どうあがいても長閑にならないお茶会
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
このお嬢様、本当に勝手に動くなぁ……と、作者です。
アリアンロッド、もとい八都神亜理紗は作者も結構お気に入りのキャラです。
あと、メイドさんの名前が読めないとの意見があったので、この場で言っておこうかと。
【十環乃紗月】と書いて【とわの さつき】と読みます。
ではでは、本編にどうぞ。
「失礼、取り乱しましたわ」
「ああ、落ち着いてくれてよかったよ……」
ぐったりとソファに崩れ落ちながら、俺は絞り出すような声で返事をした。
行儀が悪いかもだけど、そんなこと考えて居られないくらいに疲れたよぉ……。
さっきまで半狂乱だった八都神さんは、テーブルを挟んだ向かいのソファに座り、優雅に紅茶を飲んでいる。
あのトンチキっぷりが嘘のような、お嬢様然とした姿だが、振り回された身としては少々イラっとする。
ふてくされるようにお茶菓子をポリポリしていると、八都神さんの後ろに控えている十環乃さんがそっと頭を下げてくる。
「すみません、逆凪様。この馬鹿……もとい、お嬢様は後でしばいておきますので」
「さ、紗月? 折檻ならもう十二分に受けましたわよね? こ、これ以上は流石に死んじゃいますわよ!? ヴェンデッタ様、助けてくださいまし!?」
十環乃さんのアルカイックスマイルに青い顔をする八都神さんが、こちらに助けを求めてくる。
何も言わず、にこりと力ない笑みだけを返しておいた。
悪いけど、これ以上大騒ぎする気力は残ってないんだよなぁ。
ちょっと可哀想かもだけど、見捨てさせてもらおう。
顔色が青を通り越して真っ白になった八都神さんと無機質な笑みを少しだけ深めた十環乃さんから、そっと目を逸らす。
「逆凪様にもご納得いただけたようですので、お嬢様……お覚悟を」
「や、やさしくしてくださいましね……?」
「ええ、特別厳しくさせていただきます」
十環乃さんの無慈悲な言葉に、八都神さんはお嬢様とは思えないような悲鳴を上げる。
そして、我関せずとお代わりを貰った紅茶を飲む俺。
うーん、お茶が美味しい。お茶菓子も。
「ふ、ふふっ、大丈夫ですわ。私は八都神亜理紗。この程度の絶望に負けたりしませんわ……コホン。改めまして、私、八都神亜理紗と言いますの。ヴェンデッタ様、お会いできて光栄ですわ」
俺が軽く現実逃避をしていると、気を持ち直したらしい八都神さんがピンと姿勢を正し、胸に手を当てながらニコリと微笑んだ。
おお、切り替えが早いな。
今の挨拶も堂に入っていたし、やっぱりお嬢様なんだなと再確認。
「じゃあ俺も、逆凪恵です。出来ればこっちの名前で呼んでもらえると助かります」
「では、恵様と。私のことは亜理紗とお呼びくださいまし。それと、言葉遣いも崩してもらって構いませんわ」
「そうですか? ……んっ、なら、そうさせてもらうよ。よろしくな、亜理紗さん」
そう言って俺が微笑むと、亜理紗さんはデレリと相好を崩した。
こちらを見つめる瞳に危うい光が宿り、俺の背筋に冷たいモノが流れる。
いや、もうちょっとくらいお嬢様を持続させてよ。
「ぐふふふふ……あぁ、カワイイですわぁ。銀髪ツインテのヴェンデッタ様も良かったですが、黒髪ロングの恵様も最高……! 爽やかな笑顔の破壊力がヤベェですわね下手したら死人が出ますわよ? あぁ、どうして私は撮影機器を持っていないのでしょう一生の不覚ですわ……紗月!」
「カメラをもってこいとか言ったら折檻のレベルを三段階ほど上げますが」
「何でもありませんわ! 紅茶のお代わりくださる!?」
「かしこまりました。逆凪様もいかがですか?」
「あ、はい。お願いします」
亜理紗さんのヤベェモードは十環乃さんによって一瞬で鎮圧された。流石である。
まぁ、妙なスイッチが入っても頼りになるメイドさんがいれば大丈夫だな。
そうして亜理紗さんもお嬢様モードに戻り、場が落ち着けば自然と会話は生まれる。
「けど、こんなことってあるんだな。ゲーム内で知り合った人と、現実でばったりなんて」
「そうですわね。私、恵様を見つけた時は思いっきり疑いましたもの」
「目を?」
「いえ、世界線をですわ」
「だいぶ壮大な話になったな……」
「もしくは、日々の妄想が功を奏して、妄想を現実に具現化する能力にでも目覚めたのかと」
「それはたぶん、亜理紗さんに一番持たせちゃいけない能力だと思う。というか、不審者ルックで観察なんてせずに、普通に話し掛けてくればよかったのに」
「いきなり話し掛けたら私、興奮しすぎて何をしでかすかわからなかったですもの」
「嫌な説得力があるなぁ」
「目の前に理想のロリが現れれば、誰だってそうなりますわ」
「そうなったら終わりだよ、この世界。ちなみに、あの不審者ルックは何処から?」
「? 愛くるしい幼女を愛でるための標準装備ですが?」
「そんな曇りない眼で返されるとは思わなかったなぁ」
言葉の端々からヤベェ感じが伝わってくるが、考えすぎても頭が痛くなるだけなので努めて気にしないようにした。
お茶菓子を摘まみながら、話はC2の話題に移っていく。
共通の話題というのは便利なもので、次から次へと会話が続いた。
亜理紗さんがこれまで戦って来た中で最も強かった魔物の話をしてくれて、俺は大鎌を使った戦闘の所感を教える。
また、配信で気を付けている事を聞いたり、厄介なコメントが付いた時の対処方を教えてもらったり。
十環乃さんによって亜理紗さんの失敗談というか、ポンな所業の数々が暴露されたり。
足場の狭い山岳地帯で戦闘中、魔物にとどめを刺した時の震脚で地面が崩れて谷底に落ちていくとか……うん、やはり超有名実況者は持ってるものが違うな。
「そういえば、恵様は記念配信は行いませんの?」
「記念配信、ですか?」
亜理紗さんの言葉に小首を傾げる。
記念配信。
名前の通り、何かしらの目標を達成したときなど、特別な節目に行われる配信だ。
「ええ。恵様は登録者増加のペースが早いのでタイミングを逃してしまっていますが、是非ともやるべきかと。そういった特別な配信は数字を取りやすいですし、なによりリスナーに対して感謝の気持ちを伝えられますわ」
「リスナーに対する感謝……」
亜理紗さんは紅茶のカップを音もなくソーサーに戻しながら、小さく頷く。
「私たち配信者の活動は、私たちの頑張りだけで成り立っているわけではありませんわ。見てくれる方々がいてこそ、私たちは輝けますの。ですから、一緒に頑張ってくださる皆様に感謝をするのは当然でしょう?」
「それは、そうだな。考えたこともなかったけど、すごくしっくり来たよ」
配信は、配信者だけで行っているわけじゃない。
見る人がいてこそ、そこに価値が生まれる。
当たり前と言えば当たり前だが、当たり前すぎて失念していた。
なるほど。それは確かに大切だな。
ローザネーラと戦った時もコメントに助けられたし、ステータスのことで相談に乗ってもらったこともある。
『これまでありがとう』、『これからもよろしく』。
そんな単純な言葉をしっかりと伝えるために、やってみてもいいかもしれないな、記念配信。
まぁ、セクハラまがいの発言や、性癖を抑えられない困った面もあるが……それを言ったら、目の前のこの人もそうだしなぁ。
「あら、なんだか恵様の視線が冷たいような……」
「あはは、なんのことだ? でも、やっぱり亜理紗さんはすごいな。流石は超有名配信者って感じで、カッコよかったぞ」
俺が笑いながら言うと、亜理紗さんは突然「コヒュ!」と妙な音を口から漏らし、胸を抑えてテーブルに崩れ落ちた。
結構な勢いで頭を木製のテーブルにぶつけたようで、『ゴンッ!』と鈍い音が響く。
「亜理紗さん!?」
いきなりのことにビックリして、俺は思わずソファから立ち上がり、彼女の傍に近寄った。
大丈夫かと気遣わしげに亜理紗さんを見て……すぐに、その心配が無駄だと悟る。
「ふっ、ふへへっ! へへへぇ……恵様の満面の笑顔……尊すぎますわ。ぐふっ、ふへぇ。キモイにやけ面が止まりませんの。可愛さが致死量でしてよ。ひひっ、いひひひひひひひひひ…………!!」
俺は何も聞かなかったことにして、ソファに戻った。
「すみません、十環乃さん。紅茶のお代わりをいただいても?」
「はい、かしこまりました」
十環乃さんがにっこりと微笑んで一礼した。
俺もにっこりと笑みを返した。
その間も、聞くに堪えない笑い声が、断続的に響いていたのだった。
ご拝読ありがとうございます。
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次回はゲームに戻るかな? 多分そんな感じになると思います。
ではでは、また次回ー。




