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仕事
「私と仕事、どっちが大事なの?」
出勤前の慌ただしさの中、
僕の生活に似つかわしくない言葉が飛んだ。
「急にどうしたんだよ?
流行りの映画にでも感化された?」
「茶化さないで。真面目に答えて」
君があまりに真剣な顔をするものだから、
真摯に向き合うことに決めたんだ。
「どっちが大事、か……
君には悪いと思うけど、
仕事が大事と答えるよ。
僕らがこの生活を続けてゆくためには、
やっぱりお金が必要だからね」
「そう言うと思った。大好きよ」
彼女は満足そうに微笑む。
「私を選ぶような軟弱者なら、
ひっぱたいてるところだったわ。
いつかは解ける恋の魔法より、
現実的なお金よね」
「君のことは好きだけど、
下手なホラー映画よりずっと怖いよ」





