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第十話 用意してきました

 いつもの生徒会皆での下校は、流石にいたたまれず用事があるからとブッチして一人で逃げ帰った。


 家で色々考えて対策を練る。


 取り合えず恵梨香エミリと仲良くして出方をうかがうという、碧と話した戦略だ。


 そして翌朝、下準備をして登校。教室に。


 恵梨香、エミリちゃんと、ホームルーム前ににこやかに挨拶を交わして授業になだれ込む。


 状況は、四時間目の終わり頃から訪れた。




「これで授業は終わるが……」


 パタリと広げていた教科書を畳んだのち、教師が一拍置いて言い放ってくる。


「卯月」


 いきなり教師の強めの声音で名前を呼ばれて驚く。俺も驚いたのだが、同時に教室内もざわざわと波打つ。


「生徒会長の綾瀬恵梨香、書記の帆場エミリに二人と同時に付き合うようになったようだが、ほどほどにな。いくらこの学園がおおらかな校風だとは言え、二股の女遊びの様な関係を好意的に見ている教師ばかりではないからな」


 言いがかりだろ、それっ!


 言葉にだそうとしたが、教師の言っていることは外側から見れば至極まっとうな見解なので、口を紡ぐ。


 教室中の視線を集めている俺は、押し黙って耐えるしかない。


 正直、泣きたい。


 俺、このままじゃ女癖の悪い浮気者じゃん。いや、そうなんだけど、実際はそうじゃない! と主張しようにもできない雰囲気が形成されつつあった。


「それだけだ。以上!」


 言い終わると、教師はクラスの反応も確認しないで教室を出てゆく。


 前日と同じく四時限終了のチャイムが鳴り、教室がとたんに騒がしくなった。


 クラス中の注目の中、恵梨香とエミリが二人して俺のところへやってくる。


「光一郎。今日こそ一緒に食堂へ行くわよ。今日のBランチは焼肉定食だから早くいかないと売り切れるわ」


「エミリはやっぱり二階のカフェテリアがいいなぁ。ちょっとお高いけれど、雰囲気のいい喫茶店とかファミレスみたいで」


 昨日より険しい顔で決断を促してくる恵梨香。


 対するエミリはニコニコしてはいるが、内心はどう思っているのかは計り知れない。


 俺は家で練ってきた計画を実行するために二人に向き直る。


「カフェテリアにしようと思う」


 言ったとたんに、エミリの顔が華やいで、対して恵梨香がいきなり俺の胸ぐらをつかみ上げてきた。


「光一郎! 私のことを捨ててだたで済むと思ってるの! 運命のパートナーなのよっ、私と光一郎はっ! 切り札使えっていう意味だととらえるけど!」


「運命のパートナーなのはエミリも同様ですよー」


「ちょっと待て! 話は最後まで聞けっ!」


 俺は恵梨香をなだめながら、袋詰めにしてきた重箱を机の上に乗せた。


「カフェテリアに行って三人一緒にお弁当を食べる。朝早起きして作ってきた。どうぞご賞味くださいというつもりで」


 恵梨香の動きが止まり、エミリも目をぱちくりさせる。


「そ、そういうことだったの。驚かせないで。一瞬、殺意をどうしようかと持て余したわ」


「光一郎君のおべんとーですかー。エミリは光一郎君といちゃいちゃできるのなら、取り合えずは満足ですよ」


 二人が納得してくれたようで安堵の息をつく。


 俺は周囲の生徒たちの視線を振り払い、二人を伴って教室を出るのであった。

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