9話 最強とは
ラスネルの声により会議が始まった。
あれほど騒がしく言い合っていたエルメスとアナスタシアが会議が始まった途端、大きなため息をついて席について資料を読み上げる。
「今回我がアナスタシアギルドの調査ではこの街から1キロほど離れた洞窟で魔獣の大量発生が起こっていることが判明したの。魔獣のランクは最低Dランク最高はSランクが見受けられた。最悪特Sに片足突っ込んでるやつもいるかもしれない、そして群体ランクでもSランクと判断した。
そこで、エルメスギルド、ケルデリエムギルドを要請して3ギルドで対応することとしたわ。」
「で、作戦はなんだ、アナスタシア」
「資料を見てもらえばわかると思うけど、スタンピード発生後、我がギルド所属のリヌイ・マルティネス一人を戦場に投下する。彼が7割を消し飛ばすと思うけど、残りの3割はたぶん散り散りになって逃げるからその撃墜に当たってもらうわ。報酬は個人持ちだけど安全優先でお願いね。」
「要するに、あんた達のおこぼれを始末しろってことだろ?」
「まぁ、そうよ。でもおこぼれと言っても高ランクの個体ばっかになるわ、油断してると素材も自分の命もおとすわよ。エルメス。」
一応の説明が終わり、ランクの高い面々は渋い顔をして黙り込んだ。
代表は自分のギルドの利益と安全を考え、周りの従者や作戦の中心となるものはどうすれば分からず固まっている。その雰囲気を感じたのか、今まで黙っていたケルデリエムが口を開いた。
「それでは継撃部隊の編成をしましょうか。報酬は個人といえど高ランクの魔獣には複数で当たらなければいけません。我がギルドのメンバーは特にそうです。なので継撃部隊の作戦をきめてしまいましょう。」
ケルデリエムのその一言により、議論が再開した。
高ランクの大人たちが真剣に議論している様子を見て、朔と命は何もできずにいる。それも仕方ない朔はまだ異世界に来て間もない上に命はまだCランクの下っ端なのだ。クロエはアナスタシアと一緒にどうやって部隊を編成していくか話し合っている。
朔と命の2人はその様子を眺めていた。
「なんか、大変そうだな。」
「私が転移する少し前まではよくあったらしいよ。各地で戦争があってたらしいから。」
朔と命は会議の隅っこでひそひそとお喋りをしていた。一時経つとかなり話がまとまってきたらしく、徐々に会議室のざわめきが落ち着いた。
「あーみなさん?いいですか、それでは継撃部隊の編成の仕方が決まりましたのでお伝えしますね。
まずは…」
ギルド長3人が話し合ったことをケルデリエムがまとめて全体に発表する。
・継撃部隊はAランク上位以上の冒険者を隊長とする4人の小隊とする。
・各ギルドから1人づつ小隊のメンバーを招集して高ランク冒険者につける。
・継撃部隊はリヌイから数キロ離れたところで囲むように待機して一切の魔獣を逃がさないようにする。
以上の事が決定したようで、ケルデリウムが口を閉じても誰も反論することは無かった。
まだスタンピードまでは少し時間がある事から、明日の内に小隊の顔合わせをすることが決まり、そのことで会議が終了し解散となった。
一夜経って、朔が指定された居酒屋に行くと既に小隊のメンバーが集まっていた。
地味なローブを着た背の高い男と、軽装の背の低い子供、そして大きなモフモフのしっぽが3つも
ついた女性が集まっている。事前にクロエから言われた通り、本名の「斥宮朔」ではなく冒険者名の「フィリム・エヴァーローズ」の名で自己紹介をした。
ローブの男はエルメスギルドのSランク冒険者で小隊のリーダーを務めるとのことだった。
名前はアルダーといった。
子供は名前をカルロアといい、リヌイが建てた孤児院の年長の子供らしくケルデリエムギルドの所属だった。
女性は名前をエーラエントといいエルメスギルドの魔法使いだった。
「それでは全員揃いましたことですし、全員が主にできることを確認して陣営を組みましょう。私は死霊術師でアンデットを呼び出したり死体を操ります。」
「お、俺は短剣使いだ。これでもBランクくらいの魔物なら一人でも倒せるけど大きな戦場はこれが初めてだ。」
「私は、魔法使いです。炎系の魔法を主として少し風と回復ができます。ただ体術はからっきしなので誰か守ってくれる人が必要です。」
「あー俺は、体術使いだ。特異スキル持ちで身体強化ができる。クロエさんとリヌさんの下で修業はしているが、まだ戦闘経験はほとんどない。」
アルダーが少し考えて、エーラントにカルロアを護衛としてつけて、朔を前衛として全体をアルダーが守る形となった。朔が倒した魔物をアルダーが死霊術で取り込んで戦力としていく作戦である。
そのうえでエーラントが後方から魔術を撃ち続ける形だ。
「フィリム(朔)さん、私たちはリヌイ・マルティネスから比較的近い戦場に配属される予定です、彼は最年少で特級となった冒険者です。初めての戦場で彼の戦闘を見れることはとても運がいい。あなたは年齢を考えると学園へ入学するのだろうと思います。最強を学ぶチャンスです。」
アルダーは本当はAランクの冒険者であるが、このような大きな戦場ではSランクへと昇華される人物である。その本質は死体を取り込みながら大きくなる死霊軍であった。
一人で大軍を成せる彼は、一人で3人を守りながら魔物を排除する事など容易だが、それでも格下で邪魔な朔を前衛としたのは、朔というリヌイ・マルティネスの家の下で修業を得た子供の実力を見たかったためである。
解散するときにアルダーが呟いた「さぁ、どれだけ。戦えるのでしょうか…」という、興味と期待が込められた呟きは朔には聞こえてなかった。
「朔くーん、クロエさんはリヌ様と一緒に行動するんだって、私はケルデリエムギルドの人がリーダーだったんだけど、朔君はどうだった?」
「俺は、エルメスギルドの人がリーダーだったよ。死霊術師らしくて結構強い人らしい。」
朔が家に帰ると、玄関で靴を脱いでいた命が話しかけてきた。
命はケルデリエムギルドの大剣使いがリーダーとなったらしく、ケルデリエムギルドでは珍しいゴリゴリの戦闘をタイプの冒険者だった。
朔がアルダーの話をしていると、丁度食器を運んでいたクロエが話に割って入ってきた。
「もしかして、エルメスの死霊術師ってアルダーさんのことですか?あの人は対軍においては最強ですからね~招集されてるとは思いましたけど、個人じゃなくて隊長を務めてるんですね。」
クロエの話によると、アルダーは昔の戦争のときに名前が広まったようで、ちまたでは「不死軍の王」などと呼ばれているとのことだった。
朔たちはそんな他愛のない話をしながら準備を整えていった。
先のスタンピードに備えて顔合わせが終わり皆が準備して数日たったころ。
洞窟で魔獣が大量発生したことによって洞窟の資源が付き、魔物たちは外の世界に資源を求めて群れを成した。目標はマルティネス領の町である。
魔物は人間たちから発せられる魔力と餌を求めて真っすぐ進軍した。
魔物が進む先にはたった一人が待ち受けていた。
中性的な顔立ちでひょっと見れば子供と間違われてもおかしくないほどに可愛らしい。
真っ赤の刀身を地面に突き刺し、その上に手を重ね赤い髪の毛と尻尾の毛をたなびかせている。
普段ならその莫大な魔力に怯えて近づかない魔物たちも飢えとスタンピードの興奮により、存在を無視してまっすぐに突っ込んでいこうとした。
1人 対 多数。
本当ならば蹂躙されるべきそれはたった一言呟いた。
『始剣解放』
地面に突き刺された剣とリヌイの全身から、莫大な熱量が溢れ出し炎の大波となって魔物たちを飲み込んだ。
低級の魔物はその炎に触れるだけで灰と化して霧散していき、一瞬耐えた中級の魔物すらも全体が黒く炭化して身動きが取れない状態となった。それでも耐えることができた高ランクの個体は、真っすぐ進軍したり四方へと散った。
リヌイは、生き残った個体の中でも凶悪且つ多大な影響をもたらしそうな個体を選別して一瞬の間に殺していく。一体倒したらまた一体、瞬間移動のようにみえるほど魔物の間を高速で駆け抜けてたった一人で群れのほとんどを蹂躙した。
「あー1体厄介な奴がいたなぁ、」
高速移動しながら高ランクの魔物を倒していたリヌイの刃を受け止めた個体が一体存在した。
知能を有するリッチといわれるアンデットの個体だった。
リヌイの手によってSランク相当の個体は既に狩りつくされていたが、この個体は既に特Sへと片足を突っ込んでいた。身に着けている装備などから推測するに生前は僧侶であったことが伺われた。
リヌイは大きく振りかぶり剣の刃を炎で強化して斬撃を浴びせるが、リッチの修道服を傷つける程度だった。上に周りのアンデットから魔力を吸収して永遠と回復し続けていた。
リッチは水の刃や雷などの様々な魔法用いて、攻撃してきた。
強固な防御結界をまとったリヌイにとっては目くらまし程度にしかならないのだが、リヌイはリッチに対して自分より格下の相手を中々倒しきれない苛立ちが徐々に積もっていった。
「あ゛ーめんどくさい、アンデットなんて普通、物理攻撃で倒さないって!!」
そう叫んだリヌイは剣を地面に突き刺した。
リッチの攻撃をかわしながら、大きく深呼吸をする。
すると今までリヌイを守っていた炎が白い光の粒子のようになってリヌイの中に入り込んだ。
「神聖魔法ピューリーフレイムっ!!」
リッチを紫の炎が取り囲む、いままでアンデットの不死性で余裕そうにしていたリッチが、今更消えたくないと音にならない叫びを発した。
「ふぅ、神気に頼りすぎかなぁ、神聖魔法は苦手なんだよなぁ。」
リヌイは地面に突き刺していた始剣を再び手に取って辺りを見回した。
地面からはどす黒い魔力が立ち上っており、消えかけていたリッチの骨がカタリと鳴った。
教えてシズテム!!~神聖魔法って?~
(#・・)
神聖魔法とはアンデットを浄化する魔法のことです。
神とついていますが、神の力ではなく浄化魔法です。
因みにりぬ様はアンデットを神聖魔法を使わずに莫大な魔力と操る炎によって無理やり浄化していました。




