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「申し訳ございません」
…記憶を取り戻して見る、二度目の土下座です…
「あ、いや…。ほら…
傷も治してもらったし…」
ぱっと顔を上げるひょろっとした男。
「…痛かったけど」
「ああ!!申し訳ございません!!!」
また、頭をこすりつける。
両隣の二人は、頭を地面にこすりつけたままだ。
「まあ、いいんだよ。気にするなよ」
にっこり笑う。また顔を上げる男。
「…怖かったけど」
「申し訳ございません!!!!」
おっと、今度は地面なのに、すごい音がしたぞ…大丈夫か?
「本当に、この二人のしたこと、お詫びのしようもございません」
「…ごめんなさい」
「申し訳ない」
「で?謝罪はもういい。許したわけじゃないが、話にならないからな」
土下座からゆっくりと顔を上げる、ひょろっとした男。
目は笑みの形のままで、どこを見ているのかわからないし、本当に笑っているのかも分からない。
口元も笑みの形のままだが、とにかく表情が読めない。年齢も不詳だ。
表現するならキツネ。顔も細く、身体も妙にひょろっとしていて、異様に猫背だ。
この男が来なきゃ、死んでいたかもしれない。
あの後の話だ。
木の裏から、現れた男は俺にちらと目をやり、笑んだような表情のまま2人を睨むように見る。
「やりすぎですよ、お二人とも。
殺す気ですか?」
言われた二人は、はっとしたように武器を慌てて鞘に戻す。
「すまない。最初の攻撃をよけられて、つい…」
いや!!最初の攻撃…!!避けなきゃ死んでましたよね!!?
「ごめんなさい」
ん?やっぱり一人は女の子か。
「申し訳ございません。傷を見せてください」
「っつ!」
警戒は解いてないが、少しほっとしたのか、傷が痛んできた。
これは、けっこうな傷じゃないか?
「動かないでください」
ひょろりとした男は手を俺の背中の傷にかざす。
何かをぶつぶつ呟いている。
ん?痛みが…??
遠ざかっていく痛みに腕の傷口に目をやると、傷が塞ぎかかっている。
あれ??
……………ああああああああ!!!!!!!!
俺は心の中で叫んだ!
ファンタジーの片鱗!!
治癒魔法を生で見る機会がああああああ!!!!
いや、もちろん、『ミドラドル』は見たことがあるんだよ。
水系統の奴はほとんど持っているからな!
でも、『日本人』の俺は、魔法を見たことがない。
…魔法使えないかなあ、とか思って、呪文は唱えてみたことがある。
でも、系統のない俺が、魔法を使えるわけもなく…
かと言って、誰かに使って見せてくれ、というのも不自然すぎて、言えなかった…
今!今、最大のチャンスだったのに!!!
と言う俺の葛藤を知らず、三人は俺の前に土下座して、頭を地面にこすりつけた。
だから、ちょっと意地悪になっても仕方ないと思う。
命を失うところだったんだ!
「さすが、お心が広い!!ワタクシ、感動いたします!!」
「…いや、許してないぞ」
「申し訳ございません」
にやりと笑っているように見える。
なんだか腹が立ってきた。
「おっと、朝食の時間だ」
俺は立ち上がる。ひょろっとした男は慌てる。
「ちょっ…待ってください」
「無理だ。俺は、朝食抜きはごめんだ」
「…では、今晩、お時間をいただけませんか?」
癪に障るが、話は聞きたい。
「わかった。部屋に来い」
「ありがとうございます」
俺は歩き去ろうとした。が、途中思い至って、振り返る。
「お前ら、俺の周りをちょろちょろし過ぎだ。
他の三人にも言っておいてくれ」
ひょろっとした男は初めて、笑みの形を崩す。
「…ワタクシたちの違いがお分かりで?」
「ああ、最初は同じ、黒くてもやっとした塊に見えたんだが…んー…雰囲気?
色とか、形?よく分からんが、個性?
そんなものが見え出して…
あとは、違いを見ると何体いるかわかってきた。
今日見るまでは、死霊系の何かと思っていたんだが…。
まさか……」
あれ?そういや、こいつら…
「お前らの種族って何だ?」
人型だけど、エルフみたいに耳はあまり尖っていない。
三人とも、髪の毛は真っ黒だが、瞳は金色だ。エルフはほとんど髪に色がついている。
黒とか白はほとんどない。
ひょろっとした男はにんまりと笑みの形を作る。
「はい!ワタクシ共は、妖精族でございます。
はるかはるかの大昔、ある精霊長と契約せし、唯一の妖精族。
その末裔にございます。
名乗りが遅くなり申し訳ございません」
!!妖精族!!?
……羽は??
「羽は出し入れ可能です。出しましょうか?」
俺の視線に気づいたのか、ひょろっとした男は答えた。
「いや…いい」
正直、男の妖精の羽を見たって、おお、ファンタジー!!とかの感動はない気がする…。
むしろ、見たくない。
「まあ。とにかく、今夜待っている」
俺は背中を向けて歩き出す。
無防備だって?いいさ!
敵意みたいなのはもう感じないから。
「かしこまりました、魔王陛下」
…………ん????
俺は振り返る。
が、そこにはもう誰もいなかった。
「……あいつ…」
今、なんて言った!??????




