【1ー1.負け犬系魔女】
本作は『創造系ポンコツ魔女は恋の救済屋さん。なお自分は(短編版)』にエピソード(事件簿)を追加したものになります。
第二章から新規エピソードです。
ややしくてどうもすみませが(≧▽≦)、どうぞよろしくお願いいたします!
★第1章イラスト★
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<イラスト:ウバクロネ様>
魔女のポルスキーさんは実年齢より見た目の方が若く見えるのもあるが、まあ少し年増に入ったとは言え、まだまだ若いと自分では信じている。
ポルスキーさんはなかなかの美人だけど、見た目にはそんなに気を使わない。
いつも決まったデザインの特注「真っ黒」ドレスに、あのお馴染みの魔女の「真っ黒ローブ」を纏うのが定番スタイル。
見た目に拘らないのは、おしゃれよりも趣味が忙しいから。趣味は魔法の研究。新しい魔法呪文を開発したり魔道具を作ったりと毎日忙しい。
役に立つものもあるが、何に使うの?というものもあって、人に首を傾げられれことは日常茶飯事だが、ポルスキーさん自身は好きでやっているだけなのであまり他人の評価は気にしていない。
そんなポルスキーさんなのでもちろん気軽な独り暮らし。人気のない海辺の掘っ建て小屋に暮らしている。
両親は健在なのだが、なにぶん年頃(※魔女年齢では)の娘を持つ親としては「結婚しろ」という気持ちが端々に表れるようで、ポルスキーさんは煩わしく感じて家を出てしまった。
まあもう一つ言うと、ポルスキーさんはその……魔法研究が趣味のわりにはそんなに魔法が上手な方ではないので、魔法を使うときの両親の残念そうな小言を聞きたくない、というのも理由としてあった。
とまあ、こんな感じで書くと負け犬系魔女かと思われるかもしれないが、ポルスキーさん本人は全くそんな気はなく、慎ましい掘っ建て小屋も自分好みにし、毎日楽しく趣味に高じて生きているので問題ない。
さてある日のこと、そんなポルスキーさんのところに、一人の若い娘が逃げるように駆け込んできた。
「追われているんです、匿ってください」と言う。
聞けば母親と二人きりで貧民街の端っこで人目から隠れるようにひっそりと生きてきたのに、母が死んだ途端、魔法協会を名乗る男が現れて、身柄を拘束されそうになったというのだ。
ポルスキーさんはその話を聞いたとき、変な顔をした。あまりにも要領を得なかったから。
「ええと、まず確認だけど、あなたも魔女よね?」
ポルスキーさんが穏やかに聞いた。
すると娘は半べそで答えた。
「私は物心つく前から普通の人間のふりをして生きてきました。ですので私はほとんど魔法は使えません。家には母が一冊だけ魔導書を持っていて、『防衛魔法』と書いてあったので、それだけ独学で学びました、母には内緒で」
ポルスキーさんは驚いた。
「防衛魔法を独学で?」
ポルスキーさんは防衛魔法が特に苦手なのである。
敵の拘束魔法を解きましょう、敵の魔力を相殺しましょう、などといったとても繊細な作業を要するので、ざっくりした性格のポルスキーさんにはあまり向いていないのだ。
ポルスキーさんは少し賞賛の目でその娘をしげしげと眺めた。
しかし、ポルスキーさんは気を取り直して、母親について質問してみた。
「魔女であることを隠し、防衛魔法の本だけ持って、貧民街でこそこそ生きてきたというのね。あなたのお母さまはお尋ね者か何かなの?」
娘は『お尋ね者』と言われて身を竦めた。それから弱々しく首を横に振る。
「何も知りません。母は何も言わなかったので……」
そこまで言ってから、娘ははたと何かを思い出したようで、ポルスキーさんの様子を伺うように上目遣いで言った。
「防衛魔法の本の背表紙の裏に、誰か友人の名前でしょうか、書かれていました。『テオドール・ホランドの死を悼む』と。それは母の字でした。それを見たとき、知人が殺されたか何かで母も身を守るために隠れる必要があったのかと思いました」
「テオドール・ホランド!?」
ポルスキーさんは思わず叫んだ。
その名前は少し前の世代ならみんな知っている!
「船なら簡単に沈めてやるさ、俺は嵐だって呼べるんだ!」
「俺はたちまち消えて見せるよ、煙よりも上手にね」
「俺は誰も信じないぞ。俺と交渉できるなんて思い上がりがいたとしたら自分を恥じた方がいい!」
新聞の見出しを何度も飾った甘いフェイスのイケメンは、その内容にもかかわらず、妙に世間の女性から人気を集めた。
彼の憂いを秘めた目つきだろうか。
どんな呪文も跳ね返しそうなしゅっとした体つきだろうか。
大胆不敵なのにちっとも足取りがつかめない知能性だろうか。
違うな、彼の女への一途な愛が、世間の女性の同情を買ったのだ。
ポルスキーさんは、あの時の奇妙な世間の熱狂を否定するように、頭を軽く横に振った。
そして気味悪そうに目の前の娘を眺めた。
「死を悼むだなんて、変なファンの一人かしら?」
「え?」
娘の方はポルスキーさんの態度に面食らって気圧されたように聞き返した。
ポルスキーさんは呆れたようにため息をついた。
「もう十何年前……? 確かに、もうすっかり彼の名は聞かなくなったけどね……。テオドール・ホランドは悪い魔法使い、結構気軽に人殺しもしちゃう犯罪者よ。魔法協会の皆さんが力を尽くして捕らえようとして、その途中で殺害したのだったわね」
娘はあまりに不穏な話に目を見開いて驚いた。
ポルスキーさんは首を傾げた。
「彼の逃走中は確かに変な女性ファンがいたものだけど、さすがに世間の熱狂が冷めた頃には、彼を擁護する人はいなくなったと思っていたわ。死を悼むって? 悼んじゃダメな案件だと思うのよね」
それからポルスキーさんは思案気な顔でゆっくりと娘を見た。
「あなたのお母さんがテオドール・ホランドの一時的なファンなだけならよいのだけど。まさか協力者? それとも、世間の皆が行方を知りたがっていた彼の恋人なんかじゃないでしょうね? もしかしたら、追われる理由はその辺にあるかもしれないわね、お嬢さん?」
「母が犯罪者の……? 私は何も知らないです!」
娘は真っ青になっている。
ポルスキーさんはちょっと気の毒になった。
しかしポルスキーさんはもっと重要なことを聞かないわけにはいかなかった。
「ねえ、ところで。私を訪ねろとは誰に言われたの?」
娘はちょっとぎくっとなった。
「し……新聞売りのおばさんに……」
嘘だな、とポルスキーさんは思った。
ポルスキーさんは「さてどうしようか」としばし無言で考えて、それから、
「魔法協会に掛け合ってあげてもよいわ」
と静かに言った。
途端に娘は困惑の表情を浮かべた。
緊張で手の指がぎゅっと握られた。
「あれ?」とポルスキーさんは心の中で思う。
しかし次の瞬間、娘が観念したような顔になった。
「お願いします」
ポルスキーさんは、この瞬間に厄介なものに巻き込まれたことをはっきりと自覚し、自分のお人好し加減に呆れながら、まあ何か事情がありそうだから仕方がないかと半分諦めた。
「それで、あなたの名前は何?」
「アドリアナ・フェルドン」
それは本当だろうなとポルスキーさんは思った。
「お母さんの名前は?」
アドリアナは先ほどの話があるので一瞬躊躇した顔をしたが、意を決したように、
「エレーナ・フェルドン」
と小声で答えた。





