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第三十話 作戦会議 光一郎と碧 その2

 暗闇の中、碧と同じベッドで寝ている。


 俺は碧に背を向けるようにして横になっているのだが、その背中に碧の暖かな体温を感じる。


 わずかに触れている身体と身体。


 鼻にシャンプーの甘い香りが微かに届いて、俺の本能を刺激する。


 さっきの、恵梨香の目の前でのキスは、計画にあったものだった。加えて、俺から積極的に動いたものではなく、碧からの不意打ちに近い感覚があった。


 だから、行為の過激さ程の興奮は感じなかった。


 しかし今は、流れの中で男女の褥を重ねている。


 ドキドキとして心臓は治まらないし、五感は張り詰めたように敏感になって冷めやらない。


 こんなもの、眠れるわけがない。


 そんな俺の耳に、碧の小さな声が届く。


「ねむった?」


「いや……無理っぽい」


 短く答えると、碧が「そうね」と素直に同意してきた。


「男女というものを甘く見てたわ。身体と心が乱れてるのは、私も一緒」


「碧という女性は、どんな時にも冷静沈着なんだと思ってたんだが」


「私も、そう過信してるところはあったかしら」


 ふぅと碧が熱い吐息を吐いて、俺のうなじをくすぐる。


「今頃、恵梨香さんとエミリさんは何を相談しているのかしら?」


「どうなんだろうな? ここまでコケにしたんだ。素直に俺を嫌ってくれればいいんだが」


「そうね。全てが終わったら、恵梨香さんとエミリさんには土下座して謝らなくてはいけないわね」


 そこまで会話して。


 ふと、二人の間に沈黙が落ちる。


 じっと焦れる様な時間が過ぎてゆき――


 いきなり、碧の腕が絡みついてきた。


 碧の熱い身体が俺に密着する。


 碧からの不意打ちだった。心の準備は出来てない。


「ごめんなさい」


 すがるような声音が俺の心を打った。


「今だけ。今だけ少し弱くなるの、許して……」


 碧が俺の背中に顔を埋める感触があった。


 碧の震えが、俺の身体に伝わってくる。


 心のドキドキというか、男の欲望的なモノは、きれいさっぱり消えていた。


 なにを考えているのだろう。なにを想っているのだろう。この碧という少女はいったいどんな生き方をしてきたのだろう。そんなことを感じさせられる瞬間だった。


 碧はそれ以上何も言わない。


 黙って。


 ただ黙って、俺にすがりついている。


 そのまま。


 眠れないと思っていた俺だったが、意識が遠く沈んでゆくのを感じていた。

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