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成金 稔は破滅する 〜01.賭け事〜
「嘘だろ?」
預金通帳を握りしめ、
成金稔は呻くようにつぶやいた。
体が凍り付いてしまったように動かない。
フリーターという身の上に、残高はたった五百円。
「年越し蕎麦さえ食えねぇ」
それは、完全なるビギナーズ・ラックだった。
知人に誘われて買った馬券が大当たり。
数十万円という収入に、稔の金銭感覚は麻痺した。
調子に乗って買い続けたものの、まぐれは続かない。
坂道を転げ落ちるように負け越した。
損を取り戻そうと、闇金融にまで手を出す始末。
近所で打ち鳴らされる除夜の鐘。
その音が、死刑宣告のように頭の中へ響く。
「もう嫌だ」
寝転がった拍子に、後頭部へ何かがぶつかった。
それは、一冊のライト・ノベルだ。
「異世界転生したい」





