【天武】の試練 特別性の絶望
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
一話の長さが定まらない病患者の作者です。
作者的には2500文字で二日に一話くらいのペースで更新したい。
けど、今回は4000字越え……おかしいなぁ?
そんな感じで、本編どぞー。
《飛行》スキルの比じゃない飛行速度で飛ぶシユウに運搬されること、数十秒。
飛び上がった時と同じかそれ以上の恐怖体験であった高速落下で着地したシユウは、俺とローザネーラをぽいっと放り投げた。
急な高速飛行でふらっふらな状態で着地なんて出来るはずもなく、俺とローザネーラは絡み合うようにして地面に倒れる。
「う、うぉおお……。地面だ……地面、最高……!」
「きゅぅうう……もう、そらなんてとばないぃ……!」
「悪魔と吸血鬼がなーに言っとるんじゃ。ほれ、乳繰り合っとらんで、しゃんとせんか」
「ち、ちちくりあってなんてないわよっ!! というか、だれのせいでこうなったとおもっているのよ!」
「カカッ、それだけ元気ならば、問題なかろう。さっさと立たんか、力を封じられた我が後続よ」
「よっこいしょ……うぅ、まだクラクラする……。後続って、ローザネーラが元ネームドボスだってわかるのか?」
「うむ、名付きとなった魔物は特殊な魔力を発しておるからのぉ。見る者が見れば一目瞭然じゃ。まぁ、召喚獣になっとる名付きなんぞ、ワシの長い生の間でも初めてみたがの」
・あ、やっぱりシユウちゃんって見た目通りの年齢じゃないのね
・のじゃ口調のロリババア……だと!?
・しかもチャイナ風ドラゴン娘だ。性癖のバーゲンセールかな?
・チャイナの薄い布地越しの僅かなふくらみ……いい
・いや、すらっとした太ももだって捨てがたいぞ
・ネームド相手にもこの反応……ここのコメント欄はブレねぇなぁ
「って、ますたー! なにをのんきにおしゃべりしてるのよ! そいつはてきなのよ!?」
「いや、敵……なのかぁ? なぁ、シユウ。お前、俺たちと戦う気、あるのか?」
「ん? ないぞ」
「ほら、いまにもおそいかかって……って、ないのぉ!?」
目を見開いてシユウを見るローザネーラ。
愕然とした彼女の表情がツボに入ったのか、シユウは長い袖で口元を隠しながら、コロコロと笑う。
笑われたローザネーラは顔を真っ赤にして、ふしゃー! と威嚇する子猫のような声を上げながらシユウに飛び掛かり……ものの見事に回避され、ずざざーっと地面にヘッドスライディングした。
うつぶせに倒れたローザネーラに恐る恐る近づき、声を掛ける。
「おーい、ローザネーラ? 大丈夫か……?」
「……だいじょうぶ」
あ、大丈夫そう。
「じゃ、ないわよぉ!!!」
あ、大丈夫じゃなかった。
ガバリ、と起き上がったローザネーラは、紅玉の瞳をキッと吊り上げ、ニマニマとこちらを伺っているシユウを睨み付ける。
そして、もう一度飛び掛かろうと膝にぐっと力を入れた。
俺は、その膝裏をつま先でちょん、と突く。
「かくごしなさ――ひひゃんっ!?」
変な声を出して崩れ落ちたローザネーラの身体を抱き上げ、拘束しつつ頭を撫でる。
はいはい、話が進まないからちょっと大人しくしてなー。
というか、今は絶対に敵わないから、挑むだけ無駄だと思うぞー。
「うぅう、なでるなぁ……むぅうううううっ!」
「カッカッカ、本当に愉快じゃのう、お主ら」
「あんまり煽らないでやってくれ。ローザネーラも、暴れるなー? ……で、ここは何処だ? シユウは俺たちに何をさせたいんだよ」
ジタバタと暴れて俺の腕から逃れようとするローザネーラを宥めながら、俺はシユウに問いかける。
辺りの景色を見渡せば、くたびれた大地が広がり、砂埃が舞っている。
つまり、『餓鬼獣の赤荒野』から出てはいないということだ。
戦うならさっきの場所でも変わらないし、シユウの目的が読めない。
「おおっ、そういえば。まだ説明しておらんかったの。歳をとると物忘れがひどくていかん」
「その見た目で年寄りムーブされると、違和感がすごいな」
「実際年寄りじゃからのぉ。千までは数えておったんじゃが、それ以降はよく覚えておらん。それで、ここは何処で、ワシの目的がなにか……じゃったか? 一つずつ答えてやろう。ここは――この領域の主の住処じゃよ」
ほれ、とシユウは俺たちの背後を指差した。
俺とローザネーラはそれにつられるように振り返る――と、同時に。
ぬっ、と大きな影が俺たちを覆った。
「ガルルルルゥウウウウ……!!」
真っ赤で固そうな体毛を持つ、ゴリラと狼と熊を足して三で割ったような化け物が、唸り声を上げていた。
あれ、コイツって……。
・おっ、前回ヤベー奴等にボコられたバンダースナッチさんチーっス!
・てことはここ、ボスエリアか
・シユウちゃんの目的はボスとヴェンデッタちゃん&ローザネーラちゃんのバトル……?
・化け物VS化け物級に可愛い幼女sか……胸が熱くなるな
・幼女と筋骨隆々の獣……ひらめいた!
・おい、薄い本を厚くするな
やっぱり、餓え狂うバンダースナッチか!?
シユウはコイツと俺たちを戦わせたいのか?
アリアさんとアカちゃんが倒してしまったこのボスを、俺たちの手でボコす予定だったから構わないけれど……何故そんなことをする必要がある?
「いや、お主らの相手はコイツではないぞ。お主らの実力を見るのに、この程度の魔物じゃ役不足じゃからのぉ」
シユウはそう言って、かつかつとバンダースナッチの方へ歩み寄っていく。
まるで、木漏れ日照らす並木道を散歩するかのように、何一つ気負ったところのない様子で。
殺意も戦意もなく、鼻歌でも歌い出しそうなほど軽い足取りで、魔獣に近寄った。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
当然、魔獣――バンダースナッチは怒り狂う。
産毛が逆立ちそうなほどの怒気を放ち、バンダースナッチは棍棒のような前脚を振り上げた。
危ない――――と、本来なら言うべき状況。
なんなら、首切り君片手に動き出していたかもしれない。
けれど、俺はそのどちらもしなかった。
シユウが――魔獣と相対する小さな少女が、バンダースナッチに叩き潰される。
その未来が、どうしても想像できなかったから。
「よき嚇怒じゃ。迷いなき一撃は好ましい――――じゃが、弱い」
スッ――と。
暖簾をくぐるような気安さで掲げられたシユウの手が、バンダースナッチの一撃を受け止めた。
衝突音すらしない。バンダースナッチが放った攻撃が、羽毛か何かように感じるほど、シユウは力んでいない。
何をしたのか分からない。ただ、シユウの只者ではない雰囲気が強くなっただけ。
「ガルウウ……?」
バンダースナッチも何故シユウが潰れていないのか、自分の腕が何故シユウのもみじのような手に留められているのか分かっていないのか、動きを止めている。
だが、それはシユウに対して、余りにも明確過ぎる隙だった。
「ほれ、敵を前に呆けるでないわ、戯け」
シユウは悪ガキを叱るように言うと、ひょい、とバンダースナッチの前脚を止めていた手を動かした。
……いや、正確に言うなら、動かしたように見えた。
シユウが何をしたのかは分からない。
ただ、彼女の手の先が残像すら見えぬ速度で動き。
「――――――ガァアアア!!??」
バンダースナッチの巨体が、宙を舞う。
わけがわからない。何が起こった?
柔術……のような技術を使ったのは、なんとなくわかる。だが、その内容はサッパリだった。
そして何より恐ろしいのは、シユウがスキルや魔法を使っていないという事。
完全なPSのみでバンダースナッチの一撃を無力化して受け止め、倍じゃきかない体格差を無視して投げ飛ばす。
まるで実力の底が見えない。あの小さな少女がどれほど強く、俺との間にどれだけの差があるのか、考えるだけで背筋が寒くなってくる。
「さて、そろそろ仕上げとするかの。――――お主ら、呆けておらんで戦う準備をせんか。【天武】の試練はもう始まっておるぞ」
シユウがこちらを振り向きながら放った言葉に、俺は首切り君を取り出して構える。
隣を見れば、ローザネーラも杖を握りしめて表情を険しくしている。
今のシユウの表情から、何かを読み取ったのだろう。俺と同じだ。
――――何か、とてつもないことが起きる、と。
俺たちが戦闘態勢を取ったのを見て、シユウは満足げに頷いた。
そして、倒れ伏すバンダースナッチに近づき、手を翳す。
「《魔王権限》・限定行使――――『変貌せよ、進化せよ、昇華せよ、堕天せよ』」
詠唱? 魔法か?
シユウの身体から黒色の燐光が立ち昇り、翳した手のひらに集まっていく。
「――――『汝は化生、闇に住まい魔に浸る者。邪悪の化身にて悪逆の使徒』」
シユウが言葉を紡ぐたびに、燐光は激しさを増し、闇色の柱となってシユウとバンダースナッチを囲み、天を衝く。
「――――『汚泥の皆底、母神の寵愛、嘲笑う声に耳を傾け、神々を食らう牙を砥げ』」
やがて、闇がバンダースナッチを包み、姿が完全に見えなくなる。
相変わらず、何をしているのかは分からない。
「――――『魔なる存在を統べし皇帝、営みの灯を吹き消す厄災の王たる我の名において、汝に尊き名を授けよう』」
だが、目の前の出来事が『ヤバい』という事だけはわかる。
首切り君を握る手に、力が籠った。
「――――『汝の姿を知る者は居らず、恐怖に支配された人々は戯言に踊る。正体不明たるその身を真実の剣に貫かれるその時まで、未知の脅威にて悪夢を振りまけ』」
闇の塊になったバンダースナッチの身体が、泡立ち、波打つ。
そして、変形する。
より巨大に、より凶悪に、より悍ましく。
一分一秒ごとに、化け物はさらに邪悪な怪物へと変貌していった。
シユウは翳していた手を顔の前で握ると、振り払うように薙ぎ。
「――――『汝が新生を祝おう。その身に刻む名を拝聴せよ。汝が名は――――」
謳うように、高らかに――――叫ぶ。
「――――――――【嘘獣】のジャバウォック』!!!」
闇が、爆発した。
変貌したバンダースナッチを覆っていた黒が霧散する。
その中から現れるは――ケモノ。
倍ほどに膨れ上がった巨大な身体。それを支える四肢は大地を砕き、鋭利な爪を携える。
赤かった体毛は闇夜を融かしたような漆黒に染まり、硬質な針を思わせる鈍い輝きを放っていた。
背中からは螺子くれた角のようなモノが乱雑に生えている。苛立たし気に大地を叩く尾は太い。
だが、だが――何より恐ろしいのは、その頭部だろう。
頭部、というのは正確ではない。だって、そこに顔なんてないのだから。
首が生えるべき部位にあるのは、『口』だった。
ぽっかりと円形に空いた口腔に、びっしりと隙間なく生えた鋭利な歯。
かみ砕くというより磨り潰すことに特化しているそれは、ヤツメウナギの口によく似ていた。
そして、喉の奥から伸びる細く二股に分かれた舌が、チロチロと動いている。
「ひぃ……!!」
あまりにも異質なケモノの姿に、ローザネーラが悲鳴を上げる。
俺も、思わず絶句してしまった。
そのくらい、目の前の化け物は恐ろしく――――そして、強い。
「ギュァアアッ! ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」
ケモノは金属同士が擦れあうような、不愉快な叫びを上げた。
顔を顰めて耳を抑えた俺たちに、バンダースナッチを化け物に変えた本人が話しかけてくる。
「さぁ――力を示せ」
ケモノを背に従えるように佇み、変わらぬ笑みを浮かべるシユウは、高らかに言葉を紡ぐ。
「これぞ【天武】の試練。弱者としてここで散るか、強者として更なる力への道を切り開くか。それは汝ら次第――ワシを楽しませてみよ、ヴェンデッタ、ローザネーラ」
シユウは一方的にそう告げて、霞のようにその場から消えてしまった。
それと同時に、俺の脳裏にアナウンスが響き渡る。
《プレイヤー:ヴェンデッタはネームドボス:『【嘘獣】のジャバウォック』と遭遇しました。戦闘が開始されます》
《健闘を祈ります》
――――こうして、予期せぬネームドボス戦が、幕開けた。
ご拝読ありがとうございます。
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ネームド出し過ぎ? まぁええやろ。
この小説は純度百パーセントのフィーリングで作られております。
ではでは、また次回ー。




