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32 とある女官の独り言④

 長い廊下を走って、走って、走って…。


 本当は廊下は走らないようにと言われています。


 でも、今は、怒られたってかまわないです。



 あの方が!あの方が行ってしまう!!



 もう追いつけないのは解っています。今は昼を回っています。


 城を出たのは恐らく朝のことでしょう。


 それでも!!


 息が切れ、胸が痛いです。足も痛いです。


 泣きそうになりながら、私はいつもの中庭へと走ります。



 朝、ミドラドルさまがいないことに気付いたのは、長兄のワイデルトさまと聞きました。



 それから、噂はあっという間に城中に広がり…


 ヨルムンドさまとアリサキスさまは、ショックを受け、泣き叫んだと…。


 追いかけそうなヨルムンドさまを今は結界に閉じ込めているそうです。




 中庭に着いたとき、私は走り過ぎてふらふらでした。


 ですが…。



「い…ない…」



 行ってしまった!本当に何も言わずに…。


 涙が零れます。



「ふ…っ…!!あ…!」



 涙が止まらない!



 なぜ?なぜ??



 確かに、先王がお戻りになられたら、城を出ると話しておられた。


 だけど!だけど!!


 なにも言わずに!誰にも何も言わずに、まるで隠れるように出ていくだなんて!!


 ミドラドルさま…


 ミドラドルさま!



 ミドラドルさま!!



 確かに、私はただの女官です。


 本当だったら、話さえもできないような…。


 家族にも何も言わずに出て行かれたあの方が、私なんかに何かを言うわけはない…。


 そんなことは解っています!!



 それでも!



 そう考えながら、私ははっとしました。



 もし、何かを言われたとしても…


 出ていくあの方に…いったい、なにを言えばいいのでしょう?


 お元気で?


 お気を付けて?


 また会いましょう?


 何を言っても、寒々しく聞こえます。



 なんて、意味がない…!!



 きっと目の前にすれば、行かないで、と言ってしまう…。


 引き止めてしまえば、優しいあの方は、その足を止めてしまう…。


 自分の考えに涙がとめどなく流れます。


「う……っ!くっ…!」


 


 そうか…私は…


 ああ、なんて遅いの…。


 バカな私…


 


 優しいあの方の顔を思い出します。


 ちょっと困ったように笑う顔、諦めたようでそれでも前を見据える瞳…


 優しくて、不器用で、綺麗な…


 遅すぎる…!!


 なぜ気付いてしまったんだろう?


 バカなミリア…


 こんな時に気付いてしまうなんて!!





 …好きです


 すき…


 言えるわけもなかった…


 困らせるとわかっていて、そんな想い…



 ミドラドルさま…!



 私は中庭の入り口に座り込み、声を押し殺して泣いていました。







 どれくらいの時が経ったのでしょう?


 涙が止まり、ぼんやりと中庭を見ていました。


 眼も頭もずきずきと痛み、それでもまだ涙が出そうになります。



 エルフの寿命が長いとはいえ、国を出たものが、国にいるものに会うことは恐らくできないでしょう。

 

 それくらい、エルフは自分の国を出ないのです。


 恐らく私も、一生国を出ることはないでしょう。


 だとすると、ミドラドルさまとは永遠の別れになるのでしょうか?


 またじんわりと涙が零れそうになります。


 ですが、はっとして、ぐっと手の甲で涙を拭きます。


 こんな私を見れば、きっとあの方は困ったように、「泣き虫だな、ミリアは」と笑うでしょう。


 私は、ぐっと眼に力を入れます。そして、震える声で決意します。


「泣きません!!


 私はっ…ミリアはもう絶対に泣きません!!


 ミドラドルさまのように強くなります!!」


 だから…!!


 必ず、もう一度、会わせてください!!


 あなたに…!!



 

 そう言った瞬間――


『行ってきます、ミリア!』そう聞こえた気がしました。



「いってらっしゃいませ、ミドラドル王子。


 無事のお帰りを心よりお待ち申し上げます」



 ああ、だめです。


 泣かないとたった今決意したのに…


 涙が零れて止めようがありませんでした。


 これが最後だから!!






 ミドラドルさま、私はあなたが好きでした。



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