【5-9.黒幕】
「え?」
と思って、ポルスキーさんたちが全員で振り返ると、メメル・エマーソンが上体を起こし、涼やかな目でこちらを見ていた。
「起きたの?」
ポルスキーさんが聞くと、メメルは苦笑した。
「あれだけうるさければねー」
ポルスキーさんは少しムッとした。
「クロウリーさんがせっかく追い払ってくれたのにそんな言い方って。あの人たちはあなたの命を狙ってたっぽいわよ」
メメルはちょこんと首を竦めた。
「ぽいね。フローヴェールじゃなくてよかったけど。さすがに恩人殺しに来るとかマジ許せないし」
いきなりフローヴェールという言葉が出てきて、ポルスキーさんはぎくっとした。
「フ、フローヴェールとは知り合い? ってゆか、そもそもあなたを眠らせたのはフローヴェールじゃないかと思ってるんだけど?」
するとメメルはあっけらかんと、
「よく知ってるね、そだよ、フローヴェール。彼の魔法で眠くなったからね」
と答えた。
ポルスキーさんはポカンとした。
「それは……」
メメルは悪戯っぽく笑った。
「口封じって言ってたかな。あなたは――イブリン・ポルスキーさんだよね」
「ちょっと、何で私の名前……」
ポルスキーさんは完全にメメルの調子に呑まれてしまっている。
メメルは微笑んだ。
「シルヴィアって人にかけられた呪いを解いたんだよね? 記事で――読んだよ」
「あ、う、うーん?」
ポルスキーさんは、確かにシルヴィアの呪いを解いたけど、『本命の呪い』の方は解けていないので曖昧な返事をした。
ポルスキーさんがすっかりメメルの手玉に取られているので、クロウリーさんは小さくため息をつくとポルスキーさんの代わりに口を開いた。
「あなたはマクマヌス副会長派? フローヴェールとの関係は?」
メメルは可愛らしく口を尖らせた。
「マクマヌス副会長派なんてとんでもないな。でもフローヴェールはたぶんそうだよね。別にあたしはフローヴェールとも仲良くはないけど。フローヴェールがあたしの呪いをどっかで見たらしくて、何か聞いてきた――そんだけ」
「シルヴィアにかけた呪いだな? 問い合わせてきたとき、フローヴェールは何に使いたいとか言ってたか」
「そーゆーのは、別に聞かない」
「何も聞かずにあっさり教えたのか?」
クロウリーさんはちょっと眉を顰めて聞いた。
メメルはペロッと舌を出して片目をつぶった。
「教えた。あたしにとってあれはもう新鮮味のある魔法ではなくなってたし。フローヴェールは悪い人に思えなかったし」
ポルスキーさんは思わずヒステリックな声で口を挟んだ。
「でも悪い人だったでしょう? シルヴィアの死を利用したって話、記事を読んだなら知ってるはずよ!」
初めてメメルは顔を曇らせた。
「……あの人はたぶん本当はあんなことやりたくなかったんじゃないかな」
「は? どういうこと?」
ポルスキーさんは驚き、不可解な気持ちで聞き返した。
メメルは、
「あたしに問い合わせてきたときかな、純粋に魔法が好きそうな真面目な感じがしたんだけど。でも――何かうまく言えないけど、端々に興味だけとは思えない――何か切羽詰まった感じがあってさ。何か不思議な感じだったから何かの用事に使うのって聞いてみたんだよね。そしたら、すげー意味不明なんだけど、『他に手段が思いつかなくて』とか何かめっちゃわけ分かんないこと言ってた」
とそのときのもやっとした感じを思い出しながら言った。
「手段? 何の話? ちゃんと話して」
ポルスキーさんがほんの少し憤った声で聞き返す。
「えーっと、どこから話したらいいんだろ。フローヴェールの恋人が行方不明なんだって。探しても全然見つからないんだって。見つからなくて途方に暮れてたときに手を差し伸べてくれた人がいたんだけど、その人は代わりに自分の仕事を手伝ってくれって言ったんだって。その『仕事』とやらに――あたしの魔法を使いたかったっぽい――って感じ」
とメメルは首を竦めた。
話しながら首を竦めるのはメメルの癖かもしれなかった。
「それって……」
ようやく話が呑み込めてきたらしいジェニファーが絶句した。
メメルは小さく肯いた。
「フローヴェールはだいぶ思い詰めた感じだったかな。なんか話しながらそのうち両手で顔覆っちゃったし。あの人、すっごく神経質そうな感じだしさ、余計に何か可哀そうっていうか」
ポルスキーさんはその物言いにカチンとくる。
「そんな同情してるけど、フローヴェールはシルヴィアを殺してて、その死を利用してめちゃくちゃな呪いを使おうとしてるのよ。それが彼の言うところの『頼まれた仕事』なんでしょう? 交換条件だからってやっていいことと悪いことくらいあるじゃない? あなただって口封じで眠らせられて。挙句命まで狙われてるのよ。なんでそんなフローヴェールの肩を持つような言い方するの」
メメルは詰られて嫌そうな顔をした。
「だって問い合わせてきたときさ、こんなことやらかす人だなんて思わないじゃん、まさか殺人まで考えてるとかさ。あたしだって、シルヴィアって人の記事を読んだときドン引きしたし、ヤベーなって思った。ああ、こりゃあたし口封じで殺されるなって。それで、やっぱりフローヴェールが訪ねて来たけど、彼ったら、ふざけてんの?ってくらい親し気に来てさ。あたしだって警戒したけど、でも不意の瞬間に眠りの魔法をかけられたんだよね。で、眠らせられる間際に彼の声が何か頭に響いて……。『ひとまずこれであいつらの目を逸らす』『申し訳ない、死んで詫びる』って。『デイヴィッド・サンチェスも無事じゃすまないだろう』って――」
「サンチェス……」
クロウリーさんが短く呻いた。
メメルは頷いた。
「ね? フローヴェールはダメだけどさ、誰が本当に悪いか、なんか分かる気するじゃん?」
ポルスキーさんはメメルを食い入るように見つめながら、半信半疑で聞いた。
「誰が本当に悪いかって、サンチェス氏のこと? フローヴェールは眠りの魔法で、むしろ何か――サンチェス氏とかマクマヌス副会長派の誰かから、あなたを守ってくれたの?」
メメルはうーんと首を傾げてポルスキーさんを見返す。
「とあたしは思ったけど、どうだろね。もちろん、フローヴェールはシルヴィアの殺害に関与してたんだし、罪は消えないけど」
クロウリーさんは厳しい顔でジェニファーの方を向いた。
「実はサンチェス氏のことはラセットが調べてくれている」
ジェニファーは驚いた。
「え? ラセットが? 大丈夫なのか、サンチェス氏が黒幕なのだとしたら危なくないか」
「彼なら上手にやるさ。マクマヌス副会長の息子だってこともうまく機能するかもしれない」
クロウリーさんは期待を込めて力強く言った。
それから、語調を変えて、
「それより、デュール氏のところに行かなければ。メメルにかけられた魔法が解けた以上、次はデュール氏だ。フローヴェールはデュール氏にかけた呪いを利用しようとしているんだから」
と言った。
思いがけない言葉にメメルは驚き、パッとポルスキーさんの方を見た。
「え? あなた解いたんじゃないの?」
ポルスキーさんはバツが悪そうに縮こまった。
「色々あって。私が解いたのは呪いの『バグ』の方だけだったみたいで。本命の呪いはまだ解けてないのよ」
「はあ~? なんでそんなことなってんの。『本命の呪い』って何」
メメルは呆れ返っている。
「えっと、デュール氏を媒介にして『人を操る魔法』を誰か――たぶんスリッジ会長とかにかけたいみたい」
ポルスキーさんがポリポリと頭を掻くと、メメルは、
「なるほど、そりゃ確かに大事だ。もう本家のあたしが行って、デュール理事にかけられた呪い解いてあげよっか?」
と盛大にため息をつきながら申し出たのだった。
「あ、それは助かる!」
ポルスキーさんはプライドとかあんまりない。メメルの提案に飛びつくような素振りを見せた。
お読みくださいましてどうもありがとうございます!
なんか黒幕が分かってきました。
ってゆかフローヴェールですら黒幕ではなかったという……。ややこしくてすみません。
次回、ポルスキーさんの母が「いったいあんたは誰と付き合ってんの?」と飛び込んできます(苦笑)そんな場合じゃないのに!





