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女神と邪神に育てられた少女は人類最強のようです  作者: りんご飴ツイン


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第十七話 魔を支配する魔女の猛威

 

 魔女の三姉妹、その堂々たる一角。

 全身を蒼と染めた次女エレインは副団長を前にしても悠然と微笑んでいた。


 サキュバスという拾い物を使って騎士団長ウルフ=グランドエンドという『一強』を手駒とすることはできなかった。彼は二度も同じ手が通用する男ではなく、サキュバスの魅了に対して『対策』を講じていたのだ。


 サキュバスが男を魅了することで操るには『サキュバス(理想の女)』を支配したい対象に認識させなければならない。


 視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚のいずれかでサキュバスを感じ取った時点で魔法的に増幅された魅力に対象は支配され、『惚れた女のためなら何でもやる』ようになるが、逆にいえば五感への干渉さえ防げば支配されることはない。


 声や体臭を魔法的に増幅して安全圏からぶつけようとしたのだが、そのことごとくを騎士団長は空気の鎧で弾き、支配を免れていた。この分だと視覚で攻めようとしても空気を使って光の屈折率を操り『見えなく』するなどの『対策』を講じたはずだ。


 そのため、同様の手段で遠隔地から支配した魔獣の群れを魔女エレインの魔法で首都に投下する方法を選ばざるを得なかったが、表舞台に誘い込まれたとしても魔女の勝利は揺らがない。


 直接戦闘なら最強の魔女モルガンが負けるわけがなく、必ずや騎士団長を殺す。その他であればサキュバスを契約で縛って引き連れている魔女エレインの手で皆殺しにできる。


 世のため人のため、首都に住む生物は根こそぎ殺し尽くす。ゆえに魔女エレインは暴風の一撃を耐えてみせた副団長クリスフィーア=リッヒマータを殺すために新たな魔法を使おうとして──



 ダァッッッン!!!! と。

 魔女エレインにサキュバスの前に立ち塞がるようにその少女は降り立った。



 黒地に金の刺繍が施されたマントを羽織った幻想的な少女だった。高貴な身分の者だろう女をお姫様抱っこしているその少女はなんともなしにこう言った。


「あれ、サキュバスも操られている感じ? じゃあ今助けるからねー」


 少々引っ掛かったが、誤差の範囲だと魔女エレインは判断を下す。サキュバス『も』操られている(正確には契約という形の約束に逆らえない)と一目で見抜くだけの力の持ち主ではあるのだろうが、そこまでだ。


 ゴォッ!! と遠隔地からサキュバスに支配され、魔女エレインの魔法によって首都まで運ばれた十メートルクラスの魔獣が四、上空から少女めがけて投下されたのだ。


 例えば溶岩を呑み込み体内で魔法的に増幅して灼熱を操る大蜥蜴、例えば隕石と共に地表に落着しても無傷だったという伝説がある外来の魔獣の子孫、例えば数キロ先の要塞だろうとも無数の触手を鞭のように振るった時の余波で輪切りにする突然変異種、例えば『千の闇』が現世に存在した頃から生き抜いてきた太古の巨人。


 どれもがSランク冒険者パーティーだろうとも討伐が不可能とされている『禁域指定』だった。下手に手を出して刺激すれば被害が大きくなるとして、討伐が禁じられている魔獣たちでもある。


 一体でも『軍勢』をぶつけなければ討伐は不可能とされている怪物が四体も投下されたのだ。もちろん少女一人のためではなく、首都に住む者たちを皆殺しにするために引っ張っていたのがちょうど届いたというだけだが。


 何やらサキュバスを助けるなんてことを言っていたが、そんなことは不可能だ。魔法を支配するという反則技を抜きにすれば、『禁域指定』は生まれながらに魔法に秀でた『種族』である魔女エレインであろうとも苦戦する怪物なのだから。


 だから。

 だから。

 だから。



「やあっ!!」


 ゴンダンバンドッゴォン!!!! と。

 少女を踏み潰して着地しようとしていた四体の『禁域指定』が上空に吹き飛んでいった。



「…………、は?」


 何が起きたのか、はわかる。

 少女が真上に拳を振り切っているのだから、それで殴り飛ばしたのだろうというのはわかる。


 だが、そんなこと不可能なはずだ。

 人間の身体は魔法的に強化したってある一定以上の出力を発揮した時点で限界を迎えて自壊する。決して、『禁域指定』を殴り飛ばせるような威力は出せない。そのはず、なのに……結果として少女は拳一つで『禁域指定』を殴り飛ばしてみせた。


 件の偉業を成し遂げた少女はといえばお姫様抱っこしていた令嬢を地面に下ろしているところだった。


「あ、お姉さん。危なそうだからこれかぶってて」


「あ、えっ?」


 何やら顔を真っ赤している令嬢へと『えいっ』と自分が羽織っていたマントを頭からかぶせる少女。


 マントをめくって瞳を覗かせ、理由を聞きたそうにしている令嬢へと少女は言う。


「それ、前にお母様とお母さんからもらったマントでね。二人の加護がありったけだから『千の闇』ぐらいのとんでもじゃなければどんな流れ弾だって防いでくれると思う。だから、ちゃんとそれかぶっててよねっ」


「そっそんな大事なもの受け取れません! これに優れた防御力があるならマーブルこそが身につけているべきです!!」


「いいよ。旅立つ時にお母さんがせめてこれくらいはって言うから身につけていたけど、普段着ならともかく喧嘩にこんなご大層なものを持ち込むのは私の趣味じゃないし。喧嘩には拳があればいいんだしね!!」


 そういうわけでそれかぶって下がっててね、と令嬢に告げて、ハタで見ていながらあまりの展開についていけていない副団長を置いて、少女は一歩前に踏み込む。


 魔女エレインにサキュバス。

 二人を前にして、なお、自然体のまま。


 その立ち振る舞いに魔女エレインは目を細め、問いかける。


「名前、聞いても?」


「マーブルだよ。それより蒼の人、サキュバスを操って魔獣を操っているのは貴女だよね?」


「ですわね。だったらどうするですわよ?」


「もちろんぶん殴るよ。悪いことしている奴を止めたい時はとりあえずぶん殴っておけばいいってお母様も言っていたし!」


「ふ、ふふっ。この私も舐められたものですわよ。魔女の三姉妹が次女エレイン、我が身は『深化(アビス)』に至っているとわかっての軽口ですわよ?」


 ただの身体強化魔法では『禁域指定』を倒すことはできない。となれば、マーブルは無理を通すために何かをしている。


 その何かは不明だが、少なくとも『深化(アビス)』ではないのは確かだ。魔の深淵にして魔法の金字塔である『深化(アビス)』をどう使ったって拳一つで『禁域指定』を殴り飛ばすだけの膂力は用意できないし、そもそも『深化(アビス)』特有の気配がなかったのだからそれは間違いない。


 となれば、だ。

 理屈は不明なれど、マーブルは基本的な増幅の組み合わせを工夫して先の結果を叩き出したのだろう。


 それは確かに驚異的ではある。

 だが、致命的でもあるのだ。


「私の『深化(アビス)』は支配っ。基本性質、すなわち増幅しかできない魔法であれば他者のものであっても支配可能ということですわよ!! マーブル、貴女がどんな奇跡を成し遂げようとも、人間の身で奇跡を成し遂げるには魔法に頼る他はないのですわよ。つまり! その奇跡の首根っこを押さえることができる私に貴女が敵う道理は存在しないということですわよ!!」


 高らかな勝利宣言だった。

 完膚なきまでの証明であった。


 どれだけの力を発揮できるとしても、人の身で人の身を超えた力を発揮するには魔法が必要だ。その基本原則、根底を支配されてしまえばどうしようもない。それこそ悪魔の一角であるサキュバスだろうとも凌駕できる残酷なまでの真理なのだから。


 ゆえに『深化(アビス)』に至っていない魔法使いでは魔女エレインには勝てない。どれほどの実力があろうとも魔法という根底が支配されては本領を発揮できず嬲り殺されるだけだ。


 そのはず、なのに。

 マーブルは恐怖や絶望に表情を歪めることなく、困ったように眉を潜めていた。


「ええ、と……私、魔法使えないんだけど」


 …………。

 …………。

 …………。


「は?」


「ねえ蒼の人、もういいかな」


 呆気ないものだった。

 マーブルは魔法を使()()()()──となれば、そもそも存在しないものを支配することなどできるわけもなく、結果として他者の魔法を支配する『深化(アビス)』が不発に終わる中、少女の拳が魔女を打ち抜いた。



 ーーー☆ーーー



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『禁域指定』が一撃でぶっ飛ばされた、というのもそうだが、特異体質を持つ副団長だからこそより正確に少女の偉業を捉えていた。


 副団長は『どこ』を魔法で増幅しているのかを視認できるのだが、少女はどこも増幅なんてしていなかったのだ。


 そう、少女自身が言った通り魔法なんて使っていないということだ。


 そして、もう一つ。

 先の偉業に関与はしていないのだが、お腹の中の『あれ』はどう低く見積もっても──


「何、者……なのよ、彼女は……」


 思わず漏れた言葉に、ふと振り返った少女は軽くこう答えた。


「だーからーマーブルだって。蒼の人に名乗ったの聞いてなかった?」

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