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20 とある影のつぶやき①

 羽を見せてほしい!そう言われて、あれ?と思った。

 朝は、いらないって言ってたのに…

 

 長が、ワタクシが…と言っていたけど、男の羽はいらん!と断ってる。

 そういうことならと、羽を出すと、さっきまでの冷静さはどこに行ったの?というくらい感動してた。

 それで、かわいい!きれい!さすが、妖精!と褒めてくれる。

 隣で長が、ちょっと不機嫌だ。

 男女差別…とか言ってる。


「かわいい!!うん!!


 君は『テフ』だね」


「『テフ』?」


 珍しい名前…


「うん!蝶みたいに羽がきれいだし、かわいい!!」


 テフ…


「ありがとう、『テフ』好き」


 そう言うと、髪の毛をくしゃくしゃと撫でてくれる。


 本当はあんまり頭触られるの好きじゃないけど、ミドラドル様の手は気持ちよかった。






 ミドラドル様を初めて見たのは、小さな中庭だった。


 あの日、交代で監視していたシュヴァルツの王弟。


 時間が来て交代して、ちょっと散歩のつもりで中庭に行ってみた。


 そしたら、銀髪の男の人が洗濯してた。


 髪の毛が日の光できらきら糸みたいに光ってたから、離れたところからじっと見てた。


 もうちょっと近くで見たくなって、仕事じゃないけど、『隠影』して近くの植え込みまで近づいてみた。


 『隠影』は影の中に入り込む魔法。

 テフたち一族だけができる特別な魔法。

 影に入ったら、見えなくなるし、気配も消えるから、同じ一族と魔王様以外は見つけられないって長が言ってた。


 だから、見つかりたくないときは、影に入ってしまえば分からない。


 でも、銀髪のエルフは、なぜかこっちを見て、固まった。


 え?見えてる?そんなわけない!!


 そう思っていたら、怪訝な顔をして、急にふっと笑う。


 やっぱり、見えてる?


 こっちを睨みながら立ち上がったので、焦る。


 こっちに歩き出そうとするから、どうしようと植え込みから出ようとした。

 そしたら、銀髪のエルフの後ろから女のエルフが声をかけたので、意識が一瞬そっちに向いて、テフは逃げた。


 

 見られたかもしれない、気付かれたかもしれない。


 なら、あれは魔王陛下!?

 それとも、同族?


 エルフに見えたのに??


 怒られるのも怖かったし、魔王陛下かもしれない、なんて長に言えなくて、その日のことは、内緒にした。


 でも、内緒にしたら、後でもっと怒られた。

 長、こわい。






 長は『隠影』がすごく上手。

 一族の中でも一番。一族でも、見つけるのに苦労する。

 そんな長が、シュヴァルツの王弟を見張っていた時、何故かそこにミドラドル様がきたらしい。


 そして、『隠影』していた長をじっと見ていた。

 そこにいることが気付かれているとしか思えなかったと言っていた。



 次の日から、今回の依頼だった王弟の監視を解除して、ミドラドル様の監視をするよう言われた。


「『隠影』で普通に監視をしてください。


 目があった、気付かれた、見つかった、そう感じたら、報告してください。


 いいですね?手は出さないでください。ワタクシが指示を出すまでは…」


 一族にとって、長の命令は絶対。


 長は、ずっと一族を率いてきた、最古の妖精。


 何か考えがあるんだろうな。


 


 その後、報告は、ほとんどが見つかったというもの。


 長は報告に、愉快そうに笑っていた。


 長が笑ってるの、怖い…


 いつも笑みの顔だけど、本当に笑っているのは、数えるくらいしか見たことない。


 でも、ミドラドル様のことに気付いてからは、楽しそうだ。


 黙っていたことに怒られたのは、このとき。




 監視して三日後に、別の命令をされた。


「王子の影に『隠影』して、人目のないところで、本気で攻撃を仕掛けてみてください」


「本気で?」


「はい。ただし、殺してはいけませんよ」


「ですが、さすがに見える王子でも、気配までは分からないのでは?」


「それを、確認したいのです」


 意味が分からない。


 けど、命令だから、攻撃を仕掛けることにした。




 失敗したけど、長がすっごく嬉しそうだった。


 すごくご機嫌。


 テフも名前もらえて、嬉しい。ゴウもご機嫌。


 長は、前、妖精の名前は特別なものだから、主にしか付けることはできない、って言ってた。


 だから、ミドラドル様はテフたちの主になった。





 後で言われた。


「テフ、許可はもらいました。


 あなたは、あの方の影に『隠影』しなさい。


 男は嫌だと言われたのです…。


 そして、絶対に守りなさい。


 たとえ、あなたが死んでも、命がけであの方を守り抜きなさい」


 どうして、そんなに?と首を傾げるテフに長は続ける。


「あの方を、絶対に失ってはいけません。


 あの方は…ワタクシたちの希望です」


 うん!長。

 

 テフは名前をもらった時から決めてたよ。


 テフはあの方を絶対に守ってみせるよ。

 

 

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