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飽和する世界の夜明けから  作者: takenosougenn
第三節 機械都市エルンテル

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41話 最強のナビゲート

 浅久良に一番強いであろう氷山の王を押し付けた全身包帯は、短い転移を繰り返してミーニスと共に氷山の王の所に向かっていた。


「次の転移、右に15m20㎝」

「はーい」


 ミーニスが転移する場所を口にすると、普段は自由奔放な全身包帯が素直にその場所に転移をする。

似たような行為を数回繰り返すと、10m先に銀狼とその取り巻きが現れた。



「手筈通りにお願い!」

「行きます!!」



 全身包帯は周りにある木々に手当たり次第触れると、バッと勢い良く両手で五指をかみ合わせた。

その瞬間、全身包帯が触れたはずの木が一斉に消えて銀狼と取り巻きの周りに現れる。


 細い針のような木の葉っぱに積もった雪がふわりと舞い上がって、視界を白く染める。

それによって、銀狼と取り巻きは分断されてしまった。


 銀狼が「あぉ~ん」と軽く遠吠えをすると、分断された取り巻きの狼達が全身包帯とミーニスによって向かっていく。



「ちょ、どうしましょう、みんな付いてきてますよ!!」

「そうしないといけないのよ」



 ミーニスはそういうと、両手を広げて向かってくる狼の群れに向かって電撃を放つ。

空気中をバチバチという破裂音と共に電撃が走ると、狼の群れは一旦その場に固まった。

だが、自身にその電撃があまり効かない事を察した狼の群れは、再び二人に向かって走り出した。


 そこで、全身包帯とミーニスは一旦その場から離れると、高い木の上で様子をうかがうことにした。

元々群れていた狼の群れは、氷山の王を背中から刺させないために、敵である全身包帯とミーニスを探し回っている。だが、流石に鼻が利くオオカミといえど、転移で逃げた二人の姿はとらえられないようだった。


「ねぇ、あんたはあのワンころに勝てる?」

「うーん、そうですね、一匹ずつなら勝てますよ。見た感じと保有魔力は一個体が遥かにAは超えてますね」

「わかったわ、転移場所を指示し続けるから、そこに転移して、一匹ずつ倒してちょうだい。」

「はーい」

「まずは、そうね、南東70度、30m」


 ミーニスが指示をした瞬間、全身包帯の姿が消え去る。

そして、その場所に全身包帯が移動したことを確認したミーニスは再び索敵を再開した。


(ワンころにはたっぷりと静電気をためて標識してあげた、どこに居ようと私にはわかるのよ)


操電ライトコントロール


 ミーニスは電気を操るスキルを持っている。

術式が肉体に刻まれることのない彼女が、敵に対して唯一使える対抗手段だった。

だが、その応用範囲は思ている以上に広い。


 空中放電による敵への攻撃から、微弱な生体電気を視認することによる敵の居場所の確認。

さらには、脳波に干渉する電磁波を使ったテレパシーのような意思の疎通。

スキルの微細な制御とそこから得られる情報は、常に追い風を起こしていた。



「次は北星学園大学30度に70m」


 ミーニスが出した指示は電波となり、全身包帯の脳に直接叩き込まれる。

だが、全身包帯は慣れているのか、驚く様子のそぶりも見せず消え去った。


「さむいわね......」


 指示を出すことしかしないミーニスは、僅かにため息をついて横に積もっている雪をどかす。

風がないことも幸いだったのか冷気を放つ雪をどければ幾分かはマシになった。

そして、ミーニスは首に巻いているマフラーを少しずらすと、冷たい空気を肺に送る。

熱がこもっている身体を冷たい空気が意地悪く刺激した。



「こんな事で、てこずってるのにエルンテルを落とせるのかしら」



 ミーニスは、ギルド本部がある上に、特Sもあるのではないかと言われるエルメスを倒しきれるのか、と、不安でいっぱいだった。決して、ミーニス達が弱いわけではない。

不死鳥のケフィに、絶対領域を持つ南雲、情報戦で有利をとれるミーニスに、触れるだけで物を分解する全身包帯の4人。


 普通であれば敵なしであろう。

だが、喧嘩を売ってきた相手は、あのエルメスなのだ。

一代でギルドを作り上げ、3大ギルドと呼ばれるようなギルドを作った「斧王」と呼ばれるギルドマスター。


勝てるはずもなかった。



「あのー、ミーニスさん? もう2体目倒しましたよ」

「え、! あ、ボーってしてたわ、次は南東40度で100m先よ」



 考えていたミーニスは、いつの間にか真横に転移してきていた全身包帯に声をかけられて、顔を上げる。

そして、事前に索敵していた情報をすぐに伝えた。


 伝えられた全身包帯は、いつもの調子で「分かりましたぁ」というと一瞬して転移する。

転移した先にはミーニスが言う通り、一匹の狼が二人を探して地面に鼻をこすりつけていた。



「初めまして狼さん、じゃぁ大人しくしててくださいね」

「ガルルルル.........」

「うぅやっぱり撫でさせてくれないんですね」



 全身包帯が触れるために近づこうとすると、狼はひどく警戒して唸り声を上げる。

その様子に、狼をなでたかった全身包帯は肩を落としてマフラー代わりにしている包帯を取り出した。


 狼は全身包帯にかみつこうと、雪を蹴って走り出す。

そして、大きな口を開けながら全身包帯の脇腹に嚙みつこうとした。


 1.5mほどの狼は今さっきまで居た全身包帯に嚙みつけず、大きく空振りをする。

その隙に転移した全身包帯は、狼の後ろ足に包帯を引っかけて背後からグルグルと巻き上げた



「きゃいん!!」


 一瞬で包帯で巻き上げられて身動きの取れなくなった狼は、情けない鳴き声を上げて雪の上にゴロンと転がる。その様子を見下した全身包帯は、狼の頭の包帯を外して息ができるようにした。


 狼の明るくなった視界に、覗き込む全身包帯の見えない顔が映る。

狼はその丸い目をさらに丸くして驚きながらも、唸り声をあげた。

全身包帯は、そんな狼の様子を見てやはりがっかりしたような顔をする。


 そして、積もった雪の上に正座して座ると、狼の頭を膝にのせてなで始めた。

何回か撫でていると、急に狼の頭がぼろっと崩れる。

崩壊は瞬く間に狼全体へと広がって、その姿を消し去った。



「結局どの子も撫でさせてくれませんでした」

「そう、残念だったわね」

(この子、興奮も何もしていない、人なのかしら)


 全ての狼たちを殺してしまった全身包帯は、ミーニスの横でがっかりとしたようなしぐさをする。

ミーニスは息をするかのように狼を殺してただ平常な全身包帯を見て、一種の不気味さを感じていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇




 場所は移って、空中では霜の降りた羽をバサバサと動かす一匹の大鳥と、顕現させた燃える羽から爆発で浮力を生み出しているケフィの2体の鳥が睨みあっていた。



「なんでこうも俺の相手は冷たいんスかね」



 ゴソゴソと腰のバックから本を一冊取り出したケフィは、赤い魔力の線で4つの魔法陣を描き出す。

そして、全身から大きな爆発を巻き起こした。


「ぎゃぅ!」

「ぎゃぁ!」

「ぎゅるぅ!」

「きゅらぁ!」


 その瞬間、爆発に魔法陣が反応して爆発から炎でできた4体の鳥が飛び出した。

鳥は敵である大鳥に向かって突っこんでいく。

爆発で生まれる鳥たちは、ケフィが爆発を起こすとともにどんどん増えて行った。



「数と質どっちが勝つっスかね」



 後ろから爆破する鳥を見たケフィは面白うそうな顔をして、にやりと笑った。


 霜の下りる大鳥は爆発をまき散らす鳥の群れに向かって、一振り、ばさりと大きな羽ばたきをする。

小さな吹雪と言うべきか、雪が混じった豪風が吹き荒れ、たちまち視界が真っ白になった。

一瞬の吹雪が晴れると、爆破鳥はすっかり蹴散らされて跡形もなく消え去っていた。


「へぇ、少しは.....」


 ケフィは突っ込んでくる大鳥をよけながら、感心したような顔を浮かべる。

もう一度本を取り出したケフィはパラパラとページをめくって、よさそうな魔法を探し始めた。


 大鳥はそんな余裕の表情をするケフィに向かって、雪の混じった暴風を巻き起こしながら突っこんでいく。だが、ケフィは涼しい顔で本から目を離さずに、爆発でいなしていった。



「うーん、くだらない魔法ばっかっスね、あ、これとか......」



 本を閉じたケフィは爆発で大鳥の周りを縦横無尽に飛び回る。

大鳥はそのあとを追いかけ回すが、一切追いつくことができずにおちょくられるばかりであった。


 追いかけっこをし続けて30秒程立ったとき、大鳥とケフィは同じ場所に戻ってきていた。

ケフィは追いつけない大鳥をみて、ニヤリと口角を上げる。

大鳥は何度もよけられているにも関わらず、再び突っ込もうとした。


 刹那、白い閃光がケフィと飛び回っていた空間全体を取り囲むように覆いつくす。

全方位からの爆発を浴びた大鳥は、綺麗だった羽が解けて飛ぶのが精一杯になっていた。



「これはいいっスね、過去に起こした爆破をもう一回、さらに数倍の威力で爆破できる」



 様々な魔法を使ったにも関わらず、ケフィは元気な様子だった。

一方、大鳥は既に戦える状態ではなく、満身創痍でどうやって飛んでいるのかもわからないほどであった。


 それでも大鳥は抵抗することをやめなかった。

吹雪も混じらない弱い風で、山をあらすケフィを何とか退治しようとする。

だが、ケフィは無慈悲だった。


 神剣を持ち伝説の不死鳥である彼にとってしてみれば、山の主の大鳥など矮小な存在にしか過ぎなかったのだ。満身創痍になった大鳥に向かって、覚えたばかりの新しい魔法を畳みかけていく。



「もう、終わりにするっスね」



 ケフィの赤い目が金色になったかと思うと、燃えていたケフィの翼の片方が黄金の翼へと変化する。

そして、その黄金の翼を一度降った瞬間、今までとは比にならないほどの強大な爆発が起こった。

一瞬の爆発が終わり、その場には塵一つ残らなかった。


 大鳥は跡形もなく消え去って、あたかも居なかったかのような静寂に包まれる。

ケフィは山の主の一匹を跡形もなく消し去ったにもかかわらず、平然とした様子で雪の地面に降り立った。


「はぁ、手ごたえないっスね、まだ、アリスタ君の方が強かったっス」


 ケフィは学園で戦ったアリスタの事を思い出して、大鳥に弱さにがっかりとする。

そうこうしながら、山道を歩いて浅久良の下に向かったケフィはあり得ないものを目にした。


「え、マジっスか」


 そこには、血を吐き、雪の上に倒れている浅久良の姿があった。

口元の雪は血で赤く染まりながら凍っている。


 ケフィは辺りに銀狼が居ないことを確認すると、そっと浅久良の首を触った。

浅久良の脈は止まっていなかった。

触れると、とくとくと脈の振動が指に伝わってくる。

だが、浅久良の体はかなり冷えており、その脈も弱まってきていた。



「うーん、一旦ここを離れるしかないっすね、早くあの二人が戻ってきてくれるといいっスけど」


 ケフィは意識を失っている浅久良を背中に背負うと、狼の群れを相手している全身包帯とミーニスの下に向かった。

ミーニス


浅久良、全身包帯、ケフィと行動を共にする美しい女性。

赤い髪の毛に顔の傷が特徴的である。

術式を扱うことができず、常に使っている電撃はスキルの能力である。

だが、扱いにたけておりその幅と応用力は、底なしの包囲網と情報を生み出す。

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