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道のりを考えると、どうにも部屋に行くのは気が進まなかった。
それに、ボッチ飯にも程がある気がして、仕方なく、いつも洗濯している中庭で食べることにした。
中庭入り口の数段の階段に座って、さっさと食べようとする。
お盆を隣に置いた。
が、置いた盆をガッと蹴られた。
シチューがぶちまけられる。
あー!もったいなっ!!
蹴った当人は予想通りで笑えた。
「おや、こんなところに、庶民の食事が?
汚らしい!!
おい、そこの!さっさと片付けたまえ」
はあ…
ため息しかでない。
盆を拾って、その上に食器を乗せる。
「ああ、誰かと思えば…ミドラドルさま!
あまりにも庶民臭かったので…おっと失礼」
あんまり失礼と思っていないんだろうが、こいつに絡まれるくらいならボッチ飯でよかったよ…
っていうか…俺の朝飯…
こいつは、あれです!
例の俺を嵌めようとしてくれた、伯爵の息子です。
ちなみに、娘もこんな感じです。
取り巻きを何人か連れて、食器を拾う俺をくすくす笑っている。
ああ!こいつ!!
俺を怒らせて、問題を起こそうとしているんだな。
次に問題を起こしたら、勘当だもんな。
うん!
『ミドラドル』がブチ切れそうだ!
まてまて!落ち着け!!
こんな時は、必殺、あれだ!!
俺はゆっくりと立ち上がる。
相手は少しびくっとして、少し後ろに下がる。
ああ、うん。
怒らせて問題を起こさせようとしていても、手を出されるのは怖いよな。
というか、しまった!!
これ、逃げても、目撃者がいないから訴えられたら、どうしようもない…
ちょっと手詰まりじゃね?
でも、何もしないよりマシか…
俺はにっこりと笑う。
相手は俺の反応に戸惑う。
お!これはおもしろい!
「スレイン殿。俺は仕事がありますので、失礼しますね」
そういうと、相手は呆気にとられたような顔で固まった。
俺はチャンス!とばかりに、お盆をもって、走り出した。
逃亡あるのみ!だ!!
うん!
おもしろかったが、これはしまったな。
また罠にはめられた気がする。
俺は、食堂に戻りながら、ため息をついた。
追い詰められたな…
気分はどん底になりながら、重い足を進めた。
思った通りだ。
予想通り、俺はその日の夜、父上に呼び出された。
「ミドラドル、スレイン殿に手を出したというのは本当か?」
…目撃者がいないんじゃ何を言っても無駄だろうな。
でも、まあ、一応…
「俺は何もしておりません」
「スレイン殿は、お前に殴られたと言っている。
目撃者もいるのだぞ」
だめだ。
やっぱり、手詰まりか…
いい案なんか浮かばない!
この状況を打開できる案なんか…
「…わかりました。残念です。
申し訳ございません」
頭を下げる。
ああ!
さすがの俺でもあまりの理不尽さにキレそうだ。
俺がなにをした!!
仕方ないとは思っても、胸がむかむかする。
これは、俺の日頃の行いが悪いせいばっかりじゃない!!
運か?運の問題なのか?
いや!確か、あの伯爵も小太りだった!!
呪いだ!これは、前世からの呪いだ!!
一度、お祓いに行くべきだな!
「次に問題を起こせば…」
「勘当ですね。
分かっています。
今夜中に城を出ます。
お世話になりました」
直接言われるのが嫌で、思わず遮った。
直に言われると、ダメージが計り知れない。
いろいろ複雑な想いはあるが、俺は、一応、父上を尊敬しているんで…
頭を上げることなく、そのまま出ていこうとする。
勘当となると、俺は一般市民になる。
国王に頭を上げていい立場じゃない。
どんな顔をしているかは気になるが、それによっては俺の心が更なるダメージを負いそうだ。
くそ!!
あの親子!!
覚えていろ!!
というか、俺になんの恨みがあるんだ?!
「まて!」
父上に声をかけられるが、俺は頭をさらに下げて、退席する。
これ以上、ここにいられるか!
扉を閉める直前、父上が何かを言っていたが、俺は聞こえないふりをした。
ドアを出て、俺は逃げるように走り出す。
くそくそ!!
理不尽だ!!なんだってんだ!!!
また、何もできなかった!
結局、信じられないなら、何を言っても無駄だ!
くそ!!
泣きそうだ…!!
俺はあの小さな中庭に来ていた。
そう言えば、あの黒い『何か』がいたのは…
植え込みの影、今は何もいないが、そこに座り込む。
自分を憐れんでなんかやらない。
自分の不甲斐なさに泣けても、涙は落とさない!
ごめんな、『ミドラドル』。
俺は結局、お前を助けられない…。
ただ、落ち込んでいた。
気分はどん底だ。
「おや?そこにいるのは…」
急に背中に声をかけられて、俺は慌てて振り返った。
次回、ちょっとした出会い。




