第66話 レベリング
黒魔導士、話術師、抽出師というびっくりするくらいの後衛職だけで、冒険に出るわけにはいかない。少なくとも前衛が必要だということで、俺は、過度に露出しているビキニアーマー女剣士をパーティーに迎える決断をした。
やましい気持ちしかないので、マルカスタに気づかれないように、ルッソに耳打ちする。
(ルッソ。お前のスキルを使って、あのちゃんねーを勧誘しろ。)
(えっ、なんで?)
(俺たちは後衛職だ。いや、むしろ非戦闘員だ。だから、あの前衛職っぽい剣士をチームに迎えるんだ。)
(じゃ、マルカスタさんに一言言ってからじゃない?)
(いや、なるべく穏便に済ませたい。頼む。)
俺はルッソに手を合わせた。
名付けて、『あちらから強くお願いされたから仕方なかった、俺は嫌だったんだけどね。』作戦だ。これでマルカスタは何も言うまい。
さぁ、ルッソよ。話術師の真髄を見せてやるのだ。
俺はサッと人目のつかないポジションに位置どり、ルッソを女剣士の元へ向かわせた。
「あの…」
ルッソがおそるおそる、ビキニアーマーのちゃんねーに話しかける。
俺は安全な位置から、その様子を見守っていた。
その時だ。
「おぅ、ルッソ何してるんだ?」
ここで、ロビン。なんてバッドタイミングだ!
あぁ、ロビンがルッソに肩を組む。ロビン、バカヤロウ!離れろ!ルッソ頑張れ!ロビンを振り切って、ちゃんねーにアタックするんだ!!
俺の願いむなしく、ルッソはロビンを連れて俺の前に来た。
「サーノ。最高の前衛職が見つかったよ。ロビンだ!」
「サーノもいたんだな。前衛は俺に任せろ。最高の盾術を見せてやるぜ!」
ロビンは、自分の盾をゴンと拳で鳴らした。
俺は白目を剥いて天を仰いだ。
こうして、俺たちはビキニアーマーの女剣士の代わりに、中年の盾職ロビンをチームに迎え入れたのだった。
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「極めて順調だな!」
ロビンは上機嫌に言った。
俺たちは、ケープリアから大河ウ・ゼス川を越えて、北のキュリカ山を目指して歩いていた。
大河ウ・ゼス川の右岸は、ウ・ゼス川の左岸に比べて、荒野が広がっている。というのも、西国にとって、敵対する魔国や、不穏な動きがあるという北国と接する地域でもあることから、開発は遅れているのだ。
その分、レベルの高い魔物も闊歩しているので、一般人は、足を踏み入れない地域だ。ロビンが、『それほどケープリアから離れていなくて、魔物のレベルが高いので、財宝を狙うならここだ』と言うのも、分かる。
「そうね。やっぱりルッソとサーノがいるとすごい助かるわ!」
マルカスタも上機嫌である。
マルカスタ、ロビンが上機嫌なのは、魔物を狩ることが順調に進んでいるからだ。
俺は、敵の力や状態が分かる鑑別スキルのことを、ロビンにもカミングアウトした。ルッソも話術スキルで、魔物を勧誘することができると伝えていた。
俺の鑑別スキルで、魔物の弱点はすぐに把握できるし、ルッソも魔物を狩る中で、話術のレパートリーが増え、励ます言葉を使って、味方のスピードや防御力を上げることができるようになった。
バフ効果というやつだ。
ワンダ軍曹のチートスキル『ブレイブハート』には及ばないが、『何となく調子がいい』具合にしてくれる。しかも回数制限なしで使えるから、ある意味チートだ。
「ぷー、ぷぷ。」
「そうだね。ぬかるみが増えてきたから気をつけないとね。」
ルッソは話術スキルで、魔物の勧誘もできるムツ◯ロウさんだ。
今、ルッソの肩に乗っているのは、『レアスライム』という珍しい魔物だ。ルッソが『かわいい』と言うので勧誘を許可した。
このレアスライムは勧誘に成功しても俺には、魔物の言葉が分からなかった。ヒーちゃんが特別だったとも言えるし、ルッソの話術レベルが上がれば、分かるようになるかもしれない。
マルカスタは、『かわいい!ケープリアに連れて帰ってバラしたい!』とルッソに懇願していた。幸い、レアスライムは、擬態できるようなので、マルカスタの魔の手には掛からないだろう。
「それにしても、サーノに天職を見抜く力があるとはな。恐れ入ったぞ。」
「ロビン、これは絶対に秘密だ。バレたら俺は鑑別マシーンとして、馬車馬のように働かされる。」
マルカスタとロビンから、『自分自身を鑑別して欲しい』とせがまれて、仕方なしに鑑別した。ルッソのバフスキル、勧誘スキルが有能過ぎて、『結局どうやって覚醒したのか』という話になり、俺が敵の能力だけでなく、天職も見抜けることを言わざるを得なかった。
二人のステータスはこんな感じだった。
― 名前:ロビン 種族:ヒューマン、Lv:46、状態:普通、弱点:特になし、鑑定職:盾戦士、スキル:盾術Lv2 ―
― 名前:マルカスタ 種族:ハーフエルフ、Lv:32、状態:普通、弱点:特になし、鑑定職:抽出師、スキル:ぶっかけLv2 ―
鑑別を終えると、ロビンは『やはり天職だったんだな!』となぜか咆哮した。
マルカスタは『スキルぶっかけってふざけないでよ!』と激昂したが、持ち込んだ薬液をせっせと魔物にぶっかける姿は、もはや体液をかけて捕まる異常犯罪者そのものである。名は体を表すのだ。
(それにしても…)
支援職がレベルを上げるのは大変だ。
『ラストキル』と言って、魔物にトドメを刺せば、経験値が入る。マルカスタは今でこそ、レベルがだいぶ上がったが、最初はレベルが一桁だったので、庇いながらの戦いだった。幾度となく奇襲してきた魔物に黒魔法をかけたものだ。
ルッソと相談して、マルカスタとロビンには、黒魔法のことは黙っている。俺が複数のスキルを持っていることになり、この世界では異端の存在になるからだ。
とはいえ、ロビンの前衛が優秀で、黒魔法を使わなくても、マルカスタがダメージを受けることは無かったと思うが。
「ふーふーふん。」
謎の鼻歌を奏でながら、マルカスタは薬液の瓶を指にいくつも挟んでいる。
マルカスタは、順調にレベルを上げ、『ぶっかけLv2』のスキルを獲得したのだが、これも恐ろしい。
マルカスタが抽出する時、直接物に触る必要があったが、『ぶっかけLv2』になると、遠距離で抽出できるのだ。つまり、毒持ちの魔物が複数出てきたら、敵が持っている毒を、他の魔物に遠距離でぶっかけて同士討ちさせることもできる。
皆のスキルが有能で、順調に冒険が進んでいるというわけだ。
「まぁ気を抜かず行こう。」
俺は、メンバーに声をかけた。
*
「しかし、歩きにくいわね…」
マルカスタが愚痴をこぼした。
目的地である、キュリカ山に近づいてきてはいるが、薄気味悪い湿地帯になっている。歩きにくいし、植物の丈が長いため、日の光が入らず、見通しが悪い。
その時だ。
ズイーン!
(羽音か?)
俺たちは最大警戒して周辺に注意を払った。
まもなく、大量の羽音が近づいてきた。
俺は、羽音の方向に鑑別スキルを使う。
― 種族:シビスタ、Lv:35、状態:威嚇、弱点:目玉、スキル:猛毒 ―
遠くから赤く光る目が、彼我の距離を詰めてくる。敵の数は10だ。
「シビスタ10匹だ。敵は猛毒持ちで急所は目玉だ!」
俺はチームに鑑別した情報を伝える。
「ふざけるな!シビスタ10匹だと?」
ロビンが驚愕する。
そんなにヤバいのか?
「みんな、がんばれ!」
ルッソが、エールを送る。
単純だが、これで体が軽くなるし、防御力がわずかに上がる。
ズイーン!ズイーン!ズイーン!ズイーン!ズイーン!
「ダメ!速すぎる!」
マルカスタが猛毒の抽出を試みようとするが、シビスタのスピードを捉えきれない。
鬱蒼と茂る細技を粉砕しながら、シビスタの群れは、高速で俺たちに近づく。
(ウソだろ…)
枝の隙間から、敵影をはっきり捉えると、軽トラックほどの蟲が、猛スピードで突っ込んできた。




