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ダンジョン国家日本  作者: ネムノキ


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25 凶獣大戦1

 同盟と連合国がロケット開発に邁進していた頃、共栄圏はそれを黙って見ていた訳ではなかった。

 地球全土を監視する人工衛星群を、日本とソ連は共同で設置。世界各地を偵察し、その画像データを流用して、共栄圏内に今までよりも正確な天気予報を、通信衛星を使って提供するようになっていた。

 その偵察の過程で、日本とソ連は『おかしなこと』に気付いた。


「中華の夜景、どんどん暗くなっていっていないか?」


 中華で使われている灯火が急速に減っていたのだ。


 この世界の中華は、欧州大戦前に無政府状態となり。3極冷戦時代に入った辺りで大勢力と言えたのは『南京国民党』『武漢国民政府』『雲南自由帝国』の3つ。その他の勢力はいずれも小粒なものが乱立していた。

 特に北京近郊は満洲国から流出したダンジョン管理技法を使うことで、村ひとつがいち勢力として成り立っており。連合国・同盟・共栄圏いずれも、中華地域全土に顔の利く交渉窓口を持てない有様だった。

 なおその3つの勢力は、小銃や機関銃、ちょっとした大砲程度を自弁出来る中途半端な工業力があった上に、清朝末期から受け継いだ独立心と汚職から、勢力どうしの紛争と内輪揉めで忙しく。その上で異国からの介入を恐れて、援助をほぼ受け取っていなかった。武漢国民政府が、ソ連から少量の武器輸入を続けていた程度である。

 世界各国も、自分達のことで忙しかったし利益になりそうになかったので、中華を放置していた。だから気付くのが遅れた。


「この灯火の減り様はもしかして……」


 危機感を抱いた日本とソ連は、中華の3大勢力へ尋ねた。


「最近、街や村からの連絡が急に途絶えたりしていないか?」


 3大勢力の答えは同じものだった。


「途絶えている。恐らく他の勢力の破壊工作だろう」


 日本とソ連は、中華の言い分を信じず、偵察衛星を使って灯火の消えている地帯を詳細に調べ上げ、確信した。


「インドシナ半島での前例のように、ダンジョンで鍛えられた動物が暴れている」


 偵察衛星の捉えた写真の中には、巨大な白黒の熊が村を襲っているものがあった。一軒家より巨大な熊など、どう考えても自然のモノではない。

 だから共栄圏諸国は、とりあえず3大勢力へこの件を伝えたが黙殺され。

 それから半月後。四川の辺りの灯火が完全に消えたので、これ以上は待てないと、1960年1月28日、中華の全勢力へ、ラジオ放送とビラ爆撃により通達した。


『ダンジョン管理を厳密化せよ。でなければ、ダンジョンを出入りしている野生動物が強化され、諸君の軍隊では対応出来なくなる』

『もし仮にそうなった場合、我々は自衛のために中華全土を占領しなければならない』

『賢明な判断を期待する』


 これを受けた中華の全勢力は、当然ヘソを曲げた。


「内政干渉するな!」

「野生動物程度に俺達が負ける訳がない!」

「目出度い正月(※1960年1月28日は旧正月)を汚すな!」


 もし仮に、人工衛星が中華の村を襲う巨大熊の写真を撮っていなければ、内政干渉については全く中華の反応が正しかっただろう。

 しかしそんな危険を知らしめる写真があり、野生動物に国境線の概念が存在しない以上、共栄圏側の言い分の方が正しい。

 更に言うならば。この世界では未だ、強国が弱小国を虐め潰すことを悪徳とされていないので、ラジオやビラ爆撃しただけ理性的で優しい対応である。


 ともかく。

 中華側からそんな反応を受けた共栄圏側は、有言実行すべく、粛々と侵攻軍を編成。1960年3月14日、全方位から、共栄圏軍は中華へ侵攻した。

 後に『凶獣大戦』と呼ばれる戦争の始まりだ。




 唐突に侵攻してきた共栄圏軍に、中華の諸勢力は抵抗出来なかった。どの兵士も軽機関銃程度なら弾くし、日本兵やインドシナの象兵に至っては対戦車砲を弾いて撃ち(投げ)返しさえしてくる。


「こんな奴らとどう戦えと!?」


 諸勢力は抵抗する間もなく崩壊、共栄圏軍の占領下に置かれていった。

 そうして中華地域の比較的内陸部へ侵攻した共栄圏軍は、とうとうダンジョンで強化された動物達と遭遇した。


 日本兵や象兵を正面に、共栄圏軍は一方的に強化動物達を打ち倒していった。

 すると恐怖したのか、鹿や山羊の類は共栄圏軍に腹を見せて降伏。彼らは捕虜となった。

 しかし犬や熊、蝙蝠の類は最後の一体まで抵抗。しかし質でも量でも負ける強化動物の抵抗はあっけなく粉砕され、少数の象兵が負傷したものの、それ以上の被害は出なかった。




「言った通り動物が強化されていただろ?」


 共栄圏軍は、強化動物の恐ろしさを知らしめるべく。イタリアやイギリス、アメリカの記者や捕虜にした3大勢力の幹部を前線近くまで連れて行き、戦争の様子を見せた。

 流石ダンジョンを鉱山化しているだけのことはあり、イタリアの記者は苦笑いだけで済ませられていた。

 イギリスとアメリカの記者、そして3大勢力の幹部はただただ呆然とするしかなかった。


 メジャーリーグの試合の解説経験のある記者だけが、かろうじて目で終えるほどの高速戦闘。

 欧州大戦で砲兵として戦い抜いた記者すら聞いたことのない、轟音の嵐。

 それらを成している強化動物に対抗する人間が持つのは、シンプルな剣やハンマー。


 常識が破壊された彼らに、共栄圏軍は警告した。


「今は強化動物は地上でしか確認されていません。しかし海底にもダンジョンが存在する以上、いつかは強化された魚や鮫も出現するでしょう」

「いきなり海底ダンジョンまでは言いません。せめて地上のダンジョンだけでも、動物が出入りしないようしっかり管理してください」


 その言葉を、記者達は世界に伝えた。

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