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第十三話 作戦会議 その1

 五時間目はブッチした。


 二人には用事があると言って教室前で別れたが、嘘はついていない。


 俺はそのまま踵を返し、再び厚生棟のカフェテリアに戻る。


 午後の授業が始まって人気のなくなったカフェテリアを見渡すと、ぽつんと一つテーブルに座っている人影が見えてそこまで歩いてゆく。


「お疲れ様。消耗した様子ね」


 そう落ち着きのある抑揚をかけてくれた女生徒、水瀬碧の対面に俺は座った。


「まあね。正直に言って混乱した」


「でしょうね。卯月君、生徒会メンバーの中にいても、女子たちに囲まれていたところを見たことがないから」


「こんなことなら、もっと色気を出して女の子と付き合っておくんだった」


「今更という言葉ね。現状、女の子と楽しくやれているのだから喜べばいいんじゃない」


「むう……」


 言い負かされて唸ると、碧はふふっとクールな面持ちを少しだけ崩してくれた。


「はい」


 碧がポケットから小さな紙袋を取り出す。


「昼は食べたでしょうから、軽いものを用意してきたわ」


 そう言って、自分の目の前に置いてある紅茶のペットボトルと一緒に差し出してきた。


 中身はチョコチップクッキーだった。


「え? わざわざ作ってくれたのか?」


 俺が驚いて碧の顔を見つめると、


「そこまではしないわ。市販品よ」


 自分の両手をクロスさせてその上に顎を乗せる。目を少し細めて俺を楽しむ様子を見せてきた。


 俺は、「じゃあお言葉に甘えて」とそのクッキーを口に入れる。サクサクとした上品な甘さが口に広がった。


 二個三個口に入れてから、紅茶に口をつける。


「これ、すごい旨いな」


 感想を素直に音にすると、碧は俺が想像していなかった言葉を発してきた。


「関節キスね。その紅茶」


「え?」


「私が最初に口につけたから」


 クールな面立ちで悪戯っぽい笑みを浮かべる。


 クッキーを褒めた返答に、市販品なのだから当然でしょとか、高かったのよとかの返答を想像していた俺。その脳内を破壊する威力が碧の返答にはあった。


「え? いや、それはそうかもしれないが……」


 しどろもどろに言葉を濁しながら、どう答えればよいのかと回答を探す。


 碧は顎の下にあった手を動かし、両手で長く真っ直ぐな黒髪をなでる仕草。


「先が思いやられるわね、その様子だと。昼休みも恵梨香さんやエミリさんの責めに往生したんじゃないの?」


「って、見てたようなセリフで俺をこの時間になっても責め立てる!」


「見てたから。カフェテリアの隅で」


「なんですとー!」


 阿吽の呼吸で会話を交わし、二人して一緒に笑みを交わした。

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