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女神と邪神に育てられた少女は人類最強のようです  作者: りんご飴ツイン


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第二十七話 激突開始

 

 人間を形成する『要素』の中でも環境というものは大きい。獣に育てられた人間が獣の生き方に染まるように、幼ければ幼いほど周囲の環境はその人間の人格や能力に大きく関わってくる。


 であれば。

 奇跡を振るい、もって大抵のことは片手間で叶えることができる神に育てられた人間はどうなるのか。


『やあーっ!』


 マーブル、四歳。

 まだまだやんちゃ盛りな彼女は『ごっこ遊び』が好きだった。女神や邪神が絵本を語り聞かせる感覚で話してきた古今東西様々な英雄譚。脚色込みでの、楽しませることに重点を置いた物語に憧れ、『ごっこ遊び』に興じるのは子供ならそうおかしなことでもないだろう。


『たあーっ!』


 ただし。

『ごっこ遊び』でマーブルに破れて山になっているのが『千の闇』の面々でなければ。そして、彼らが本気の肉弾戦で敗北したのでなければ、だが。


『な、なんかすっげぇ強くなってねぇか?』


『神だ……。女神や邪神が護身用とか適度な運動とか言って鍛えてやがるからだ!!』


『つーかマーブルって女神や邪神の魔力を食って糧にしているんだよな? 神の魔力を糧として成長した「肉体」がめちゃんこぶっ飛んだ突然変異しやがったんじゃねえか!?』


『まあ膂力に見合ったムキムキマッチョになってないだけ幸運だがな。女の子だものな、できるだけ可愛く成長してもらいたいもんだ!!』


『成長、かぁ。人間なんて欲望を刺激して振り回すだけの脆弱な暇潰しとしてしか見てこなかったが、こんなにも面白いものだったんだなぁ』


 何やら敗者の山(どいつもこいつも終焉大戦で神々と対等にやり合った悪魔ども)が喚いていたが『ごっこ遊び』に夢中のマーブルには届いていなかった。


 と、その時だ。

 ふらりと近づく影が一つ。


『んう? なんだあ、随分と情けない光景だなあ。マーブルちゃん一人にボロ負けかよお』


『あ、ゼロさんっ。ゼロさんもいっしょにあそぶ?』


『まあ別にいいっちゃいいがあ、今のマーブルちゃんの実力だと俺っちの相手は難しいんじゃないかなあ』


『むっ。おかあさまやおかあさんにきたえてもらっているもんっ。ゼロさんにだってかてるんだからっ』


『そうかあ? それじゃあ、まあ、どうぞお』


『ようしっ。とりゃあああーっ!!』


 雄叫びをあげて飛び蹴りを放つマーブル(四歳)。年齢を考えれば微笑ましいものだろうが、その蹴りは悪魔の中でも好戦的すぎて神々にすら喧嘩を売った『千の闇』の面々を打倒する領域に達している。


 だから。

 しかし。



 デコピン一発。

 しかして後に続くは空間が断裂したのではと勘違いするほどの轟音だった。



『ふにゃああああーっ!!』


 落ち葉が舞うように軽く数十キロは吹き飛んでいくマーブル。そんな幼子をゼロは興味深そうに見つめていた。


『へえ。大体の奴は手加減に手加減を重ねた「これ」でもなぜか木っ端微塵になるものだがあ、多少の出血のみで欠損なしってのは流石は神に育てられた子だなあ』


 それで終わる話のはずだった。

 そうはならなかった。


『あっ、ゼロさん! あそぼあそぼっ。きょうこそわたしがかつんだからーっ!!』


 次の日にはケロッとしたマーブルがゼロに挑んで、同じようにデコピン一つで吹き飛んでいった。


 それが、何度も何度も飽きることなく。

 それでいて挑むごとに()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『なるほどなあ』


 赤ん坊の頃と比べれば多少は成長したとはいえ、マーブルは人間で言えば未だ『未熟な期間』真っ只中。これから先、より高みへと成長していく可能性を秘めている。


 その果てにもしかしたらゼロとだって『喧嘩』ができるほどに強くなるかもしれない。


『悪魔や神は自然発生した時から大体「完成」しているから変化なんてほとんどないが……はっはあ! これがマーブルちゃんがカミサマどもを魅了している要因かあ? こんなの夢中になるのも仕方ないわなあ!!』


 そのことが、楽しみで仕方なかった。



 ーーー☆ーーー



 魔法の増幅率について考えてみよう。

 静電気を雷撃と変える、空気の中からある成分を選別して起爆すれば地形さえも破壊できるといった猛者を引き合いに出すのではなく、あくまで一般的なレベルでだ。


 シフォンという少女がいる。魔法の実力は初心者に毛が生えた程度の一般人である。彼女が扱う魔法は粘性の増幅。ホイップクリームを飴細工のように加工できるようにする、または加工したホイップクリームを宙に浮かばせるために空気の粘性を増幅する程度が彼女にできることである。


 では、これらを果たすために必要な粘性の増幅率は?


『象徴』の状態にもよるだろうが、少なくとも二倍や三倍では足りないだろう。そう、初心者に毛が生えた程度の一般人が扱う魔法でさえも『象徴』を何倍も高められるものなのだ。


 本題。

 大陸最強の最有力候補やサキュバス、魔女に数百もの魔獣の群れを薙ぎ払うほどの肉体を初心者レベルで──そう、何倍にも増幅すると、どうなる?


「ゼロさんっ!!」


 大きく前へ。

 勢いよく駆け出す、ただそれだけで。



 ズ……ガァッッッ!!!! と。

 首都全域が数メートル『沈んだ』。



 原理としては蹴り足が土を削るようなものだった。その威力がどこまでも高く、首都全域が『沈む』ほどに蹴り抜かれただけである。


 ならば、それほどの蹴り足でもって前に進むマーブルはどれほどの速度を叩き出すのか。


 音なんて遅すぎて話にならなかった。音という現象が生まれる前に、彼女が空気を引き裂き撒き散らすことで生まれる衝撃波が周囲を襲う前に、少女の肉体は異形の男の懐へと飛び込んでいた。


 音速超過。あるいは光にさえも匹敵していたかもしれない。


 これまでのマーブルの動きは攻撃力こそ絶大なれど、歴戦の実力者であれば視認はできた。だが、今は違う。副団長、大陸最強の最有力候補、サキュバス。後方で見守っていた彼らでさえも終点、つまりは結果しかわからなかった。



 ゴッッッヅン!!!! と。

 勢い余って頭から突進したマーブルを異形の男が片手で受け止めていたのだ。



 そこで、ようやく余波が世界を襲う。

 マーブルが移動した、ただそれだけで地面をめくり上げ、砕き、塵と変えるほどの衝撃波が炸裂したのだ。


「ま、ずい!!」


 騎士団長がマーブルと異形の男を閉じ込めるように空気の檻を展開。ドーム状の結界のごときそれに衝撃波が激突した瞬間、多大なる負荷に破られそうになったほどだった。


 咄嗟に超越の『深化(アビス)』で底上げしなかったら破られていたかもしれない。


 余波だけで、だ。単に移動した時に発生した余波を封じ込めるために騎士団長ウルフ=グランドエンドが全力を振り絞る必要があった。


 マーブルの身体能力、その倍増。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ(ミーリュアが多量の魔力を魔法に込める方法は『教えなかった』からこそ初心者レベルの増幅率で収まっており、過度な増幅率によるバランスの崩壊及び自壊は起きていないということだ)。


 だが、異形の男はマーブルが増幅された己の挙動に振り回されていたとはいえその突進を受け止めてみせた。果たして異常なのはマーブルと異形の男、どちらなのか。


 あるいはどちらもこの世界にとっては異常に位置する規格外なのかもしれないが。


「マーブル……」


 その激突を、ミーリュア=ヴィーヴィ公爵令嬢は見守っていた。


 彼女は別にマーブルに戦ってほしいがために肉体強化魔法を教えたわけではない。治癒力の底上げ、それだけが目的なので必要以上に増幅して自壊しないようにと教え方を工夫していた。


 結果としてマーブルは助かった。

 後は逃げたって良かったはずだった。


 だけど、


『ごめんね、お姉さん。心配してくれているのはわかっているんだけど、私、逃げたくないんだよね』


 逃げられない、ではなく、逃げたくない。

 そう答えたマーブルは固く硬く拳を握ってこう続けたのだ。


『ゼロさんのやっていることが見逃せないってのもそうだけど、何よりゼロさんに負けたままでいたくない! 逃げるだけの情けない旅路じゃお母様やお母さんに顔向けできないし、それに、それにっ、私は成長したんだってゼロさんに知って欲しいから!!』


 理解は、できなかった。

 どうやら異形の男とマーブルは知り合いのようだが、だからといって殺されかけた直後にそんなことが言えるのかと正気を疑ったほどだ。


 普通ではない。

 どこまでも『遠い』。


 だけど、その純粋にして真っ直ぐな瞳を見て、少なくともどれだけ止めても力づくで突き進むだろうことだけはわかった。


 ミーリュアの細腕でマーブルを止められるわけもなく、そう思ったら諦めもついた。……そういうことに、した。


 言いたいことは山ほどあったが、最も伝えたいことだけを口にしていた。


『マーブル、ちゃんと生きて帰ってきてくださいね』


『もちろん!!』


 そう言って、無邪気な笑みと共にマーブルは突っ込んでいった。そのことを思い出して、ミーリュアはどこかヤケクソ気味にこう叫んでいた。


「頑張るんですよお!! マーブルーっ!!」


「うん、頑張る!!」


 返し、そしてマーブルは動く。

『千の闇』最強の悪魔へと挑む。

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