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第66話 レベリング

 黒魔導士、話術師、抽出師というびっくりするくらいの後衛職だけで、冒険に出るわけにはいかない。少なくとも前衛が必要だということで、俺は、過度に露出しているビキニアーマー女剣士をパーティーに迎える決断をした。


 やましい気持ちしかないので、マルカスタに気づかれないように、ルッソに耳打ちする。


(ルッソ。お前のスキルを使って、あのちゃんねーを勧誘しろ。)

(えっ、なんで?)

(俺たちは後衛職だ。いや、むしろ非戦闘員だ。だから、あの前衛職っぽい剣士をチームに迎えるんだ。)

(じゃ、マルカスタさんに一言言ってからじゃない?)

(いや、なるべく穏便に済ませたい。頼む。)

 俺はルッソに手を合わせた。


 名付けて、『あちらから強くお願いされたから仕方なかった、俺は嫌だったんだけどね。』作戦だ。これでマルカスタは何も言うまい。


 さぁ、ルッソよ。話術師の真髄を見せてやるのだ。


 俺はサッと人目のつかないポジションに位置どり、ルッソを女剣士の元へ向かわせた。


「あの…」

 ルッソがおそるおそる、ビキニアーマーのちゃんねーに話しかける。

 俺は安全な位置から、その様子を見守っていた。

 その時だ。


「おぅ、ルッソ何してるんだ?」


 ここで、ロビン。なんてバッドタイミングだ!

 あぁ、ロビンがルッソに肩を組む。ロビン、バカヤロウ!離れろ!ルッソ頑張れ!ロビンを振り切って、ちゃんねーにアタックするんだ!!



 俺の願いむなしく、ルッソはロビンを連れて俺の前に来た。


「サーノ。最高の前衛職が見つかったよ。ロビンだ!」

「サーノもいたんだな。前衛は俺に任せろ。最高の盾術を見せてやるぜ!」

 ロビンは、自分の盾をゴンと拳で鳴らした。


 俺は白目を剥いて天を仰いだ。


 こうして、俺たちはビキニアーマーの女剣士の代わりに、中年の盾職ロビンをチームに迎え入れたのだった。



**



「極めて順調だな!」

 ロビンは上機嫌に言った。


 俺たちは、ケープリアから大河ウ・ゼス川を越えて、北のキュリカ山を目指して歩いていた。


 大河ウ・ゼス川の右岸は、ウ・ゼス川の左岸に比べて、荒野が広がっている。というのも、西国にとって、敵対する魔国や、不穏な動きがあるという北国と接する地域でもあることから、開発は遅れているのだ。

 その分、レベルの高い魔物も闊歩かっぽしているので、一般人は、足を踏み入れない地域だ。ロビンが、『それほどケープリアから離れていなくて、魔物のレベルが高いので、財宝を狙うならここだ』と言うのも、分かる。


「そうね。やっぱりルッソとサーノがいるとすごい助かるわ!」

 マルカスタも上機嫌である。


 マルカスタ、ロビンが上機嫌なのは、魔物を狩ることが順調に進んでいるからだ。


 俺は、敵の力や状態が分かる鑑別スキルのことを、ロビンにもカミングアウトした。ルッソも話術スキルで、魔物を勧誘することができると伝えていた。

 俺の鑑別スキルで、魔物の弱点はすぐに把握できるし、ルッソも魔物を狩る中で、話術のレパートリーが増え、励ます言葉を使って、味方のスピードや防御力を上げることができるようになった。


 バフ効果というやつだ。


 ワンダ軍曹のチートスキル『ブレイブハート』には及ばないが、『何となく調子がいい』具合にしてくれる。しかも回数制限なしで使えるから、ある意味チートだ。


 「ぷー、ぷぷ。」

 「そうだね。ぬかるみが増えてきたから気をつけないとね。」


 ルッソは話術スキルで、魔物の勧誘もできるムツ◯ロウさんだ。

 今、ルッソの肩に乗っているのは、『レアスライム』という珍しい魔物だ。ルッソが『かわいい』と言うので勧誘を許可した。

 このレアスライムは勧誘に成功しても俺には、魔物の言葉が分からなかった。ヒーちゃんが特別だったとも言えるし、ルッソの話術レベルが上がれば、分かるようになるかもしれない。

 マルカスタは、『かわいい!ケープリアに連れて帰ってバラしたい!』とルッソに懇願していた。幸い、レアスライムは、擬態できるようなので、マルカスタの魔の手には掛からないだろう。


 「それにしても、サーノに天職を見抜く力があるとはな。恐れ入ったぞ。」

 「ロビン、これは絶対に秘密だ。バレたら俺は鑑別マシーンとして、馬車馬のように働かされる。」


 マルカスタとロビンから、『自分自身を鑑別して欲しい』とせがまれて、仕方なしに鑑別した。ルッソのバフスキル、勧誘スキルが有能過ぎて、『結局どうやって覚醒したのか』という話になり、俺が敵の能力だけでなく、天職も見抜けることを言わざるを得なかった。


 二人のステータスはこんな感じだった。


― 名前:ロビン 種族:ヒューマン、Lv:46、状態:普通、弱点:特になし、鑑定職:盾戦士、スキル:盾術Lv2 ―


― 名前:マルカスタ 種族:ハーフエルフ、Lv:32、状態:普通、弱点:特になし、鑑定職:抽出師、スキル:ぶっかけLv2 ―


 鑑別を終えると、ロビンは『やはり天職だったんだな!』となぜか咆哮した。

 マルカスタは『スキルぶっかけってふざけないでよ!』と激昂げきこうしたが、持ち込んだ薬液をせっせと魔物にぶっかける姿は、もはや体液をかけて捕まる異常犯罪者そのものである。名は体を表すのだ。


(それにしても…)


 支援職がレベルを上げるのは大変だ。

 『ラストキル』と言って、魔物にトドメを刺せば、経験値が入る。マルカスタは今でこそ、レベルがだいぶ上がったが、最初はレベルが一桁だったので、庇いながらの戦いだった。幾度となく奇襲してきた魔物に黒魔法をかけたものだ。


 ルッソと相談して、マルカスタとロビンには、黒魔法のことは黙っている。俺が複数のスキルを持っていることになり、この世界では異端の存在になるからだ。


 とはいえ、ロビンの前衛が優秀で、黒魔法を使わなくても、マルカスタがダメージを受けることは無かったと思うが。


「ふーふーふん。」

 謎の鼻歌を奏でながら、マルカスタは薬液の瓶を指にいくつも挟んでいる。

 マルカスタは、順調にレベルを上げ、『ぶっかけLv2』のスキルを獲得したのだが、これも恐ろしい。


 マルカスタが抽出する時、直接物に触る必要があったが、『ぶっかけLv2』になると、遠距離で抽出できるのだ。つまり、毒持ちの魔物が複数出てきたら、敵が持っている毒を、他の魔物に遠距離でぶっかけて同士討ちさせることもできる。


 皆のスキルが有能で、順調に冒険が進んでいるというわけだ。


「まぁ気を抜かず行こう。」

 俺は、メンバーに声をかけた。



「しかし、歩きにくいわね…」

 マルカスタが愚痴をこぼした。

 

 目的地である、キュリカ山に近づいてきてはいるが、薄気味悪い湿地帯になっている。歩きにくいし、植物の丈が長いため、日の光が入らず、見通しが悪い。


 その時だ。


 ズイーン!


(羽音か?)


 俺たちは最大警戒して周辺に注意を払った。

 まもなく、大量の羽音が近づいてきた。


 俺は、羽音の方向に鑑別スキルを使う。


― 種族:シビスタ、Lv:35、状態:威嚇、弱点:目玉、スキル:猛毒 ―


 遠くから赤く光る目が、彼我ひがの距離を詰めてくる。敵の数は10だ。


「シビスタ10匹だ。敵は猛毒持ちで急所は目玉だ!」

 俺はチームに鑑別した情報を伝える。


「ふざけるな!シビスタ10匹だと?」

 ロビンが驚愕する。


 そんなにヤバいのか?


「みんな、がんばれ!」

 ルッソが、エールを送る。

 単純だが、これで体が軽くなるし、防御力がわずかに上がる。


 ズイーン!ズイーン!ズイーン!ズイーン!ズイーン!


「ダメ!速すぎる!」

 マルカスタが猛毒の抽出を試みようとするが、シビスタのスピードを捉えきれない。


 鬱蒼と茂る細技を粉砕しながら、シビスタの群れは、高速で俺たちに近づく。


(ウソだろ…)

 枝の隙間から、敵影をはっきり捉えると、軽トラックほどのむしが、猛スピードで突っ込んできた。

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