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食事と王と会談と ※

少し早いですが、更新します。


若干説明回ですね。 もしかすると後ほど地図を入れるかもしれません。


 ブレイズは、真剣な顔で白山に告げた。


「ホワイト殿は、王の賓客として招かれており同じ武人として、信頼しよう。

その上で、これから話す内容は決して漏らさぬと誓って頂けるか?」


白山の脇差しを返し、居住まいを正したブレイズは、真剣な表情でこう切り出した。


「何故、今日あったばかりの俺をそこまで信頼するんだ? 国の機密に関わる事なら言わなくてもいいぞ」


白山は、突然切り出したブレイズに訝しげな表情を浮かべ疑問をぶつける。


「それは、ホワイト殿が鉄の勇者だからだ。伝説にある通り救国の英雄である鉄の勇者だと殿下が認め、

そして、俺自身も命を助けられた。そして今、わずかだが話してみて信頼に足ると判断したからだ」



すっかり、鉄の勇者として扱われる事に些か違和感を感じるがここで否定しては、話が進まないと判断した白山は答える。



「ホワイトでいい。そして今は頼るべき国からも離れ、客としてこうして世話になっている。秘密は守ろう。他に行く宛もない」


そう白山が答えると、僅かに頷いたブレイズはメイドに目配せし、退出を促す。

メイドも心得たもので、静かに会釈をして部屋を出て行く。


パタンと、ドアの閉まる音がして徐ろにブレイズは話し出す。



挿絵(By みてみん)



「ならば、俺もブレイズでいい。まずは、この国の状況を話そう。

レイスラット王国は大陸のほぼ中央に位置し、東はシープリット皇国 北がヴェルキウス帝国 そして南にオースランド王国がある。

これまでレイスラットは、南のオースランドとシープリットと良好な関係で推移してきた。

だが、7年前突如としてシープリット皇国、その時は王国だったのだが皇王と名乗る新光教団の枢機卿に、突然国を明け渡したのだ」



そう言って、冷めた茶を一口飲むと、ブレイズは更に続けた。


「数年は、レイスラットと皇国はこれまで通りの関係だったが、徐々に新光教団の布教や関税で折り合いがつかなくなり、どんどん関係が悪化していった。

そして2年前、突如神の意志により国交を断絶すると通告し、国境を閉鎖したのだ」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、話を続けるブレイズは何かを思い出すように天井を仰いだ。


「その後には、軍勢を率いて200年前の未確定な領土が存在すると主張し、中部の平原に軍勢を送り込んだ。

当然、我が国は受け入れられるはずもなく応戦。なんとかこれを撃退したが、それ以来にらみ合いが続いている」


「その戦争に出たのか?」


聞き役に徹する白山は、悲哀の混じる眼差しでブレイズに尋ねる。


「あぁ。 同僚も部下も大勢死んだ……」


部屋の中を沈黙が支配する。


少し間をあけて、白山がつぶやく。


「そうか……」



白山もこれまでの作戦で部下や同僚を何度も失ってきた。その気持ちは痛いほど良く判るが、それに整理をつけるのは、他者からの慰めでもなければ、上官からの言葉でもなく、自分自身と共に戦った仲間で折り合いをつける事柄だった。


そのことを理解している白山は、それ以上何も言わなかった。



ふぅと、息を吐きだしたブレイズは意識を切り替えるように、話を続けた。


「話が横道に逸れたな。そんなこんなで東に問題を抱えているが、問題はそれだけじゃないんだ。

北のヴェルキウス帝国も、この国を狙っている」


そう話題を切り替えたブレイズは、苦笑いを浮かべる。


「元々、ヴェルキウス帝国は、北に6カ国あった諸国を武力で制圧して今の大きさに落ち着いた。

最後の国を併呑したのは2年前で、次は我が国に狙いを定めているともっぱらの噂だ。

事実、国境の北の砦に近い場所では、小競り合いや軍備増強の兆候が見えるからな。

もっとも国内の併呑した領地の安定が優先されているらしく、まだ大規模侵攻の兆候は見られないがな」


「なるほど、それで南のオースランドとの会談か」


状況をある程度理解した白山は、そう述べるとブレイズは深く頷いた。


「ああ、同盟の締結と協力関係の確認が、今回の大きな目的のひとつだったんだ」


白山は、アゴに手を当てると疑問点をブレイズにぶつける。


「この国の兵力は、どんな状況なんだ? 次のどちらかからの攻撃に耐えられる軍隊なのか?」


兵力規模や軍隊の能力は、機密に関わるようでいくら個人的に信頼関係にあると言ってもブレイズは、どこまで話して良い物か図りかねている様子だった。

しかし、やがて諦めたように言葉を絞りだす。


「正直に言おう。どちらかが攻めてきた場合、勝てるかどうかは分からない」



ブレイズの表情は、苦渋に満ちていた。


「成程…… 王が俺に詰め寄って来て勇者と断定したのもそれでか……」


「おそらくはな……」


再び、部屋に沈黙が訪れる。



「では今日の襲撃は、そのどちらかの国の仕業って事か?」


白山はそう尋ねる。


ブレイズは言い難そうにしているが、覚悟を決めたようにこう言った。



「この国も1枚岩ではない状況だとしか、今は言えんな」


つまりは、対外勢力に取り込まれたか、下克上を狙う獅子身中の虫が存在すると、ブレイズは言外に言っている。



「なるほどな。現状は理解できた」


白山は、語られた事項を脳内で整理しながら答える。

そして自身に求められている役割についても、おおよそ察しがついた。


それは、伝説の英雄が再誕したという宣伝と士気の向上。それによる周辺国への牽制だろう。


詳しい話を聞いてみなければ、なんとも言いようがないが、この国で白山に求められているのは概ねそんな所だろう。

ただしそれは白山が一般人であれば、お飾りの勇者として役割をこなしたかもしれない。


だが、白山は特殊作戦群で高度な教育訓練を受け、実際に東南アジアやその他の国で、軍への指導を行った経験を持っている。


『この国を救え。そういう事か……』



白山は、心の中でそう呟いた。


ここ数日で、ずっと心の中に引っかかっていた、自分がこの世界に召喚された意図を考えていた白山は、今のレイスラットの現状を聞き、何かストンと、肚に収まった気がしていた。



ゆっくりと目を閉じ、深く呼吸をした白山は、息を吐き目を見開くと視線をブレイズに向けて告げる。


「俺も軍人だ。国を憂う気持ちは痛いほど良く分かる。俺に出来る事があれば言ってくれ」


その視線をまっすぐ見据えたブレイズは、「ありがとう」と言葉短く伝えると、手を差し出し握手を交わす。


ガッチリと交わされた2度目の握手に、言葉は不要だった……



*****



コンコン……



「入れ」


入室を促す言葉に、静かに扉を開きブレイズは部屋へ招かれる。


部屋に入るなり跪き、礼を取るブレイズに視線を向けた部屋の主は、事も無げに問い質す。


「して、鉄の勇者は如何であった?」


「はっ、幾分かこちらを信用した模様で、協力を願い出ました」



「そうか……」


レイスラット王は、安楽椅子を揺らしながら虚空を見つめそうつぶやく。



王は、簡単なブレイズの報告を聞きながら白山の性格や行動を推測していた。

どう動けば、転がりこんできた手駒を手懐けられるかを考えながら。



*****



 夕食の晩餐は、極めて質素だった。最も王宮の晩餐会や貴族の夕食会と比較して、参加する人数が少ないと言う理由でもあったが。

出席したのはレイスラット王とその数名の陪臣そして、城代の貴族とこの土地を治める領主 そしてブレイズといった面々だった。

白山は案内された席に座り、王の簡素な乾杯の挨拶の後、食事を楽しんだ。


白山は夕食会の格好について部屋付きのメイドに尋ねたが、そのままの格好でおいで下さいと言われ、洗いたての3型迷彩服を着て、万一に備え腰にSIGを隠して、晩餐の会場である食堂に向かった。


食堂は王族や城の滞在者が、食事をする際に使用する場所との事でそれほど豪華ではないが、落ち着いた気品にあふれていた。

50平米ほどの食堂にはバルコニーに面した大窓があり、昼の間は高原の素晴らしい景色が堪能できるとの事だった。


程なく、出席者が集まりA-TACSの柄から、緑を主体とした迷彩服の白山に視線を送る。

視線に慣れてきた白山は会釈を返し余裕を見せる一方、周囲にさりげなく視線を走らせ、脱出路や遮蔽物の有無を確認する。

もうすでに、この確認は習性となっていて、これで命を助けられたこともあった。


程なく出席者が揃い、最後にレイスラット王が着席し、食事が始まる。

白山に視線を送ってきた王は、白山の黙礼に頷くと食事の開始を告げた。


神に祈りを捧げワインで乾杯の後、食事が始まった。


食事の内容は、どちらかと言えばフランス料理に近いが、1品の量が多く皿数が少ない感じだ。

マナーで無作法があってはいけないと思ったが、ナイフとフォークの使い方はさほど変わらず、白山を安堵させた。

海が近いせいか魚を贅沢に使った料理は、ここ暫く粗食に慣れていた白山には贅沢な夕食だった。


ブレイズとの会話の件もあり、毒殺の心配はないと考える白山は素直に食事を楽しんだ。


食事は、隣席した者同士でたまに会話をするぐらいで、比較的静かに進んでゆく。

幸いにして、白山にあれこれと聞いてくる人間はおらず、近くにブレイズが居てくれたおかげで孤立や質問攻めもなく、和やかに食事は終わった。



 食後には、食堂横に併設されたサロンにて酒を嗜むと給仕の執事らしき人物に告げられる。

王がサロンへ移動し、男性陣はそれに従って追従してゆく。


深酒は慎むべきと思っている白山は遠慮しようかとも考えたが、レイスラット王は先手を打ったようで

「異国の話を聞かせてくれ」と白山に言い放ちサロンに消え、退路を塞がれた格好になった。


仕方なく、サロンへの扉をくぐると、そこは応接室のようにソファーとバーカーウンターらしき物が設えてあり、

入るなり蒸留酒のようなグラスが渡される。


特に乾杯のような事もなく、皆が自然にグラスを口に運んでいた。


白山も香りと味を確かめる。

ブランデーのような甘い香りだが、口に含むとウィスキーの様に辛味もある飲んだ事のない味だった。


白山は、アルコールで不用意な発言をしないように舐める程度に控えながら、壁際で様子を見る。


レイスラット王は、ひとしきり周囲に声をかけると白山の所へやって来る。


「こちらの食事は、楽しんでもらえたかな?」


そう言って笑いかける王はサロンに集まった男達へ、白山を鉄の勇者として紹介した。

それを境にこれまで遠慮がちだった白山への接し方が一変し、皆が口々に白山に話をせがんだ。


白山もそれに答え、現代での生活や日本の文化について、差し障りの無い範囲で答えてゆく。

そうして夜が更けた頃、用を足しに白山がサロンを抜け隣の食堂で水を1杯もらうと、バルコニーから、外に出て火照った体を覚ましていた。



『まだ完全に安全が確保されている訳ではない』そう考える白山は水を飲みながら一息ついた。



不意に、食堂に通じる後のドアが開き白山は僅かに視線を向ける。

王が伴も連れず単身で白山のもとに歩み寄ってくる。


驚いた白山は、頭を下げるがレイスラット王は首を横に振り「よい」と言葉短く伝え、白山にバルコニーに備えられた簡素なガーデンチェアを勧める。


一気に酔いが冷めた白山は、勧められるまま椅子に腰掛け王と正対する。


「驚きました。一国の王が護衛も連れず、私のような身分も定かではない人間と直接お会いになるなど」


「いや、食堂でブレイズに控えてもらっておる。それよりそなたと話がしたくてな」


そう言ったレイスラット王は、恐縮する白山を見て、普段の王としての威厳ある表情ではなく、柔和な笑みを浮かべ白山に話しかける。


「此度の一件は、ブレイズからも少しは聞いているだろうが、恐らく帝国ないし皇国の息がかかった連中の仕業だと思われる。

どちらかの国が国内の貴族か傭兵に鼻薬を嗅がせたのだろう」


今日は移動を優先させたため、明日改めて遺体や現場を検分するそうだ。


白山は、ブレイズが白山との会談を報告している事を聞き、改めて王に切り出した。


「ブレイズ殿から聞きましたが、大変な国難の時期だと」


レイスラット王は、少し疲れたような顔を浮かべながら空を仰いだ。


「シープリットの王は儂と同い年でな。親交も深かったのだが得体の知れぬ皇王とやらに、王政を移譲してから姿も見せず心配でならぬ。

そして北の皇帝は武力での覇権を唱え、ここ数年で3つの国を平らげおった」


ため息をつき、星空から白山に視線を移したレイスラット王は、明確な外敵が存在する状況においても、まだ国内が結束しない現状を憂いでいた。



白山は、無言で頷くと国を一周して会談に向かったのは、国内の結束を図るためかと思い至る。

そして徐ろに切り出した。


「私は、今のところ帰還の手段を探して、王都への同道についてご好意を受けております。

今後、帰還の手段が見つかるかどうかはわかりません。その間、私に手伝える事がございましたら遠慮なくお申し付け下さい」


帰還の手段を探るとしても、国が戦火に巻き込まれてしまうとそれもままならない。

ならば、この国の安定に力を貸すことは間違いではない。白山はそう考えていた。



「有難い。そなたに初めて会った時まさに天啓かと感謝したが、そうしてもらえると本当に助かる。

王都に着いたならば、当面は儂の個人的な相談役として動いてもらえるか?

その間、この国の事について学んでもらい、伝説について調べられるよう取り計らおう」



「わかりました。ただ幾つかお伺いしたい事がございます」


白山は、少しだけ厳しい表情を浮かべると語を継ぐ。


「この国を『守る』事については協力を惜しみませんが、防衛の目的以外で他国を攻める際は一切協力できません。

また、ご存知と思いますが戦闘は数です。私の力は非常に限定的であり、過度な期待は抱かないようお願い致します」


まずは釘を差した白山は、本題とばかりに最後にレイスラット王に問いかけた。


「陛下は、この国をどう導きたいとお考えですか?」


この問を投げかけられたレイスラット王は、心中で突然ナイフを突きつけられたような驚きを覚える。

伝承の勇者は、使命に目覚め、魔王と果敢戦い国を救う存在だった。


少なくとも自分が知っている勇者は、そうであったと記憶している。


白山は自身の信条や限界、そして数の理論を冷静に告げてきた。更には国のありようにまで踏み込んできた。

勇者とは果敢な戦士であり、こうした国政には疎いと思っていた王は、予想していなかった質問に驚いたのだ。


しかしそれをおくびにも出さず、「ふむ……」と黙考する。


「月並みな答えではあるが、国内が結束し他国と協調して発展する事かの」


白山は、それを聞いて頷くと「分かりました」と真っ直ぐ王の眼を見る。


その瞳をまっすぐ見据えた王は、この男を敵に回してはいけないと直感する。



白山にはこれまでの所、王に領土的な野心や独善的な思考は感じられなかった。

もし、この段階で野心や欲望が面に現れていたら、白山は伝説の調査を早々に実施し距離を取るつもりだった。



こうして、王との面談は終了しサロンに戻ったが、時間も時間であり暫くして、お開きとなった。


部屋に戻った白山はブーツを脱ぎ、枕の下にSIGを隠すと王との会談内容を思い起こしながら、今後のプランを考えていたが、久しぶりのベッドの感触に、早々に眠りに落ちていった…………



*********


 王は白山との会話を終えると、最奥に位置する王族専用の居室へと戻る。

キビキビとした動作で扉を守る兵士が直立不動になり、王を出迎える。


現代の規模で言えば一流ホテルのスイートに匹敵するような広々とした部屋は、入口をくぐると、リビングが設えてある。

ドサリという音を立てて、クッションの利いたソファに身体を投げ出した王は、大きく息を吐く。


「今のところ害意はない。欲も見えん。それどころか、国のありようを問われるとはな」


直近の警護として王に付き従っていたブレイズが、王のつぶやきを聞き僅かに逡巡してから口を開く。


「畏れながら申し上げれば、到着後に私と会話をした印象でも謀りの気配どころか、恩賞の話すら口にしませんでした」


「無欲であり、謙虚な勇者か…… これなら貴族の方が余程御し易い」



そう言って押し黙った二人は、それぞれが何かを考えている様子で沈黙を守っていた。

その静寂を破ったのは、奥の扉から現れたグレースだった。


今夜の会食では名目上、体調が優れぬ為に静養となっているが、本当の所は安全上の理由からだ。

直系の血筋が王とグレースしか存在しない現状、今日の襲撃のような事態が発生した際、確実にどちらかが生き残らなければならない。

それ故にゴネるグレースを説き伏せて、自室にて食事となったのだが。


白山の、いや勇者の立ち居振る舞いを一刻も早く聞きたかったのか、淑女の嗜みも脇に置いて小走りで王のもとへと走り寄る。


「お父様、晩餐での様子お聞かせ頂けますか?」


いつものグレースであれば、父の顔色がすぐれない事を慮る気遣いがあったろうが、今のグレースは気づかない。

そんな娘の様子に苦笑しながらも、王は長く息を吐き、思考を整理するように白山が晩餐の席で語った会話をかいつまんで話した。


それを聞くグレースは、まるで童話を聞く幼子のように瞳を輝かせ、王の話に聞き入る。


「正直に言おう、王として数多の人間を見てきたがあの男は読めん……」


話題が一区切りついた所で、王は再び真剣な表情を浮かべ、グレースにそう言った。

薬も過ぎれば毒となるように、勇者という存在も使い方を誤れば、国を滅ぼす毒にもなり得る。


これが名誉や欲に溺れるような人間であれば飼い慣らすのは容易い。

しかし、白山の目にはそうした色は見えなかった。


それどころか、逆に心の奥底を覗かれるような深く静かな視線だった。

バルコニーでの会話は、一国の王に問いかける内容としては実に不敬なものだった。

本来ならば無礼討ちとなっても文句が言えないのだが、人品を見定めようと覗きこんだ瞳の深淵に溺れ、つい本音がこぼれた。


そんな雰囲気だった……


施政者としては誰にも聞かせられないが、王の本音は『恐ろしい』の一言に尽きる。

王という強大な権力を前にしても形式上は敬意を払っているが、畏れや媚びへつらうでもない。


それでいて単独で三十名近い武装兵を、短時間で討ち滅ぼすだけの武力を持っている。

味方としてみれば頼もしいが、敵に回った場合を考えれば命どころか国すら危ういかも知れない。


「ならばこそ礼を尽くして勇者様を取り込む事こそが、王国の命運を左右すると言えるのではないでしょうか?」


王が思案と不安に苛まれている白山の扱いに、グレースは事もなげにそう言い放つ。


「そうは言うがな……グレースよ……」


あまりにも簡単にそう言ったグレースに、反論が喉まで出掛かったが機先を制するようにグレースが言葉を重ねる。


「勇者さま、魔王を倒すのに力をかしてください!」


その言葉は、どこか懐かしく王の胸に響く。

王の思考が過去へと巻き戻り、亡き妃が娘に語り聞かせた、勇者の童話に出てくる一節である事を思い出す。

パチパチと暖炉の薪が爆ぜる暖かな部屋で母子がくつろぐ姿が、今でも鮮明に王の脳裏に浮かび上がった。


ふと視線を上げれば、つい先日までは幼子と思っていた娘の笑顔に、妃の姿が重なって見える。


何か胸のつかえがおりたように王は、ふっと肩の力が抜けるのを感じていた…………



ご意見ご感想 評価等お待ちしております。


次話 3日 2300更新予定です。

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