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まあ、結論から言おう。
勘当は保留になりました。
理由?
祖父さまが領地に行っていて、その間だけ保留になったというだけだ。
朝、出ていこうとした俺に、次兄がそう伝えに来た。
ああ、昨日父上はそれを伝えようとしていたのか。
俺がさっさと部屋を出てしまったから。
と言うわけで、今日も仕事に勤しもう。
あ、朝食は、反省も含めて、部屋でボッチ飯にしました。
二度とごめんだ!!朝飯抜きとか!!
そして…
ん??またか?
今日何度目だろう??
もう視線も向けたくない!!
でも、気付いちゃったら、目を向けてしまう。
なんだ??どうして、こんなに『なにか』が増えたんだ??
これが見え出したのは、『日本人』の記憶が戻ってからか?
急に『なにか』の存在に気付いてしまったのだろうか?
いや、以前から、感じてはいたのか?
でも、まったく気にしていなかったのか?
…意外に大物だな、『ミドラドル』。
俺が小物すぎるのか??
でも、怖いじゃんか!目で確認して、何もないって確信したいじゃないか!!
ああ、でも、見たのは失敗か?!
そりゃ、幽霊も自分が見える奴がいたら、そいつに集まってくるよな?
うう、怖い…
今日は起きた時から、気付いてしまった。
ちなみに、深夜に寝すぎてジョギングには行けませんでした。
ヴァンパイアめっ!!
起きたとき、部屋の隅に一つ、天井の辺りに一つ、窓の外の上の辺りに一つ。
次兄に廊下で会ったとき、次兄の後ろの大きな花瓶の脇に一つ、天井の辺りに一つ、俺の後ろに一つ。
食堂で、厨房に一つ、近くの机の下に一つ。
高い天井のすす払いをしているとき、すぐ近くの天井に一つ、下の廊下の隅に一つ。
昼食のとき、クローゼットの中に一つ、ベットの下に一つ。
そして、洗濯をしている今も…
以前の植え込みの影に一つ、中庭の入り口階段近くに一つ。
ああ、もういい加減にしてほしい。
気分が悪い!
『なにか』が分からないから、余計に癪に障る。
せめて、せめて、接触してきてくれ…は、怖いから、やっぱりいいや!
無視すればいいんだよ、と『ミドラドル』も言っている!
『ミドラドル』も幽霊は怖いくせに、偉そうに…
「どうかしましたか?」
ミリアが心配そうだ。
やばい!女の子に心配させるとは…
「あの…聞きました…」
なにを??
俺が何かを言う前に、ミリアが話し始める。
「…その…伯爵の御子息に…」
「ああ…」
言いにくそうだったので、相槌を打つ。
「そうだな…どうやら、先王がお戻りになられたら…城を出ることになりそうだ…」
「…っっつ!!」
ああ、ミリアが泣きそうだ。
大きな瞳に涙をいっぱいに溜めている。
「…泣かないでくれ。俺は大丈夫だ」
そう言うと、ますます泣きそうになる。
あれ?どうして??
「ミリア?」
だめだ!今は何を言っても、泣きそうな気がする!!
「ミドラドルさま…。どうして受け入れてしまうんですか?
どうして言い訳をしないんですか?」
ミリアは、泣きそうになるのをこらえて、俺をまっすぐに見据える。
「今日も…何も言わないから、まるで一人、悪者みたいに言われて…。
ミドラドルさまはそんな方ではないのに…
私、悔しいです!!」
ちょっと嬉しい。
少なくとも、ミリアだけでも信じてくれる…
「ミリア、ありがとう。
でもね…これで良かったとさえ、俺は思ってしまうんだよ」
「え……?」
ミリアのきょとんとした顔に思わず笑いそうになる。
「俺はね、ミリア。
きっと…ここじゃない場所に行きたいんじゃないかと思ってる」
そう言った瞬間、ミリアははっとした顔になり、真剣な表情になった。
あれ?なんだ?
「…わかりました」
え?わかったの?なにを??
「そういうことなら、私はもう何も言いません」
あれ?解決??いや、もっと何か言われるかと…
「あなたの御武運をお祈りいたします」
ん?大層な話になってやしないかい??
「…ありがとう」
取りあえず、礼は言ってみたが…ミリアの中で、どういう風に解決したんだろう??
ミリアとそんな話をしている間に、『なにか』が二つほど増えた…。
渡り廊下の屋根の辺りと、洗濯物を干している竿の近く…
…本当にいい加減にしてほしい…
一体、だれに文句を言えばいいのか…
とりあえず、魔王廟にお祓いに行ってみるか?
あ、この国の信仰はどうやら魔王陛下のようです。
神も仏もいなくて、大陸中が魔王陛下信仰です。
同時投稿の16は女官視点です。




