【天武】の試練 見えない光明
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
スゥ―――-どうも、作者です。
はい、ものっそいお待たせいたしました。覚えている方はいらっしゃいますでしょうか?
気が付けば三か月も空いてしまいました、本当に申し訳ございません。
ここからは一週間に一度くらいは更新出来ると思いますので……はい、頑張ります。
では、本編どうぞ。
「っ! ローザネーラ! 下がれ! 魔法での援護、よろしく!」
「……はっ! わ、わかったわ、ますたー!」
目の前の光景に呆けるローザネーラを正気に戻しつつ、俺は首切り君を構えて走り出した。
にっちもさっちも、あのデカ物をどうにかしないことには先に進まない。
考える事は一つ――――アイツを、倒す。
訳の分からない展開の連続に混乱しっぱなしの思考を、一つの思考で塗りつぶすことで冷静さを取り戻す。
「くっ、デカすぎんだろ……!」
荒野を駆け、接近することで分かる、ジャバウォックの巨大さ。
ちみっこくなっちまった俺の何倍だ? 十倍はあるかもしれない。
いつもは頼もしい首切り君が、今は頼りなく感じてしまう。
『キャアァァァァァアアアアアッ!!』
「なんて言ってるのかわかんねぇぞ!」
ジャバウォックは金切声のような音を口腔から掃き出し、近づいてきた俺を威嚇する。
黒い毛皮で覆われた巨大な前腕が持ち上がり――――薙ぎ払いかッ!
「《飛行》ッ!」
背中の翼を羽ばたかせ、上空に退避する。さっきまで俺が立っていた場所を、巨大な前腕が通過し、地面を削って轟音が響いた。
吹き飛んでいく土塊と立ち昇る砂煙が、その一撃が有する威力を物語っている。
一撃でもまともに食らえば即終了。オワタ式ってヤツだな。畜生め!
「だったら、やられる前にやってやる! 【グリム・ザッパー】!!」
思いっきり翼を羽ばたかせ、空中で加速する。
顔の無いヤツメウナギの下あたり、首の辺りに大鎌を叩き付け――――ん?
スカッ!
「おっ!? おおっ!?」
なんだ!? 首切り君が……すり抜けた?
いや、回避されたのか? あの巨体でスピードもあるのか?
だとしたら、かなり厄介だな……。
「けど、もう一度――――【ザッパー】!!」
相手の能力を確かめるために、もう一度攻撃を叩き込む。
さっきは回避の瞬間を見れなかったから、ジャバウォックをしっかりと見ておこう。
目を凝らしながらアーツの光を纏った首切り君を振るい――――スカッ。
「……………………は?」
『キャシャァァァァァァァァアアアアアアアアッ!!』
「え、ちょっ! うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」
空中に顕れる複数の魔法陣。おどろおどろしい漆黒のそれは、敵意を滲ませている。
それはまるで、対空している俺に向けられる無数の銃口のようで。
間違いなくジャバウォックが発動したモノ――――そうじゃなくて!? いや、それもどうにかしないといけないんだけど!?
『キュゥゥゥゥゥゥォォォォォォオオオオオオオッ!!』
漆黒の魔法陣からは、魔法陣と同じ色の棘が無数に放たれる。この巨体で魔法攻撃系なの、詐欺じゃない??
この黒い棘は《飛行》だけじゃ回避は間に合わない。
――――なら、別の力を使えばいい。
目前に迫った魔法を見据えながら、口を開く。
「《エア・ステップ》!」
そして、空を蹴りつけ、魔法の範囲からムリヤリ身体をズラした。さっきまで俺がいた空間を、黒い棘が通り過ぎていく。
ふぅ、危ない危ない。あんなのに当たったら、蜂の巣よりも酷い目に遭うところだった。
《エア・ステップ》。進化に伴って新たに入手したこのスキルは、回数制限は在れど空中を蹴ることが出来る。
習得したての今は、まだ一回しか蹴ることは出来ないが、それで十分。
空中で急な軌道で動けるのは単純に強い。
翼を羽ばたかせて、ジャバウォックから距離を取る。攻撃が届かない場所で、少し考え事をする。
「攻撃……届いていないよなぁ?」
二度目のアーツ攻撃。アレは確実に当たってたはずだ。だが、手応えが全くなかった。まるで、攻撃そのものがすり抜けてしまったように。
敵のHPを確認するも、変動はなし。うーん、どうなっているのやら。
手を動かし、配信のインターフェースを開く。
・ファッ!? なんだこのモンスター!?
・ヴェンデッタちゃんの攻撃、当たってたよな?
・見間違えじゃなければ、当たってた
・物理無効……ですかねぇ?
・なんやそのクソゲー! チートやないか!
・物理が効かないんなら魔法で殴るんだよぉぉ!
どうやら、コメント欄の人たちも同じ意見らしい。
物理無効とか、厄介ってレベルじゃないぞ……。
けど、コメントを見たことで解決法も見つかった。物理が効かないなら、魔法で攻撃すればいいじゃないってな。
「ローザネーラ! 魔法攻撃、いけるか!」
「もちろんよ、ますたー!」
ジャバウォックから離れた場所で待機していたローザネーラに声をかけ、俺も魔法の準備を開始する。
翼を動かし高度を上げる。ジャバウォックを見下ろす位置で翳した手は、魔法を放つ砲身。ジャバウォックを狙い、引き金代わりの魔法名を叫ぶ。
どうせなら、覚えたての魔法を使ってやろう。【闇矢】の上位互換を御覧じろってな!
「――――【闇剣撃】ッ!」
「――――【空撃砲】ッ!」
俺の手から放たれたのは、暗色の魔力で形成された剣。【闇矢】と同じ単体攻撃魔法であり、手数が減った代わり、威力と射出速度は段違いだ。
俺の背丈よりも大きなソレが、ジャバウォックのデカい口を目指して高速で突き進んでいく。
ローザネーラが放ったのは、【星の戒め】と同じく《次元術》。確か、空間を歪ませて発生した衝撃波に指向性を持たせることで砲撃……というか、ビームみたいにして放つという魔法だったっけ? 何をどうすれば衝撃波がビームになるんだろうか……。
俺の放つ黒剣が上空から、ローザネーラの放つビームが地上から、ジャバウォックに襲い掛かる。
・おぉ! 新魔法!
・闇属性っていいよな……
・ダークネスっていいよね
・厨二乙
・なんだあのビーム!?
・また知らない攻撃してるぅ
ええい、厨二とか言うな。エゴサした時に散々『厨二病』だの『痛カワイイ』だの言われて、ちょっと気にしてるんだからな!
と、戦闘に関係ない思考はさておき、ジャバウォックに魔法を撃ちこんだ結果は……。
「…………嘘だろ?」
思わず声が零れる。頬を、一筋の汗が流れていった。
首切り君を強く握りしめ、俺は引き攣った笑みを浮かべる。
俺の黒剣も、ローザネーラのビームも、確かに命中していた。
なのに――――。
『キシィィィィ……』
――――無傷。
魔法の残滓と衝撃で発生した砂埃が消えた後には、まるで変わりのないジャバウォックがいた。
慌ててヤツのHPバーを確認するが、やはりと言うべきか、一切の変動がなかった。
えぇ……物理攻撃無効に加え、魔法攻撃も効果がない……だとぉ?
俺とローザネーラの魔法を受けても、傷一つ付いていないどころか、その場から動くこともないとは……ちょぉっと、自信がなくなってしまいそうだ。
「なぁ……っ!? アタシのまほうが、きいていない……ですってぇ!?」
ローザネーラが、驚いた俺と同じような反応をしている。
気持ちはよくわかる。頭の中で己の手札を並べてみても、『物理も魔法も効果がない敵』への対処法は思いつかない。
まさか、ジャバウォックは無敵のモンスターなのか? システム的に倒せないとか……って、何を弱気になっているんだ、俺。
唖然としたアホ面を晒していただろう顔を叩き、弱腰になっている自分に活を入れる。
絶望するな、思考を止めるな、諦めてるんじゃない。
突破口がないならないで、突破以外の方法を考えればいい。
下をくぐるのか、大きく回り道をするのか。方法はわからないけど、『ジャバウォックの撃破』というゴールにたどり着く方法はある筈だ。
…………シユウは、この戦いが試練だと言っていた。
試練と言うからには、なにかしら乗り越える方法がある筈だ。クリアできない試練なんて、そんなものはただの理不尽でしかない。
シユウ俺たちに理不尽を押し付けて、まんまと押し潰されることを楽しむような性悪だった場合、この推測は外れることになるが……それはないと思っている。
数度、言葉を交わしただけだが、シユウの性格は武人気質だと分かる。
なので性悪でまどろっこしい真似はしないんじゃないかと思うのだ。
ちらり、と離れた場所にある岩に胡坐をかき、戦う俺たちをニヤニヤと見ているシユウに視線を送る。俺の考えが間違っていないか、その表情から少しでも見破れないかと考えたのだ。
だが、結構離れた場所から見たはずなのに、彼女は一瞬で俺の視線に気づき、目を合わせてくる。
シユウはそのまま、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。なんだか、心の中まで見透かされているような気分だ。……って、そういえば最初に襲い掛かった時に思考を読まれていたな。
と、すれば今の笑みは……肯定、かな。確証はないけど、そう考えてもいいだろう。
よし、タコ糸よりも細いけど、なんとか光明の糸は見えた。
なら、後はそれを死に物狂いで掴みに行くだけだな。
首切り君を構えなおし、翼を大きく羽ばたかせ、俺はフードを外して笑みを浮かべる。
「無い首を洗っておくんだな。絶対に攻略してやるよ、ジャバウォック……!」
・諦めない、それでこそヴェンデッタちゃんや!
・ひぇ、殺意マシマシだぁ
・バサってフードを外すの、カッコよくない?
・わかる
・でも、物理も魔法も効かない敵をどうやって?
・お? ジャバウォックも動き出したぞ!
俺の殺気を感知したのか、ジャバウォックが魔法陣を展開する。
今度は白色の魔法陣だ。黒い棘を放ったそれよりも大きく、数は一つ。
『キャシゥウウウウウウウウウウウッッ!!!』
金属音じみた叫び声をジャバウォックが上げることで、魔法陣が起動する。白色の魔法陣は光を放ち、その中心から純白の球体を生み出す。
遠近法で分かりづらいが、俺の身長よりもデカいその球体は、まるで意志を持っているかのように動き出し、俺へと向かってくる。
グネグネと蛇行しながら加速する球体に、俺は首切り君を構えて待ちの体勢に入った。
あの動き、予測が付けられない。下手に躱すよりも、迎え撃つ方が吉と見た。
「《魔纏装》――【闇】」
あの魔法の効果が不明なので、念には念を入れて、新スキルも発動させる。
魔法を武器に纏わせ、様々な効果を得るスキル――《魔纏装》。
《魔纏装》【闇】は魔力減衰効果がある。攻撃した相手の魔法攻撃力、魔法防御力に対してデバフをかけ、さらには魔法攻撃と接触時にその魔法を弱体化させるのだ。
首切り君に漆黒の靄が絡み付き、禍々しい魔力を放つ。
真紅の刃に絡み付いた漆黒が、妖しげな雰囲気を纏わせた。ちょっと邪悪さが過激だが、今はそのくらいが頼もしい。
「よし、こいッ!」
ジャバウォックの放った純白の球体は、もう間近。
首切り君を握りしめ、タイミングを見て振りかぶる。
接触まで、3、2、1――――ギュンッ! スカッ!
「はへ?」
唐竹に振り下ろした首切り君が、空中を切り裂いた。
純白の球体は、俺の目の前で急激に進路を変更し、俺の背後へすり抜けるように駆けて行った。
え、なにその挙動。もしかして、不規則な軌道を描いているわけじゃなくて、遠隔操作式だったりする?
となると、狙われるのは……ヤバいッ!?
「ローザネーラッ!!」
慌てて反転し、翼を強く大気に打ち付けて加速する。
純白の球体は、案の定、まっすぐにローザネーラを狙っていた。
「へ? ますたー……って、なんかきてるー!?」
ローザネーラは咄嗟のことで反応が遅れている。わたわたとして回避も防御も難しそうだ。ええい、この速度で追いかけて間に合うか? 《エア・ステップ》の加速分があっても……ギリギリ、間に合いそうにない、か。
「仕方ない。ローザネーラ! 当たるなよ! 【ブーメラン・サイス】ッ!」
「へぇ? ちょっとますたー? なんでおおかまをふりかっぶ「オラァァァッ!」きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は前を進む純白の球体めがけて首切り君を全力投擲ッ! 飛翔速度はこっちが上、このままぶち抜け――――おん?
ヒュゥゥゥゥゥンッ!(首切り君が回転しながら飛ぶ音)
ギュインッ!(球体が唐突に進路を上に変える音)
スカッ! ヒュゥゥゥゥゥ!(目標を失った首切り君がローザネーラめがけてすっ飛んでいく音)
ギュィィィィィンッ!(球体がUターンして俺に向かってくる音)
…………………………………………ええと、これは……。
「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!」」
俺とローザネーラの悲鳴が重なる。
俺に迫りくる球体と、ローザネーラに迫る首切り君。
「こ、こなくそぉ!」
俺は咄嗟に片方の翼を強く大気に打ち付け、無理やりな横回転で球体を回避。
「にひゃぁぁぁぁっ!? しぬぅぅぅぅっ!?」
ローザネーラは後ろに身体を逸らし、ブリッジのような体勢になり、首切り君をやり過ごす。
「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!!??」」
空中で無理な動きをした俺は、バランスを崩して地面に落下。
着弾地点にいたローザネーラを巻き込んで、地面をゴロゴロと転がった。
もみくちゃになりながら荒野を十数メートルは転がり、べしゃり、と重なり合ってようやく停止した。
・えぇ……なに、この……なに?
・なにがどうしてそうなった
・なんも上手く行ってなくて草
・びっくりするほど自滅
・カッコイイセリフからこの落差よ
・これはもうダメかもわからんね
ローザネーラの下敷きになりながら、視界の端に映るコメントを見る。
ま、まだダメだって決まったわけじゃないし……(震え声)。
ご拝読ありがとうございます。
読者様のくださる感想、評価、ブックマ、レビューにいいねと励みになっております。
この小説で少しでも楽しめたのなら、是非にブックマや評価をしていただければ幸いです。
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やっべ、【嘘獣】さん盛り過ぎた気が……まぁ、設定で作った能力を全部出す気はないし、ええか。
なお、作中で出た黒い棘は【ドーマウス】、白い球体は【ホワイトラビット】という名前の魔法です。他にもいろいろと魔法があります。作中では三個出てますね。
どんな魔法が出てくるか、次回をお楽しみに。
ではでは、またー。




