表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/60

【5-2.自白の薬】

 さて、魔法協会についたクロウリーさんとポルスキーさんは、先日逮捕したモーガン・グレショックが拘留(こうりゅう)されている部署までやってきた。


 クロウリーさんがその部署に顔を出すと、同僚の職員が「おっ」と顔を上げた。

「モーガンと話したいと言っていたな。返事するか分からんが、一応声かけてみたら」

 そう言って、クロウリーさんをモーガンの独房(どくぼう)まで案内した。


 ポルスキーさんの方は、モーガンがポルスキーさんを見て何か警戒するといけないので、姿を見せないようにそっと曲がり角の手前で息をひそめて耳を(かたむ)けることにした。


「おまえに聞きたいことがあって来た」

とクロウリーさんはモーガンに話しかけた。


 モーガンは簡易ベッドに腰かけていたが、クロウリーさんに背を向けたまま、独房(どくぼう)の壁にもたれかかっている。すっかり無視を決め込んで、こちらを向く気配はなかった。


 クロウリーさんは想定内というように、それでもゆっくりと続けた。

「ずっと気になっていた。アシュトン・デュール理事を呪うのにシルヴィア・ベルトーチの死を利用したということになっているが、デュール理事にかけられた呪いは『デュール理事に好意を持った女に災難が降りかかる』というあやふやな呪いだった。いくらデュール理事を失脚させるためとはいえ、そんな中途半端な呪いをかけるために、人殺しまでするだろうか?」


 モーガンは聞いているのかいないのかもよく分からない様子だった。


 クロウリーさんは気にせず続けた。

「初めは厄介(やっかい)な呪いだしな、と思っていた。デュール理事ではなく好意を持った女の方に呪いが()くというのも複雑だったし、さらにはデュール理事に接触した時点で『呪いの種』がつき、好意を持つと『発動する』という二段階の呪いでもあった。おまえたちの存在を隠せたのも巧妙(こうみょう)だなと思っていた――」


 モーガンは相変(あいか)わらず何も答えなかった。


 クロウリーさんは疑問を(てい)した。

「だが、やっぱり()に落ちない。人殺しまでするか? 人殺しまでしてかける呪いだったら、もっと直接的な、もっと確実にデュール理事を失脚させる呪いにするだろう。人を殺そうなどと思ったことはないが、私がおまえの立場ならそう考える。デュール理事が非情な人間だったら、身近な女に災難が降りかかったくらいで理事を辞めないかもしれないからな」


 モーガンは沈黙を貫いていた。


 クロウリーさんは低い声で(たず)ねた。

「不確実な呪いだとは思わなかったのか?」


 問いかけられても、モーガンは微動(びどう)だにしない。


 クロウリーさんはふうっとため息をついてみせた。

「もし本気でシルヴィアの呪いをかけるためだけに人殺しまでしなきゃならなかったと言うのなら、腕が悪いとしか言いようがない。はっきり言って非効率」

 少し挑発的(ちょうはつてき)な口調だった。

 そして、

「そんなだからザッカリー・エンデブロック氏にも裏切られるんだ」

と吐き捨てた。


 しかし、モーガンはそんなクロウリーさんの挑発(ちょうはつ)には乗らなかった。黙ったまま向こうの壁を見ている。


 クロウリーさんは、もう少し踏み込んでみることにした。

「しかもシルヴィアのことは二人がかりで殺していたな。一人じゃできなかったのか?」


 モーガンは何も答えない。


 クロウリーさんはわざと(あざけ)るような声を出した。

「ああ、二人じゃなかったか、おまえの弟も関わってるんだったか? おまえの弟は何を証言するかな?」

 これは揺さぶりだった。ポルスキーさんが再検死のときに見せた映像にはモーガンとフローヴェール・クレイナートの二入しか映っていなかったが、()えて「弟もか?」とモーガンに疑ってみせたのだった。

 モーガンは幼い時に両親と死別し、弟と二人で苦しい生活に耐えて生きてきたらしい。弟を害が及ぶ可能性をモーガンが放っておけるとは思えなかったからだ。


 モーガンは(かす)れた声で勢いよく叫んだ。

「弟は関係ない!」

 そしてクロウリーさんの方へ体を向けると、意地汚(いじきた)い狼のように(にら)みつけた。


 クロウリーさんは「よし、かかった」と思った。


 しかし顔や声には出さない。

 クロウリーさんはさっきまでと同じ口調で、

「そうか? 弟を(かば)うとは殊勝(しゅしょう)だな」

とせせら笑ってみせた。


 モーガンは今にも殺してやりたいといった表情になった。

眉唾(まゆつば)イブリン・ポルスキーがそう言ったのか? 大間違い、あいつの目は節穴(ふしあな)だ! (おろ)か者の性悪女(しょうわるおんな)め、もう許さん! エンデブロックも裏切り者、必ず報復する!」


 クロウリーさんは面と向かってポルスキーさんを(ののし)られたので一瞬(ひる)んだが、しかしそれを(つゆ)にも表には出さず、冷ややかな声で(さげす)んでみせた。

「おまえには無理だな。おまえの人生はこれで終わりなんだから。まあしかし、ご苦労なことだったな。あんな中途半端なあやふやな呪いのために、人殺しまでして――」


 すると、クロウリーさんが言い終わる前にモーガンが叫んだ。

「人を操るにはそれなりの対価がいるんだ! デュールの周囲の女に災難が(およ)んだのなんか俺たちの知ったこっちゃねえ、死んだシルヴィアの想いに引きずられた呪いのバグさ。俺たちが真面目にあんなくだらねえ呪いをかけたと思ってやがるのか、馬鹿(ばか)め! 呪いを()いた気になっているんだろう、間抜(まぬ)けなデュールは!」


 モーガンの言葉に、クロウリーさんは心の中で「そういうことだったのか」と思った。

『人を操る』とモーガンははっきりとそう言った。シルヴィアの死を利用してデュール氏にかけたかった呪いは『人を操る』呪い――。


 クロウリーさんはもっと深く聞きたかったが、『自白(じはく)』に気付かせないように、こちらから繰り返すことはしない。()()()()()自白(じはく)を自覚した時点で効果がなくなる。


 クロウリーさんはわざと腕を組んで鼻で笑った。

「バグか、おまえらが真似(まね)した元の呪いの方には、そんなバグはなかったけどな。おまえたちの呪いが不完全だったのを自分で認めるのか」


 モーガンは血走(ちばし)った眼をクロウリーさんに向けた。

「メメルの呪いだってよく見りゃバグはあったさ! 知らねえのはおまえたち素人(しろうと)だけだ!」


 やはり、メメル・エマーソンの呪いを真似(まね)して作ったのだ――!

 クロウリーさんはバレないようにごくりと(のど)を鳴らした。


 クロウリーさんは軽蔑(けいべつ)の表情を作って、モーガンを(にら)み返してやった。

「他人の作った呪いを盗んでよく言う。開発者に手の内バレるとは思わなかったのか?」


 モーガンは茶化(ちゃか)すように笑った。

「ふん。口封(くちふう)じしたから大丈夫さ! 今頃気持ちよく眠っているはずだ」


「口封じ? ()()()()()()()()()?」

 クロウリーさんはさも何か知っているかのように聞き返した。


「そうさ、フローヴェールだ! 俺たちの腕は悪くない! フローヴェールは……」

とそこまで言いかけて、モーガンはハッとした。まずいことを口走っていることに気付いたようだ。


 出してはならない個人名を二度も口にしてしまったことで、脳に違和感が駆け巡ったのだろう。

 先程までの興奮したような様子は鳴りを(ひそ)めて、完全に(われ)に返った表情をしていた。


 モーガンは急に無言になった。

 そして、悔しそうにぎりっと歯ぎしりすると、これ以上の何もかもを(こば)むように、ぐるりとクロウリーさんに背を向けた。


 クロウリーさんは「自覚したな、ここまでか」と思った。

 しかし、聞きたいことは聞けたと思った。これから大きな進展が望めるはずだ。


 クロウリーさんは(きびす)を返してモーガンの独房を離れた。


 曲がり角の向こう側に(ひそ)みながら、今朝調合した『自白(じはく)の魔法薬』を香炉(こうろ)()いていたポルスキーさんは、戻ってきたクロウリーさんと目が合うと、ほっとしたように微笑(ほほえ)んだ。


 物音(ものおと)立てぬようにそっと香炉(こうろ)を片づけると、ポルスキーさんとクロウリーさんは無言で独房のある部屋を出た。


 そして、さっき挨拶した職員を探して用事が終わった(むね)伝えようとしたとき、この部署に突然いるはずのない人物が現れたのだった。


お読みくださってありがとうございます!(*´ω`*)


なんか真相が少し見えてきました~!

慣れない仕事をしたクロウリーさんでした。

次回、偉い人に会います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
≪作者の他の作品はこちらから!≫(↓リンク貼ってます)
新作順

高評価順


≪イラスト&作品紹介♪!≫

【短編】 「婚約者が浮気していたので流れで仕返ししたら、なんだか新恋人ができました」 (作品は こちら

幌あきら様
イラスト: 砂臥 環
【イラスト誕生秘話はこちら by 砂臥環様】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ