭を生やして座っていた。かなり髪も抜けてきており一番上はお店のライトを反射して光沢を作っている。
更には細いフレームで丸いガラスの入った眼鏡をかけており、とてもやさしそうであった。
「何を買いたいんじゃ?」
「一応、植物毒の毒消しとご飯、あと、傷薬と包帯を」
「そうじゃな、後はこの外套を持っていくのはどうじゃ? あそこは毒を吸わせてくるからのぉ」
商品を用意してくれていたお爺さんは、一つの外套を取り出した。
青い生地に白い装飾でかなり目立つ見た目をしている、さらにフードもついていてギザギザの牙のような装飾が印象的だった。
「これは毒除けの外套じゃよ、あの森に行くならこれは着といた方がいい、毒除けと魔力隠蔽の魔法がかけられておるからの」
「お値段はいかほどに.......?」
朔が自分の財布を見ながらお爺さんの顔色を窺うと、お爺さんは「何ステラあるんじゃ」と言った。
財布を見た朔は「10.......」とだけ答える。すると、お爺さんはお店の棚からもう一つの箱を取り出した。
「これはちょっと古いんじゃがのぉ........まぁこれなら全部合わせて3ステラと500オリザじゃな」
「え、魔道具をそんな安くで?!」
「それは古くて売る機会もなかったからの」
お爺さんは、戦闘用の服を着ている朔に外套を放り投げる。
すると、ふわりと広がって勝手に巻き付いた。
「おぉ、、、すごいなこれ」
「魔道具じゃからの」
お爺さんは丸い銀縁の眼鏡をクイっとかけなおすと、朔に一つの瓶を投げ渡した。
「これは......」
「パールオレンジのなる木にな傷をつけると樹液が出て来るんじゃ、それはとてもうまいらしくての、魔物が寄ってくるから取りにいけないじゃ、だから取ってきておくれ」
「もちろんだけど、、、そんな、大変なんですか?」
朔が疑問を持つと、お爺さんは僅かに目を細くして語り始めた。
それはお爺さんが若い頃の話だった。
パールオレンジの生る木は10mを超える巨木であり、高い生命力を持っているそう。
その木の樹液には魔力がたっぷり含まれており、一口飲めばたちまち元気になる代物だったそうだ。
だが、それはとても貴重で取りに行く人もほとんどいないために、めったに市場には出回らなかった。
お爺さんは若いころにそのうわさを聞きつけて、何とかパールオレンジの木の元までたどり着くことはできたが、パールオレンジの木を見た瞬間、意識が朦朧として気を失った。
そして、気づいた時には森の入口で寝ていたそう。
お爺さんが後から聞いた話では、パールオレンジの樹液には魔獣を寄せ付ける効果があるらしく、寄ってきた魔獣にやられたのではないかということ、そんなことからお爺さんは森には行ってないそうだった。
話を聞いた朔は、もらった瓶を鞄の中に突っ込むと、お礼を言ってお店の外に出た。
お店に入るまでは曇り空だったかが、気づけば外は晴れており、僅かな風が足元の煤を舞い上がらせる。
思わず顔をしかめた朔は顔についた煤を手の甲で伸ばしてから、エルンテルの外に出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
子供たちが与えられた任務をする為に散らばった様子を見たシャルロッテは、別にピタヤからついてきてほしいと声をかけられた。向かった先はエルンテルから馬車で1時間半で40キロ、5000mはあろう氷山の一角だった。
薄い酸素と冷える身体を無理やり魔力で強化して、氷山を登っていく。
だが、先を進むピタヤは、普段の散歩道にように平然と歩みを進めていた。
「はぁ、はぁ.........やっぱり、このエルンテルの周りは複雑な地形ですね.....」
「そうだね、高い山に囲まれてるからねぇ、、、、」
息切れをしながら歩むシャルロッテに合わせて、ピタヤは一旦足を止める。
そして、水筒を取り出して蓋を開けた。
注ぎ口からは白い煙が立ち上って、程よい柑橘の匂いがする。
ピタヤの魔法で浮かせられたコップは、とぽとぽと軽快な音を立たせ柑橘の葉から作られたお茶で満たされた。
水蒸気が白く冷えて真っ白く見える。
僅かな間にできた小さな雲は僅かな風でも散っていき、次々と生み出されては冷えた空気に霧散していた。
「あったまります」
「あんた、さむいのにがてなのかい?」
「まぁ、すこしだけ」
「ふぅん、狐系の獣人なのに珍しいね」
休憩を終えると、ふたりは再び歩き始めた。
登り始める前はほとんど積もっていなかった雪が、いつの間にか靴が隠れるほどまで深くなっており、歩くのが大変になってきていた。
積もった雪を踏み固めながら歩いていくと、坂道がゆるくなっていく。
草木が一本もなかった山にちらほらと低木が見えてきて、次第には雪には似合わないような美しいツツジの花が咲いていた。
「この現象は......」
「まだ序の口だよ」
驚くシャルロッテをよそに、ピタヤは花には目もくれず先に進む。
更に1㎞ほど進むと、急に森が途切れて自然にできたであろう直径10キロはありそうなカルデラが出てきた。
山にできた大穴は、そこだけ気候が違うかのように川が流れており、中心にはたった一本だけの巨大な木がそびえたっていた。
「別世界だ.......」
「この中は火山の熱で暖かくてね、寒さで生きれないような草花がいきていられるのさ」
なかなか見ることのできない風景にシャルロッテが見入っていると、ピタヤが姿勢を低くした。
それと同時にピタヤから腕を引っ張られたシャルロッテは驚く暇もなく声を殺して姿勢を低くする。
理由は直ぐに分かった。
バサバサという巨大な羽を動かす音とともに、竜巻でも起きたのかというぐらいの強い風が髪を揺らす。
下げていた頭をあげると、そこには2匹のドラゴンが降り立っていた。
全身が灰色をしているドラゴンと、灰色に腹部が黄色く変色しているドラゴンが仲良さそうに巨大な肉片を分け合って食べている。遠くから見るからではあるだろうが、その様子は見る者の心に僅かな温かさを与えた。
「王族のお嬢さんは、知ってるかい? 街の近くにドラゴンがすみ着いたときの対処法は」
「私はこれでも教師、それぐらいは知ってます、卵を産んだら直ぐに親を殺す、ですね」
「そうだね、ドラゴンの卵は自力で孵ることができる、そして、子ドラゴンそのものも自然界では無類の強さだね..........」
「そして、親は子供が食べやすい人間などの大きさの獲物をよく狙うようになる.....でしたっけ」
「そうだね、よく知ってるじゃないか」
ピタヤは持っていた鞄から、5個の杭を取り出した。
それは結界術に使用されるもので、この為にピタヤが用意していたものだった。
「あたしはこれを使って大穴全体に結界を張る、だからあんたはその後あたしと協力しておくれ」
「分かりました、やるだけやってみましょう」
ピタヤはシャルロッテに結界を作るための杭を2つ渡すと、逆方向へと歩き始めた。
カルデラの円周上に5つの杭が等間隔に打たれる。
そこにピタヤが魔力を流して魔法を発動させた。
約10キロ先を挟んで一筋の光が対岸まで伸びていく。
その光は五芒星を作ったかと思えば、上に膨らんでいき美しい結界のドームを形成した。
ドラゴンが結界にとらわれたことに気づき、咆哮を上げる。
その声でピタヤとシャルロッテの二人には緊張感が走り、吹き付ける冷たい風のせいか僅かに手先が震えていた。
教えてシズテム!!~ドラゴンの被害~
(&。。)はい!ドラゴンの被害についてですね。
ドラゴンはカルデラや大きな谷底、海の孤島などに巣を作ることが多いです。基本的には人里離れた場所ですね。ですが、稀に人里近くに巣を作ってしまう場合があります。
大型の魔獣や動物を食らうドラゴンで刺激しなければ襲ってこないドラゴンですが、子育ての時期だけは違います。孵化したドラゴンの子供が食べやすい人サイズの動物を頻繫に襲うことが増えるんです。
ドラゴンにとっては人里はお菓子袋ですね。
ですので、冒険者ギルドの間では人里近くのドラゴンのつがいは卵を残して狩ることが推奨されています。




