【3-6.どっちもどっちな二人】
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<イラスト:砂臥 環様>
次の瞬間にはポルスキーさんとクロウリーさんは海辺のポルスキーさんの掘っ立て小屋の前に立っていた。
「えっと、ありがと」
ポルスキーさんはクロウリーさんに一応お礼を言いながら、腰からそっとクロウリーさんの手を引き剥がそうとした。
触れられていると緊張する。別れたんだから……。
しかし、クロウリーさんはぎゅっとポルスキーさんの腰に手を回したまま離れようとしなかった。
「え、ちょっと」
「離れてほしいか?」
「あ、そ、そりゃ! 私たちは別れてるんですからね!」
ポルスキーさんは少し赤くなって答えた。
クロウリーさんは目を伏せて小さくため息をつき、そっとポルスキーさんの腰から腕を離した。
それからクロウリーさんはポルスキーさんの目を見た。
「私たちはなぜ別れたんだっけな」
「あなたが仕事で忙しかったからじゃないの」
「そういうことじゃない」
クロウリーさんは小さく首を横に振った。
「私はまだイブリンのことが好きだと何度も言っているんだがな。だめか、私では」
ポルスキーさんはドキッとした。
「だ、だめかって、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあどういうわけだ?」
「えっと、それは……」
ポルスキーさんは口籠った。ダメな理由なんて、本当はない。ポルスキーさんは盛大に拗ねているだけなのだから。
「どういう……」
クロウリーさんがずいッと身を乗り出してもう一度繰り返したその時、クロウリーさんのローブをとめていたブローチが光り、ピッと鳴った。
クロウリーさんは興を削がれたようにがっくりと項垂れた。
「大事な話をしている最中なのに」
このブローチは魔法協会の紋章が入っていた。
要するにお仕事呼び出しボタンみたいなものである。
ポルスキーさんも苦笑した。
そして、
「そうそう、これ」
と昔を思い出すように言った。
「デート中、何度もこれに呼び出されたわね……」
クロウリーさんは後ろ髪ひかれながらも、仕方がなく顔を上げた。
「行く。デュール氏の呼び出しだ、後で文句を言ってやる」
「デュール氏?」
「そうだ。シルヴィアの呪いの一件以来、あいつに昼夜問わず便利遣いされている。まあ、いい。イブリン。また明日迎えに来る。君の叔父さんにとにかく一度会ってみよう」
「あ、うん」
ポルスキーさんは少しだけ後ろめたそうな顔で返事をした。
クロウリーさんがデュール氏の下でこんな目に遭っているのは、半分は自分がデュール氏の要請を断ったせいだということは理解していた。
ポルスキーさんは何とも言えない微妙な表情で、魔法協会に戻っていくクロウリーさんを見送った。
さて、翌日の朝、時間通りにクロウリーさんはポルスキーさんの家にやってきて扉を叩いた。
いつもの通り、堅苦しい真っ黒ローブに隙のない佇まいである。
しかし家の中からはうんともすんとも返事がない。そっと窓から中の様子を窺ってみると、明かりも灯っていないし、物音もしない。
クロウリーさんは嫌な予感がした。
「イブリン……」
昔のよしみでクロウリーさんはポルスキーさんの家に無断で入った。
すると、案の定、キッチンのダイニングテーブルの上に突っ伏して寝ているポルスキーさんを発見した。すぴーっと寝息を立てている。
クロウリーさんは頭を押さえた。
それからそっとポルスキーさんの肩に手を置く。
「イブリン……時間だ」
ポルスキーさんはハッと起きた。
「あ、あああっ! 寝過ごした!? ごめんなさいっ!」
湯上りそのままのぼさぼさ髪に、地厚のナイトガウン。
昨夜寝落ちするまでいろいろいじっていたのだろう、ダイニングテーブルの上には魔法道具や工具、そして関連書物が無造作に散らばっていた。
クロウリーさんはうんざりした顔をしている。
こういうのは、昔から何度もあった。
デートの約束をしても、ポルスキーさんはその約束を心待ちにして準備をするタイプではなかった。
それどころか、いつもと変わらず寝落ちするまで新しい呪文を調整したり魔法道具をいじって遊んでいるので、大抵約束時間を寝過ごし待ち合わせ時間に間に合う方が珍しかった。
当然、外での待ち合わせは機能せず、約束をするときはほぼクロウリーさんがポルスキーさんを迎えに来る構図になっていた。
そう、ポルスキーさんは完全な社会不適合者なのだった!
言っても治らないのでクロウリーさんも容認する形になっていたが、これに関しては、さすがにクロウリーさんも快くは思っていなかった。
つまり、この二人の関係はどっちもどっちなのである。
「昨夜遅くまで何かしていたのか」
クロウリーさんがぶすっとして尋ねる。
「そうね。叔父さんのところに行くというので、役に立ちそうな魔法を探していたの。私的には作戦も考えたのよ。でも、そしたらどんどん楽しくなっちゃって。止まらなくなっちゃった」
「約束の時間ははっきり言ったはずだが」
「うん、ごめん」
「……。その『ごめん』に何か意味はあるのか? 改善する気ないだろう」
「うん、ごめん」
ポルスキーさんはぼんやりと繰り返すだけなので、クロウリーさんは呆れ果ててしまった。
「さっさと準備しろ」
「はい」
クロウリーさんは慣れた様子でポルスキーさんの居間の長椅子にどさっと腰かけた。
そして疲れているように指で目頭を押さえる。
「昨夜寝ていないのはこっちもだ」
クロウリーさんはぼそっと独り言をつぶやく。
魔法協会のスリッジ会長の発言が悪意あるように切り取られ、またしても会長派に不利なように偏向報道されそうになり、対応に駆り出されていたのだ。
朝になりポルスキーさんとの約束があるのであちらの対応を抜け出してきたのに、肝心のポルスキーさんはこんな調子なのだから――確かに呆れもするだろう。
ゆっくりしたい、とクロウリーさんはぼんやり思った。
「昔、イブリンと『導きの水洞窟』に行こうと話していて行ってないな。でも、さすがにこの状況では休めないか……」
クロウリーさんはため息をついた。
ポルスキーさんが準備できるのを手持無沙汰で待っていたクロウリーさんだったが、ふとポルスキーさんの家は落ち着くな、と思った。
自分はまあいい。
忙しくても会いたい人がいるから頑張れる。
さて、超特急で身支度を終えたポルスキーさんは、バツの悪そうな顔でクロウリーさんの前に現れて、
「ごめんなさい、準備できたわ」
と小声で言った。
クロウリーさんは苦笑する。ちゃんと本人は悪いと思っているらしい。どうせすぐに忘れるのだろうけど。
「よし行こうか」
クロウリーさんは長椅子から立ち上がった。
一先ず、ポルスキーさんの叔父、ザッカリー・エンデブロック氏と話をしてみる。(※エンデブロック氏はポルスキーさんの母の弟なので姓が違う。)
知る人ぞ知る、やや危険な思想の大魔法使いだ。
お読みくださいましてどうもありがとうございます!
嬉しいです~~~
社会不適合者なポルスキーさんです。
振り回されて気の毒なクロウリーさん。
次回、叔父さん登場です!





