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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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突然彼氏が浮気女とは付き合えないから別れようと言ってきた。 ウチは彼氏以外の男達と寝ただけやのに、なんでそんなこと言うの!? 妊娠さえせえへんかったら浮気にはならんはずやろ!? 意味わからん!

作者: panpan


 ウチは真由まゆ

今年20歳になったばかりの新社会人。

ウチは今、同い年の彼氏……拓海たくみとおしゃれなディナーを楽しんでる。

拓海は容姿は普通やし、お金持ちって訳でもない……。

でも関係ない。

ウチは優しい拓海が好きなんや。


「ここの料理……どれもこれもおいしいな!」


「そうやな……」


 今日は拓海と付き合ってから7年目の記念日!

だから全力で楽しもうと思ってたんやけど……なんか今日は拓海の顔がすごく暗く見える。

なんか思いつめてるって感じ?


「拓海、どないしたん? 具合でも悪いん?」


「……」


「拓海?」


「……真由。 俺ら、もうこれっきりにしょう」


「……は? どういう意味?」


「俺と別れてくれって意味や」


 拓海の言葉にウチは思わず手に持っていたフォークを落としてしもた……。


「なっ何をいってんの? しょっしょうもない冗談はやめ……」


「冗談やない。 俺は本気や」


 拓海の目は……今まで見たことがないくらい冷たかった……。

軽蔑……憎悪……そんな嫌なもんがそこにあった……。


「なっなんで……なんでそんなひどいこと言うん!?」


「ひどいやと?……浮気したお前が何を言っとるんや」


「うっ浮気? ウチ、浮気なんてしてへんで!?」


「もうそういうのええよ……全部調べたから」


 拓海はそう言うと、自分のスマホを取り出し……突き付けるように画面を見せてきた。

そこにはウチが”拓海以外の男”と腕を組んでホテルに入っていく姿が写っとった。


「なっなんやの!? これ!」


「ずっと前からお前の様子がおかしいと思ってな……気になって、探偵やってる友達のおっちゃんに無理言って調査を頼んだんや。

そしたらどうや? ボロボロとアホみたいに浮気の証拠が出てきたやないか……。

それも1人2人やのうて……何人も……。

初めて見たときは気が狂いそうになったわ!」


「でっでも……そんな写真……」


「これだけやない! お前……あろうことか俺の家で弟と浮気しとったやろ!?

弟とヤッてる動画もあるで!?」


 拓海はスマホを操作し、再度ウチに突き付けた……。

そこにはウチが拓海の弟であるじゅんとリビングで行為に及んでいる動画が流れ取った。


「なっなんなんこれ!? こんなん盗撮やん!! 最低!!」


 場が場やから無音やけど……ウチが恥ずかしくて思わず声が裏返ってもうた。

でもしゃーないやろ?

公の場であんな動画流されたら……。


「これは俺の家に設置されているペットカメラで撮ったもんや。

そもそもカメラの前でアホみたいに盛りまくっとるお前らが間抜けなんや。

第一、最低って……どの口で言っとんねん。

最低なのは彼氏がおるのに何人もの男と浮気したお前やろ!?」


「あぁもう!! なんなん!? さっきから浮気浮気って……ええ加減にして!」


「ええ加減にするのはお前や! これだけ証拠が揃ってるんやから……潔く浮気を認めたらどうや!?」


「だから……なんでこれで浮気になるん!? ”ウチは拓海以外の男と寝た”だけやん!!」


「……は?」


 拓海がウチに突き付けてきた証拠はどれもこれも……ウチが拓海以外の男と関係を持っていたという証明になってる。

でもな?……だからなんなん?


 ”彼氏のいる女が彼氏以外の男と寝た……それがどうして浮気って話になるん?”


「ウチはただ拓海との夜が物足りんからほかの男の人に”協力”してもらっただけ!

拓海に愛想尽きたとか……他の男が好きになったとか……そんなんやないねん!!」


「お前……何を言うとるんや?」


「拓海こそ何を言ってるん!? ウチはちゃんと避妊はしてたし……彼氏がおるから付き合うことはできひんって、ちゃんとみんなに伝えたで!?」


「そっそういう問題やないやろ!? 俺以外の男と関係持った時点で浮気や!」


「わからんわからん!! 拓海の言っていること、何1つわからん!!」


「……じゃあ聞くけど、お前の言う浮気ってなんや?」


「はぁ!? そんなん決まってるやん。 ”女が彼氏や夫以外の男の子供を身ごもること”やろ? 常識やん!」


「いや……それもそれでアウトやけど……。 まさか真由……子供さえできひんかったら浮気にならへんって思っとるんか?」


「当たり前やろ!? 何言うてるん?」


 そう……ウチは中学生2年くらいの頃にママに聞いた。


『浮気っていうのは、旦那や彼氏以外の男の子供を身ごもることや。

だから避妊さえしっかりしとったら何してもええねん。

それやのにあのアホ旦那……大げさに離婚やなんや騒いで……』


 同じ頃……ママはパパと離婚してもうた。

理由はママがパパ以外の男と浮気したから……。

だけどママ自身は、ただ男と寝ただけで浮気扱いなんてひどいって……呟いてた。


『そもそも女を満足させられない男が悪いんや……。

こっちは家族関係を壊したくないから……ほかの男でストレス発散させてただけやのに……ホンマ、世の中神経質な男だらけで嫌やわ』


 今まで普通に付き合ってきたけど、拓海もママが言う神経質な男やったんや……。

でも大丈夫や。

拓海はパパとは違う……話せばきっと、拓海もわかってくれるはず。


「ママが言うてた! 妊娠さえせえへんかったら浮気にはならんって……だからウチ、拓海を悲しませたくないと思って……ストレス発散をいろんな人に手伝ってもらっただけやねん!」


「……」


「なあ拓海……別れるなんて言わんといて。

ウチら7年も付き合って来たやろ?

こんな"しょーもないこと"で終わりにしてええの?」


「しょーもないことやと?」


 なんか一瞬、拓海からどす黒いなんかが見えた。

思わずゾクッっとしたけど、拓海はポケットから小さな小箱を取り出してテーブルの上に置いた。


「これなんかわかるか?」


「それ……もしかして、結婚指輪?」


「そうや……お前にプロポーズしようと思って、バイト代頑張って貯めて……ようやく買えたんや」


「そっそうやったんや! もちろんプロポーズはOKやで!」


 嬉しい!

なぁんや……浮気とか別れるとか言って……ウチにプロポーズしてくれる気ぃやったんやな!

あぁ……これがいわゆるサプライズって奴?

ちょっと悪趣味やけど、まあええわ。


「ありがとうな、拓海……えっ?」


 小箱を手に取って開けると……そこには指輪を入れる為のみぞがあるだけで、指輪そのものがなかった。


「これ……どういうことなん?」


「わからんか? 俺はもうお前と結婚する気がないってことや……いやそれ以前に、これ以上交際も続けてられへん」


「そっそんな……」


「俺はホンマに真由と結婚する気でいた。

お前とならええ夫婦に……家族になれると思った……。

一生をお前に捧げてもええ……それくらいお前が好きやったんや。

そんな女にここまで裏切られた俺の気持ちわかるか?

信じてた弟に寝取られた俺の気持ちが……お前にわかるか?

わからんよなぁ……わかってたまるか!」


「拓海……何を言うてんの?

寝取られたなんてオーバーや!

準君がな? 付き合ってる彼女の体が貧相すぎて満足できひんってウチに相談してきて……それでウチが、彼女の代わりに相手しよか?って……発散に協力しただけやねん!

もちろん避妊もしたし……ウチも準君もお互いなんの感情もないよ?」


「避妊とか感情とか……そういう問題ちゃうわ!」


 わからんわからん……拓海が何を言ってるのかウチにはさっぱりわからん。

なんでここまで話が通じひんの?

なんで涙まで流してるん?

拓海……どこかおかしなってしもたんか?


「もうええ……わからんならもうそれでええわ。 とにかく、俺はもうお前とは一緒にいられへん。

ここの会計は俺が出しとくから、もう2度と俺に顔見せるな!」


 ゆっくりと席から立ち上がる拓海は完全に帰る気でおった……。

あかん!

ここで拓海を帰してしもたら……ウチらは終わりや!


「拓海待って! もっとちゃんと話し合おう? ウチがほかの人とヤッたのが気に入らんのやったら、拓海もウチ以外の女の子とシテええから!

避妊さえしとったら、ウチは何も気にせえへんよ?」


「……お前、ホンマに終わっとんな。 救いようがないわ……いや、こんな女に7年も惚れとった俺も……救いようのないアホや」


 この時の拓海の目は……まるで死んでる魚みたいな目やった……。

”絶望”……この拓海を表現するなら、多分絶望やと思う。

でも……拓海が何を絶望してるのか……ウチにはさっぱりわからんかった。


「もう俺に関わらんといてくれ……頼むから……」


「拓海!!」


-------------------------------------


 結局拓海は会計を済ませて帰ってしもた……。

ウチは何度も引き留めたのに……拓海は聞く耳を持ってくれへんかった……。

電話やラインで何度も連絡したけど……ブロックしてるみたい。

家にも行ったけど……拓海はちょっと前から母親の実家のお世話になってるらしく、どこなのか見当もつかん。

拓海の両親に何度聞いても……息子を裏切った女なんかに教えられへんって……怖い顔で追い返された。

いっつもウチを娘みたいに可愛がってた2人の豹変ぶりに……ウチは言葉を失った。


-------------------------------------


 ウチはどうにか拓海ともう1度話し合おうと共通の友達に情報を求めた……。

だけど拓海から何か吹き込まれたらしく……みんなウチから去っていった。


『ごめん……真由の力にはなられへん』


 1番の親友である美香みかですら……ウチの手を取ってくれへんかった。

電話口から流れて来る美香の声色は……申し訳なさそうに聞こえはするけど、どこか嫌悪感のようなものを感じる。


「なんで? ウチと拓海の仲を応援してくれてたやん」


『そうやけど……なぁ、真由。 あんた、自分が何をしたのかホンマに理解できてへんの?』


「ウチが何をしたって言うん?」


『拓海君から聞いた……あんたがいろんな男の人とその……シテたこと。

そんであんた……それが浮気やないって思ってんの?』


「美香まで何を言ってんの? そら、ウチが誰かの子供を身ごもったら浮気になるけど……ウチのお腹には子供なんておらんで? それが浮気してへんっちゅう完璧な証拠やん!」


 ウチはそこから美香に自分の胸の内を全て話した……


『真由……あんた、1回病院で頭診てもらった方がええと思う』


「なっなんなん急に……」


『私……真由と縁を切る。 あんなに真由を想ってくれてた拓海君を裏切ったこともそうやけど……妊娠を浮気のボーダーラインに考えてるあんたの思考回路が理解できひん』


 そう言って美香は電話を切り……ラインも全部ブロックされた。


「なんで?……なんでみんなウチを責めるん? ウチが間違ってたって言うん?」


※※※


 そんなこと絶対にない!

ウチはそれを証明するために……リビングでくつろいでいるママに声を掛けた。


「ママ……聞きたいことがあるねんけど……」


「なんや改まって……」


「あのな……浮気って、彼氏以外の男の子供を身ごもらんかったら成立せぇへんやんな?

どれだけ男と寝ても……妊娠さえせぇへんかったら、何も問題ないやんな?」


「は? 何を言ってんの?」


「昔ママ言うてたやん……浮気って言うのは旦那や彼氏以外の男の子供を孕むことやって……」


 ママに肯定してほしかった……。

ウチは間違ってへん……おかしいのは拓海達やって……。


「何アホなこと言うてんの? 男と寝た時点で浮気に決まってるやん」


「……は?」


「えっ? 何?……まさかあんた、あんな適当に言ったこと信じてたん?

今までずっと?

アハハハ!! おもろい子やな!」


「ママ……何を言って……」


「あれはクズ旦那に離婚されたイライラから出た……いわば愚痴やな」


「そんな……ママ、ウチのこと騙してたん?」


「騙すなんて何を大げさなこと言ってんの?」


「ウチ……ママのその言葉を信じて、いろんな男の人と関係を持ってしもたんやで!?

それが拓海にバレて、ウチら別れてしもたんや!

妊娠さえせぇへんかったら浮気にならんって……何度拓海に説明しても……理解してくれへんくて……」


「ハハハ!! 理解できる訳ないやろ? おかしいのはあんたやねんから」


「……」


 ウチはここでようやく理解した……。

間違っていたのはウチやって……ウチが今までやってきたことは全部浮気やって……。

そう考えたら……拓海や美香達の反応も当たり前や……。


-------------------------------------


 ウチは頭が真っ白になった……。

そしてそんなウチにさらなる追い打ちが待っていた。


「嘘やろ……」


 最近……やたらと体調が悪いなと思い、まさかと思って妊娠検査薬を使ったら……陽性反応が出てもうた。

そんなことありえへんと思って、産婦人科にも行ったけど……結果は同じ。

ウチは……妊娠してもうたんや。


「一体……誰の……」


 お腹の子供の父親が誰なのか……さっぱり見当がつかん。

いや……思い当たる対象が多すぎて、1人に絞ることができひんと言うのが正確や。

でもちゃんと避妊はしてたはずや……こんなことありえへん!


「ないないないないない……」


 気持ち悪い……。

そう強く思った。

今まで浮気の証と思っていた子供が今、ウチのお腹に宿ってる。

ママの”洗脳”が解けた今のウチにとって……これは癌に等しい。


-------------------------------------


 トゥルルル……。


 ウチは駅の公衆電話に拓海との最後の希望を託した……。

お願い拓海……出て!


『もしもし……』


 ウチの祈りは通じた!


「拓海! 真由やで!」


『真由? なんでお前……』


「聞いて!」


 ウチは拓海に電話を切られる前に、急いで会話を進めた。


「ウチ……間違ってた! ウチは拓海がいながら他の男と浮気したひどい女や」


『なんや今更……』


「でもな? 全部ママのせいやねん。

妊娠しなかったら浮気にならへんって言うのは、ママの適当なデマカセやってん!!」


 ウチは拓海に打ち明けた……。

ウチがママのくだらん言葉に洗脳されていたことを……そして、そのせいで誰の子かわからん子供を身ごもってしまったことを……。


『そうか……』


「拓海ごめん……ウチがママに騙されたばっかりに……。

どうかウチを許して?

ウチはママに騙された被害者やねん」


『……。 おかんの嘘を信じてしまったことは同情するけど、お前が俺を裏切って浮気に走ったことに変わりない』


「そんな……ウチを可哀想とは思わんの? 拓海はウチのこと好きやないの?」


『可哀想なのはお前の頭や……あと、もう好きやないっていうことは散々伝えたやろ?』


「なんでそんなひどいこと言うん? なあお願い……ウチとやり直して、拓海」


『俺にすり寄る暇があるなら子供のこと考えたれ。 まがいなりにも母親になったんや……しっかりと責任は果たせ』


「そんなん無理やって……拓海、一緒に子供育ててくれるん?」


『アホ言うな。 俺と子供になんの関係があるねん』


「なんなんそれ!? 無責任なこと言わんといてよ!」


『どの口が言うてんねん……とにかく、俺はお前と縒りを戻さへんし、子供の力にもなれない』


「まっ待ってよ! ウチにはもう拓海しかおらんねん! 子供なんか堕ろすから……もう1度一緒に……」


『軽々しく堕ろすとか言うなボケッ!!』


 拓海はウチにそう吐き捨てて電話を切った……。

それから何度電話しても……拓海は出てくれへんかった。

なんでこうなったん?

ウチのせい?

ウチが拓海以外の男と寝たから悪いん?

でもしゃーないやん!

ウチはそれが常識やって思ってたんやから……。

ウチは浮気者なんかやない……ウチは被害者や!

悪いのは……あいつや。

何もかも……あいつの……。


-------------------------------------


「ぐぼっ!!」


 家に帰宅したウチは台所にあった包丁でリビングにいたママ……いや、この現状を作り上げた悪魔を刺した。

しかもこのクズ……ウチをこんな目に合わせといて……知らん男と楽しそうに裸でハッスルしとったんや……。

ホンマ、救いようのないクズや!


「あんたのせいで……あんたのせいで……全部ぶち壊しや!!」


「やっやめ……あぐぁ!」


「ウチの人生を返せ! ウチの拓海を返せ! ウチの幸せを……返せぇぇぇ!!」


 ウチは倒れた悪魔の上にまたがり、一心不乱体中を刺したった……

何度も何度も何度も何度も何度も……。

そして気が付くと、悪魔は血まみれのまま動かんようになった。


「ははは……ざまぁみろ!」


 罪悪感?……そんなもんないよ!

ウチは悪魔を殺しただけや……なんで罪悪感なんて感じなあかんねん!

なにもかもこいつが悪いんや!


 ピーポーピーポー……。


 なんか遠くからサイレンが聞こえる……。

多分、ウチが悪魔を刺した時に逃げた男が通報したんやろうな……。

まあそんなことはどうでもええ……。

どうせウチにはもう……何も残ってない。

刑務所に行って罪を償う気もない……。

償ったところで、ウチには誰も待ってない。

孤独しかない未来のために償うなんてバカバカしくてやってられへん。


「もうええわ……こんな人生いらん」


 ウチは死んだ悪魔を家に放置し……血まみれのままある場所へと足を運んだ。


「拓海……」


 そこは拓海の実家……。

拓海本人はおらんけど……ウチは家の壁をよじ登り、ベランダを割って拓海の部屋に入った。

せめて最期くらい……大好きな拓海に包まれながら逝きたい。


「はぁ……拓海の匂いや」


 部屋中に漂う拓海の匂いに酔いしれそうな思いや……。

そしてウチの目についたのは拓海のベッド……。

ウチはこのベッドで拓海に”初めて”を捧げた。

そして今……ここで拓海に”最期”を捧げるんや。

はぁぁぁ……なんかロマンチックな展開やなぁ……。


「まっ真由! お前、俺の部屋で何をしてんねん!!」


 だけどここに来て……奇跡が起きた。

おらんと思っていた拓海が、部屋に入ってきてくれた。

なんでか知らんけど……どうでもええ。

きっとウチを哀れんだ神様からのプレゼントや。


「拓海……拓海……」


「なっ何を……なんで包丁なんて持ってんねん」


 ウチは包丁を片手に拓海の元へ1歩1歩、歩いていった。


「た~く~み~」


「こっこっち来んな! 警察呼ぶぞ!!」


 はっきりと嫌悪感を露わにした目でウチに荒い声を浴びせて来る拓海……。

やっぱり浮気したウチを許せないんやな……当然や。

でもな? ウチかてあの悪魔に騙された被害者やねんで?


「どうしてわかってくれへんの?」


「なっ何を言って……やっやめろ!!」


 ウチは拓海に構わず……逆手に持った包丁を振り上げ、勢いよく……。


「うわぁぁぁぁ!!」


 ……。




「がっ!!」


 


 ウチのお腹目掛けて……振り下ろした。


「まっ真由……何を……」


 フフフ……意外そうな顔してるな、拓海。

まさかウチが拓海を刺すと思った?

そんな訳ないやろ?

ウチは拓海が大好きやねんから……そんなひどいことする訳ないやん。


「拓海ぃ……」


 ウチは拓海の手を掴んで腹に刺さった包丁を握らせた……。


「わかるぅ? これがウチの肉の感触やでぇ……脳にしっかり焼き付けてなぁ……」


「あ……ま……」


 口をパクパクさせとる……可愛らしいなぁ……。


「!!!」


 ウチは拓海に握らせたままの包丁を引き抜いた。

腹から大量の血が勢いよく出て、拓海の体中にべったりとウチの血がこびりついた。

アハハハ!!

マーキングやマーキング!!

なんや、拓海の体を支配しているみたいで気持ちえぇなぁ……。


「……」


 なんかだんだん視界が狭くなってきた……。

あんなに痛かったお腹の痛みもなんか消えていく……。

そうか……終わるんやな、ウチ。

でもまあええわ。

拓海の目の前で逝けるんやから……これ以上、最高な最期はないわ。


「たぁくぅみぃ……」


 一生ウチのこと忘れんといてな……拓海。

ウチが逝った後でも、ほかの女の物になったらアカンで?

ウチはどこに行っても……。



 ”拓海のこと見てるからなぁ……”


-------------------------------------



 真由が死んでから10年以上の月日が経った……。

あれから警察やらなんやら色々騒ぎになったけど……最終的に真由の自殺という形に収まった……。

みんな被害者である俺に同情してくれてたけど……1番の被害者は俺やなくて、真由の腹の中にいた子供や。

ホンマに可哀想なことしたと思ってる……。


「……」


 今でもあの時のことが脳や体に焼き付いてる。

包丁から伝わった生々しい肉の感触……鼻を抑えたくなるほどの血の臭い……何より、目の前で最期を迎えた真由のあの死に顔……。

幸せを噛みしめているような眩しい笑顔……。

大好きやった真由のその笑顔が、今は俺の心を縛り付ける戒めとなっている。

その結果、俺は鬱を発症してしまい……今でも精神科に通うようになってしもた。

処方してもらった薬やらカウンセリングやらでどうにか気を持つことはできてるけど……たびたび真由のことがフラッシュバックしてしもて……そのたびに奇声を出してしもて、周囲のみんなに迷惑を掛けてる。

多分……”真由”から完全に逃げることは一生ないんやろう……。


「あなた……どうかした?」


 そんな俺やけど……あれから会社で知り合った同僚の女性と結婚した。

妻のお腹には新しい命が宿ってる。

2人のためにも……俺はこれから頑張っていかなあかん。


「なんでもないよ」


 俺は家族と幸せに生きていく……真由のことなんて忘れてしまうくらいに。

それが今の俺の……人生の夢や!


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― 新着の感想 ―
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