最終話 そして始まる平穏なる二人旅
ミーリュア=ヴィーヴィ公爵令嬢は(修理し終わった)自室にあるベッドに腰掛けていた。
三日前。
思い返してみると、現実味のないものだった。
蒼の魔女や魔獣の群れを一発で薙ぎ払い、騎士団長ウルフ=グランドエンドさえも敵わなかった悪魔ゼロに殴り勝ち、最後には時空の壁をぶち破って神々の領域に乗り込んで滅亡の光に立ち向かっていったあの背中。
マーブル。
小さな身体に強大な力を内包した少女と交わした言葉は少なく、それでも十数年の人生の中で彼女との思い出は強烈にミーリュアの頭に刻まれている。
三日前は、とにかく心配だった。
自分『は』いいからと怪我をすると分かっていても考えなしに突っ込んでいくのが嫌で、せめて勝ち目が見つかるまでは戦って欲しくないと思っていた気がする。
なら、今は?
マーブルが金色の繭を打ち破り、世界滅亡の危機とやらが終息した途端にマーブル曰く『お母さん』とやらから元の世界に戻されたミーリュア=ヴィーヴィは何を望む?
「…………、」
マーブル以外の全員が元の世界に戻された。マーブルだけは、『お母様』の腕の中だったから。
世界は救われた。マーブルという特大の戦力はもう必要ない。ほんの僅かに言葉を交わしただけの少女がどうしていようとも、ミーリュア=ヴィーヴィが気にする必要はない。少なくとも、公爵令嬢としても選定の乙女としても、だ。
だから。
彼女は羽織った黒地に金の刺繍が走ったマントをぎゅっと握りしめて、そして──
ぐっっっバァッッッ!!!! と。
サキュバスに魅了されていた婚約者に婚約破棄を突きつけられたあの時と同じく、ミーリュアの目の前で景色が引き裂かれた。
あの時と同じく裂け目はすぐに消えた。
やはり、あの時と同じく彼女はそこに立っていた。
金の髪に漆黒の瞳。
何歳か年下だろう少女は絵本の中から飛び出してきたかのような神秘的な美を纏っていた。
彼女はミーリュアに気づいた途端、無邪気に笑ってこう言ったのだ。
「あ、三日ぶりだねーお姉さんっ」
「マーブル!?」
「うん、マーブルだよっ」
騎士団長やサキュバス、魔女に魔獣の群れ、最強らしき悪魔に世界を滅亡に導く金色の閃光だろうがお構いなしに殴り飛ばしてきた力の持ち主とは思えないほどに小さく、普通の少女であった。
本当は、それだけのはずなのだ。
「お母様ったら旅に出るのは仕方なく認めるけど週に一日だけで残りは神々の領域に帰ってくることって、ううむ。これじゃあ旅に出るってよりも単に遊びに出かけるような感じになっちゃった気がするっ」
うがーっと頭を抱えるマーブル。
どこか不満げに、それでも『約束』したから仕方ないと繋げられるくらいには良い子なマーブルはガラッと窓を開ける。
振り返り、無邪気な少女は言う。
「それじゃあね、お姉さんっ。私、時間ないからもういくねっ。だって旅できるの週一だもん!! 早く『旅らしいこと』しないと!!」
言下に窓から飛び出そうとするマーブル。そんな彼女の背中を見つめて、ミーリュアは思わず両手を伸ばしていた。
いつかのようにマーブルはマントを羽織っておらず、だから腰に抱きつく形だった。
「っ、きゃあああああ!?」
「わっ? また!?」
やはり、いつかと同じように振り落とされたミーリュアをマーブルは軽々と掴み、俗に言うお姫様だっこスタイルで抱きかかえた。
そのまま近くの建物の屋根に着地したマーブルは不思議そうに、
「お姉さん、どうかした?」
「え、と……」
「あっ、マント返すとかってやつ? うーん、でもお姉さんってなんか危なっかしいもんなぁ。よし、それあげるっ。お母様とお母さんの加護がたっぷりだから、どんな『脅威』からも守ってくれるよっ」
「マーブルにだけは危なっかしいなんて言われたくはないのですが!?」
「えー、私は危なっかしくなんてないよっ」
三日前、散々死にかけていたくせに、と言いかけたミーリュアは小さく首を横に振る。
そんなことよりも、だ。
反射的にマーブルの腰に抱きついて、ついてきたのはなぜか。
いつかとも違う『何か』があった。
強要されるような無機質な促しではない。もっと暖かく、激しい『何か』だ。
その正体まではまだわからなかったが、少なくともミーリュア=ヴィーヴィが望むことはわかる。
全ては。
行動でもって示されている。
「マーブル。貴女の旅についていってもいいですか?」
公爵令嬢としての立場は重く、本来自由なんてないものだ。それでも、分かっていても、ミーリュア=ヴィーヴィは望んでいた。
断られれば、それまでだ。
だが、もしも受け入れられたのならば──当主の意向とは異なるとしても、あの時の言葉を盾に強要するつもりだった。
だから。
だから。
だから。
「本当!? いいよいいよ、お姉さんと旅するの、楽しそうだもんっ!!」
その無邪気な笑顔に。
どこまでも真っ直ぐで混ざりけのない感情に。
ミーリュア=ヴィーヴィは胸の奥が暖かくなるのを感じていた。
「ありがとうございます。それでは──これからよろしくお願いしますね、マーブル」
「うん、お姉さんっ!!」
世界滅亡の危機という『脅威』は去った。
すでに選定の乙女と『伴侶』という関係性に意味はない。
ならば、その後は各々の本音に導かれた平穏なる日常が待っているものだろう。
ーーーfinーーー
はい、というわけで完結です!
無邪気に無双する主人公というシンプルなお話もたまにはいいですよね!
とはいえ、それだけだとシンプルすぎるということで作中に色々ぶち込んでいますので、バトルの裏には何があったのか考えるのも楽しみ方の一つなのかも?(どこぞのリーダーさんの身の上とかがわかりやすいのではと)。
番外編があるなら『脅威』も何もない平穏な日常話になりそうですね。
さて、『女神と邪神に育てられた少女は人類最強のようです』いかがだったでしょうか。できれば下のほうで評価いただけたり、感想いただけると凄く嬉しいです。
それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。




