第18話ー真実を話す時・上
「北白川」に両親と共に僕が行くと、女将が、僕達を出迎えた。
女将から、愛娘が傷物になったとして、僕を凍死させそうな冷たい視線が僕に対して、向けられている。
開き直っている、と取られそうだが、実際、現世でも、前世でも僕は後ろ暗いことはしていない。
一応。
僕は、精一杯、胸を張って、「北白川」に入った。
「北白川」は、臨時休業していて、料亭内には誰もいなかった。
板前等、従業員全員が半ば追い出されていて、関係者以外は立入り禁止状態のようだ。
広間に入ると、裁判長のように、僕の母方の祖父の従兄弟になる当代の土方伯爵が座って待っていた。
可愛い孫娘が傷物になったとして、激怒されているようだ。
荒くれ者揃いの海兵隊の元提督だけあり、視線だけで、僕を殺せそうなきつい目を僕に向けてきた。
後ろ暗いことは無い(筈な)のに、僕は思わず、俯いてしまった。
そうこうしているうちに、僕と教え子4人、その両親が勢揃いした。
気が付くと、昔の法廷で言えば、僕と教え子4人が被告人席、教え子4人の両親が検察官席、僕の両親が弁護人席、土方伯爵が裁判官席に座っているような状況に、皆が無言のうちに移動していた。
さらに細かく言うと、僕の背中に、澪と鈴が並び、その後ろに愛とジャンヌが並んで座っている。
4人が目で会話した上、こう座ることにしたらしい。
確かに、こう座るのが無難なところか。
ところで、この状況では、どう見ても、僕と教え子4人が罪人になっている。
どうやって、この状況を打開すべきだろうか。
「まず、正直に話してもらおうか。真実をな」
土方伯爵の半ば怒声が、僕達に掛けられた。
しょうがない、僕達5人以外、誰も信じないだろうけど、真実を話そう。
僕は、正直に自分の認識を話した。
僕が100年前にヴェルダンで死んだご先祖様の生まれ変わりで、今は、その記憶があること。
そして、澪、鈴、愛、ジャンヌは、ご先祖様と肉体関係を持って、子どもを産んだ女性の生まれ変わりであり、それぞれが、今は、その記憶を持っていること。
今日の入学式で、初めて5人全員が会った際に、一度に5人全員の前世の記憶が甦って、前世と現世との状況を混乱して認識して、あんな騒動になったこと。
僕の後ろで、澪、鈴、愛、ジャンヌが黙って、僕の話に何度も肯く気配がした。
どれくらいの間、僕は話しただろうか。
何とか、一通りのことを僕は話し終えた。
だが、僕が話し終えた後でも、僕達5人以外は、誰も納得する気配が無い。
中でも、土方伯爵は、ますます怒りを高められたようだ。
「誰が、そんな戯言を信じると思う」
ですよね。
僕自身、そう思います。
その時、一人が声を上げた。
「あの、彼、じゃなかった。先生の言うことは本当です」
彼、と言った瞬間に澪、鈴、愛が鋭い視線を浴びせたらしく、ジャンヌが先生と言い直しながら言った。
「証拠もあります」
「何だと」
土方伯爵の怒声が響いた。
「ペール、私のお祖母様、あなたの母に、すぐに連絡を取ってください。幼い頃、自分に蒙古斑があって、小児科医の先生に、両親からの虐待を疑われたこと。それで、自分の父方のお祖母様に事情を聞いたら、あなたのお祖父様は、日本の海兵隊士官で、既に妻がいる身であった事、それで、父無し子として、息子を産み育てた事。だから、あなたには、蒙古斑があること。ペール、あなたは聞いていない話でしょうが、お祖母様は覚えておられる筈です。私が、かつてを思い出して、泣きながら話して、お祖母様は、絶対に忘れないから、と前世の私に誓ったのですから」
ジャンヌが、しまいには、泣きながら言った。
思わぬ証拠があったものだ。
僕は本当に驚いてしまった。
他の3人も、驚愕している。
登場人物の1人、ジャンヌが、ペール、と作中で呼びかけています。
この意味は、日本語に直訳すると、お父様、又は、父上、という意味になる、父を丁寧に呼ぶ際に使うフランス語の言葉です。
状況が状況だけに、登場人物も丁寧な言葉を使っていることを示したくて、使いました。
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