23 宇宙開発競争1
連合国・同盟の盟主であるアメリカ・イタリアは、1950年代中頃から、他の陣営との軍拡競争に危機感を抱いた。
「このままでは経済が破綻しかねない」
「現に景気は減速している」
代理戦争の形で世界に武器をばら撒いても、思うように利益にならない。むしろ国境警備や国内の治安維持のため、余計なお金がかかっている。
でも止められない理由があった。共栄圏諸国、特に日本が無限に軍備を拡大しているからである。欧州大戦によって種々の軍縮条約が機能を止めたからこその、軍拡だったのだが。
危険度の高いダンジョンは、民間で探索させると武器の管理が難しいし、死傷者が出た時の補填やら保険やらが面倒臭い。だから共栄圏諸国は、危険なダンジョンは全て軍の管轄下に入れていた。
中でも日本は、ダンジョンに入るまでが危険な海底ダンジョンの全てを海軍の管轄下に入れ。連合国・同盟とは違い、それら危険なダンジョンの探索すらしていた。
これが何を引き起こしたかというと。軍がその予算や武器の原材料について、自弁出来るようになっていたのだ。少数ながら、ダンジョンモンスターに教育を施すことで『魔族』という兵士すら、自力で獲得していた。
そのため、例えば海軍は、
・45口径51cm連装砲3基を主砲に、基準排水量82000トンクラスの『超大和型戦艦』
・魔道具をフル活用し、アングルドデッキに蒸気カタパルトを装備、満載排水量100000トンクラスの『蔵馬型空母』
をそれぞれ8隻ずつ建造・基幹とした『超八八艦隊』を成立・維持してなお艦隊を拡大する予算があった。
当然のことながら、これらの『超大型艦』以外にも艦艇はある訳で。改大和型戦艦だけで18隻、はじめから空母として設計された信濃型空母も20隻、あったりする。
「日本は何と戦っているんだ!?」
連合諸国や同盟諸国が悲鳴を上げ、ソ連がアジア方面への進出を諦めるのも、当然のことだろう。
なお日本海軍的には、管理出来ていない共栄圏外の海底ダンジョンで鍛えられた魚・鯨・鮫、管理出来ていない共栄圏外の島々のダンジョンで鍛えられた動物、その両方を相手取って、共栄圏のシーレーンを維持しなければならない戦争を想定しており。その勝率は3割を切っていたので、まだまだ艦隊も海兵隊も、海中で戦える魔族からなる海魔隊も、拡大する予定であった。
そして、海底ダンジョンの探索に当たって鍛錬を積み資源を集める海兵隊や海魔隊が増えるほど、予算も増える訳で。また日本陸軍においても似たような事情がある訳で。
もはや日本軍は、共栄圏の外から見れば、世界を数回は滅ぼせる『悪魔の軍団』にしか見えなくなっていた。
なお当の日本軍は、ダンジョンで強化された動物達から人類を守るつもりで任務に励んでいて。日本政府と国民もそれを応援していた訳で。
その上で、共栄圏諸国も『せめて自分の国ぐらいは自分で守ろう』と、領土とその周辺の海のダンジョン管理をしつつ、ダンジョン内で兵士を鍛えていた訳で。
……共栄圏の内と外の温度差が大き過ぎて、もはやギャグの域である。
マイペースな共栄圏は、更に世界を振り回していく。
1956年8月21日。南洋州パラオはコロール島に新規建設された、やけにデカい空港から、鏃型の真っ白な全翼機『あけぼの号』が飛び立った。
青森県や沖縄県海底にある遺跡型ダンジョンから回収・改良された魔道具をふんだんに使用されたあけぼの号は、あっという間に秒速11.2kmを突破。その高度を上げ続け。飛行開始から3分後。
『魔法の力により飛行中』
『Magic power in flight』
あけぼの号は、とうとう高度100kmを突破。機長の高橋大尉、副長の小鳥遊大尉の2人は、人類で初めて宇宙飛行を行ったパイロットとなった。
日本が宇宙へと進出したのは、至ってシンプルな理由からだった。
「もし月にダンジョンがあれば?」
「その上で、もし月に何か生命体が存在すれば?」
つまりは、月のダンジョンで何らかの生命が強化され、宇宙から地上へ降ってくることを恐れたのだ。
また日本経産界も、多量の艦隊を整備しているから暴落していないだけの鋼材の有効活用先、悪く言えば捨て場を求めており。将来、月面や地球の軌道上に巨大な基地が建設されるようになれば鋼材の捨て場に困らなくなるからと、宇宙進出を後押ししていた。
人口過剰? この世界の日本はダンジョンを管理するため、深海の海底にすら居住地を建設しているので、人口過剰になるにはまだまだ時間がかかると予測されていた。
環境汚染? 魔道具の力でボタ石や化学薬品等の産業廃棄物は極めて安価に処理出来るようになっているし、ダンジョン産の薪炭や木材の影響で森林の過伐採は、少なくとも共栄圏では起きていない。それに人類の多くは気付いていないが、浅瀬ダンジョンで強化された植物プランクトンが今まで以上に光合成しているお陰で、炭酸ガスの排出・増加バランスは釣り合っている。
そんな訳で。この世界では『ダンジョン管理』と『資源の有効活用先』を求めて、宇宙開発が始まったのだ。




