【4-6.容疑者】
すみません、予約投稿時間を 朝4:30頃にさせていただきますm(__)m
「家探しか。何を探す気だ? 分担しようか」
とクロウリーさんが提案したが、ポルスキーさんは軽く首を横に振った。
「いや、いいわ。まずはそれっぽい手紙や書類を全部引っ張り出すから」
そう言うとポルスキーさんは、掃除婦の老婆には寝室にいてもらったまま、自分たちは書斎らしき部屋へ移動した。
そして、デスクや書類棚、チェストを一つ一つ指差しながら張りのある声で呪文を唱えた。
ポルスキーさんの一声で、部屋中が大騒ぎになった。
デスクや書類棚、チェストの引き出しや扉がバタンバタンと開き、膨大な紙類がバサバサバサ~っと宙を舞いながらポルスキーさんの目の前に飛んできて山を作った。
「!」
クロウリーさんもジェニファーもラセットも目を丸くする。
「何だこれは」
とクロウリーさんが聞くので、
「交友関係を調べたいの。だから『手書きの』手紙や書類をね、とりあえず集めてみた。交友関係を調べるならこーゆーのを調べるのが一番かと思って」
とポルスキーさんは言った。
「交友関係というと?」
とクロウリーさんが真っ先に書類の山に近づきながら確認すると、ポルスキーさんは、
「親しい魔法使いや、魔法の情報を問い合わせてきている魔法使い――もしかしたら魔法協会のマクマヌス副会長っていう直球もあるかもしれないけど」
とポルスキーさんは少し考えながら答えた。
しばらくは4人で手書きの手紙やら書類やらに目を通していたが、ラセットは仕事柄なのかたいそう手際が良くて、「こいつは? 違うか」「出てこねーな、親父」「一般人の魔法依頼ばっかりだ」などとぶつぶつ言いながら、ポルスキーさんの3倍のスピードで書類を見ていく。
やがて、ラセットが一通の手紙に目を落しながら、
「あ、これ」
と呟いた。
他の3人が「ん?」と顔を上げると、ラセットは少し険しそうな目で、
「フローヴェール・クレイナートって魔法使いがメメル・エマーソンに魔法の問い合わせをしてるぜ」
と言った。
「見せて!」
とポルスキーさんが叫ぶ。
クロウリーさんもすぐさま寄ってきた。
ポルスキーさんとクロウリーさんが頭を引っ付けてその手紙を読んでみると、確かに、メメル・エマーソンの魔法について「原理を教えてもらえないだろうか」と問い合わせる内容だった。
ポルスキーさんは表情を固くして、そして目の前の手紙や書類の山に向かって何やら追加で呪文を唱えた。
手紙や書類たちがそれぞれカサカサ、バサバサと揺れたかと思うと、何通かの手紙が自主的に書類の山から飛び出てきた。
「何だ」
とクロウリーさんが聞いたので、ポルスキーさんは、
「この紙の山から『フローヴェール・クレイナート』に関する手紙や書類を抜き出してみた」
と答えた。
それから、小声で、「この魔法はね、大事な手紙を失くしたときに便利よ……。必要な手紙ほどよく失くなるじゃない?」と呟いた。
飛び出てきた手紙類を確認すると、やはりメメル・エマーソンはフローヴェール・クレイナートという魔法使いと何度もやり取りをし、何なら会う約束もしていた。そしてそれは、ある魔法を教えるためのものだったということが分かってきた。
そしてフローヴェールがメメルに問い合わせた魔法は、ポルスキーさんが昔市井で見た『商人の妾腹の子がかけられた魔法』のようなものだった。(厳密には一致しなさそうだったので、メメルはおそらく例の魔法を改変しては度々使っていたと考えられる。)
「このフローヴェールって人は、どこかでメメル・エマーソンの魔法を見たのね。そして教えを請うた。フローヴェールって人にはメメルの『跳ね返す魔法』が使えた可能性が高そうだわ」
ポルスキーさんは呟いた。
しかしラセットは怪訝そうな顔をしている。
「イブリンの説明っていまいちよく分かんねーんだよな。ちゃんと説明してくれよ」
ポルスキーさんは顔を上げてラセットの方を向いた。
「私は二つの可能性を考えていたの。一つは、このメメル・エマーソンって魔女が、シルヴィアの呪いを作ったという可能性。そしてもう一つは、別の誰かがメメルの魔法を参考にしてシルヴィアの呪いを作ったという可能性」
ラセットは、
「うーん、まあ、そこまではオッケーかな?」
とすでに怪しそうな顔で形だけ頷いた。
ポルスキーさんは無視して続ける。
「で、一つ目の可能性だけど。メメルがシルヴィアの呪いを作ったとしたら、メメルはマクマヌス副会長派の人間ってことになるわよね。だから、さっきマクマヌス副会長との繋がりの手紙も探してって言ったんだけど、でも、今のところメメルとマクマヌス副会長をつなぐような手紙や書類は出てこなかったのよね?」
ラセットはまたしても頷いたが、
「ああ。親父絡みの手紙は確かに見てねーな。親父の派閥の人間の名前も目につかなかった。でも、読んだ端から燃やした可能性もあるから、受け取ってないとは言えないぜ」
と冷静な声で補足した。
ポルスキーさんはラセットの補足に「そうね」と同意しながらも、
「それでも、ここまで副会長派の人間と通じていた様子がないなら、副会長派としてバリバリやっていた可能性は薄いわよね。――ということは、今の状況からなら、二つ目の可能性、このフローヴェールって魔法使いがメメルの『跳ね返す魔法』から『シルヴィアの呪い』を作った可能性の方が強いんじゃないかと思っているの」
と説明した。
クロウリーさんがはっとした。
「それは……!」
ポルスキーさんは頷いた。
「シルヴィアの呪いは、ラセットたちが雑誌に書いたりしたから、そこそこ有名になってたでしょう。その噂を聞いたとき、メメル・エマーソンはどう考えたと思う? きっと彼女は気づいたと思うの。シルヴィアの呪いが自分の魔法を真似していることに。そして、さらには、自ずとシルヴィアの呪いを作った犯人も分かったんじゃないかしら?」
ラセットは「あー」と合点がいった顔をした。
「それでフローヴェール・クレイナートって奴が、メメル・エマーソンの口から自分の存在がバレる前に、口封じで眠らせたんだな?」
「そうじゃないかと思う。もちろん推測でしかないけどさ」
とポルスキーさんも頷いた。
クロウリーさんはゆっくりと低い声で言った。
「フローヴェール・クレイナートは誰かという問題だが」
「聞いたことある?」
とポルスキーさんは聞いた
「ない」
とクロウリーさんもジェニファーもラセットも答えた。
「じゃあ、マクマヌス副会長派として堂々とやってるタイプの魔法使いじゃないってわけね」
とポルスキーさんは呟いた。
表に出てこないタイプの魔法使いは厄介だなあとぼんやり思った。
そのとき、ポルスキーさんの頭には叔父の『指輪探しに使ったランタン』の炎で見た男の顔が思い浮かんだ。
しかし、ポルスキーさんはそっと首を横に振り、自分で自分の考えを否定する。
きっと、あの猫なで声の男ではない。
メメル・エマーソンに宛てられた手紙はとても明瞭で簡潔な言葉で書かれており、へりくだったような雰囲気はまるで感じなかった。教えを乞うてはいるが、魔法を知りたいという魔法使いとしての真面目さが際立っていた。
あの猫なで声の男のような他人を利用しようという雰囲気は、手紙には微塵も感じられなかったのだ。
「フローヴェール・クレイナートって男のことは調べておこう」
とクロウリーさんは言った。
ポルスキーさんは頼もしげな眼差しをクロウリーさんに向けた。
「やっとシルヴィアの敵が討てるかもしれないわね?」
クロウリーさんは少し優しい目をポルスキーさんに向けた。
「そうだな、イブリンはずっとシルヴィアの敵を討ちたいと言っていたものな」
ポルスキーさんはクロウリーさんの優しい目にほっとした。
好きなのだ、クロウリーさんのこの目が。
「おーい。このメメル・エマーソンはどうするよ? 魔法は解いてやんねーの?」
とラセットが聞いてきたので、ポルスキーさんははっとした。
「解き方まだ思いつかないわ、何の魔法かもよく分かんないし」
とポルスキーさんが言ったとき、ジェニファーが
「メメル・エマーソンの身柄を魔法協会の監視下に移そう」
と言い出した。
ラセットが怪訝そうな顔をすると、ジェニファーは、
「フローヴェール・クレイナートって奴は口封じでメメル・エマーソンを殺さなかったわけだろ? シルヴィア・ベルトーチのことは非情にも殺したのに。もしかしたらメメル・エマーソンに情けをかける理由が何かあるのかもしれない。まあ、単純に、身柄を押さえておけば後々何かの証拠になるかもしれないってのもあるし。この呪い解いてやれれば、証言も得られる」
と答えた。
「イブリン。メメル・エマーソンにかけられた魔法の解き方は調べてくれるか」
とジェニファーが聞いたので、ポルスキーさんは「うん」と大きく頷いた。
「これはまた見た事ない凄い魔法だものね。腕が鳴るわ」
お読みくださいましてどうもありがとうございます!
シルヴィアの呪いの犯人の名前が出てきました!\(^o^)/
デュール氏に叩き割られた水晶玉(※第2章参照)とかあれば、もっといろいろ分かったかもしれないですね。





