変態エンカウント
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
TSロリっていいよね
地味なスランプから地味に復活しました、どうも作者です。
一ヵ月とか開かなくてよかった、とほっとしております。
このお話から一応新章ということになります。
ではでは、どうぞー。
突然だが、俺はランニングを始めた。
別に運動することに快感を覚えるタイプだとか、汗を流すことを至高とする体育会系な考えの元行っているわけじゃない。
理由は単純明快、健康の為である。
VRゲームの弊害として挙げられる一つが、運動不足だ。
何時間もベットの上に寝っ転がって微動だにしない。
そんな風に過ごしていれば、筋肉は衰えていく一方である。
VRで遊ぶときは適度な運動を習慣づけましょう。世の中にVRゲームが登場して間もなくそんな注意喚起が広まったのだ。
ランニング場所は、アパートから十五分くらいの場所にある自然公園。
木々に囲まれたランニングコースがあり、そこをぐるぐると何周か走っているのである。
「はふぃ、ちょっと休憩~……」
三十分ほど走った俺は、近くにあったベンチにどかり、と脚を広げて座った。
小さく揺れる街路樹の葉っぱをぼんやりと眺めながら、大きく息を吸って吐いて、深呼吸。
弾んでいた吐息が少しずつ落ち着いて、身体に籠っていた熱が発散していった。
もうすぐ秋になるかという九月中旬。
だが、残暑は未だに健在で、俺の身体を責め立ててくる。今日は太陽も照り付けていて、気温以上に暑く感じる。
全身を包むうだるような熱さは消えず、俺は汗に濡れたTシャツの胸元に指をかけ、パタパタと空気を送り込んだ。
ちらり、と視線を下にやり、自分の胸元を覗き込めば、そこには小さいながら確かにあるふくらみと、それを覆うシンプルなデザインのスポーツブラが見える。
……女物の下着を付けていることに、だいぶ違和感を覚えなくなっちゃったなぁ。
最初の頃、自分の裸体を見るだけで謎の罪悪感に襲われていたことが懐かしい。
「……ん?」
そんなことを考えていると、なにやら複数の視線を感じた。
配信を始めてから、『見られる』ことを意識しだしたせいなのか、少し視線に敏感になっているような気がする。
まわりを見渡してみると、複数人がなぜか俺の方を凝視していた。
俺と同じようにランニングに励んでいる部活中の学生や、犬の散歩をしている男性、向かいのベンチで休憩中のサラリーマン、ランニングコース脇の街路樹の陰から顔を覗かせる近所のお嬢様学校の制服を着てマスクとサングラスで顔を隠した金髪ツインテの女子高校生。
……なんか一人、怪しさのランクが三つくらい違うのがいた気がするが、俺は見ないふりをした。
はて、なんでこんなに見られているのだろうか? と、小首を傾げる。ついでに、俺を見ている人たちが皆、どこか顔を赤らめているのも気になる。
注目を集めるほどおかしな格好していたっけ、と自分の姿を一度客観的に見て……ああ、なるほど。
そうだった、俺、美少女なんだった。
それがこんな無防備に胸元ひけらかしてたら、そうなるわな。普通にスポブラが見えそうになってるし。
俺は極めて冷静に服装の乱れを直し、ついでにベンチに座る姿勢も正しておいた。
「「「「「あぁ……」」」」」
なんだか残念そうな声が重なって聞こえた気がするが、スルー。俺は何も聞いてません。勘違いです。
……ついでに、妙にドキドキして顔が熱くなってるのも勘違いだから。あーあー、今日はほんっとに暑いなー!
そんな、誰に聞かせるでもない言い訳を心の中で独り言ちながら、俺は意識を切り替えようとスマホを取り出した。
ポチポチと操作して、画面に出したのは『ヴェンデッタチャンネル』のマイページだ。
C2の配信を始めて、四回の配信を終えた。
様々なイベントやトラブルを乗り越えつつ、まぁ上手く行っているんじゃないかと思う。
登録者は十三万人越え、そろったーのフォロワーもだいぶ増えている。
あとは配信時間が規定まで達すれば、スパチャ……スーパーチャットや広告などで収入を得ることが出来るようになると思う。
生活面はこれでひとまず安心かな?
目減りする一方だった貯金がプラス方向に上向いてくれると精神衛生上たいへんよろしい。
「となると、考えなくちゃいけないのは今後の方針だよなぁ……」
『ヴェンデッタチャンネル』をどういう方針で運営していくのか。
一時の人気に胡坐をかいていては堕落するのは一瞬だろう。
人気を保ち、さらに伸ばしていく。そんな努力をしていきたい。
一応、C2のプレイ方針みたいなものは、こないだのアリアさんとアカちゃんの戦闘を見て思いついた。
強くなる。あの二人に並ぶ……いや、超えるほどの実力を。
ゲーム配信としてはポピュラーな方針だと思う。
世界で一番強くなりたいなんて、ゲームにのめり込んだ者なら誰だって考える事だ。
それに、ローザネーラのこともある。
ローザネーラは今現在、俺のレベル不足が原因で能力のほとんどを封印されている状態だ。
本人もそれで歯がゆい思いをしているようだしなぁ。プライドが高い分、弱い自分が許せないのだろう。
それに、涙目で睨まれるとその幼い容姿も相まって罪悪感がすごいのだ。
早めに何とかしてやりたい。
つまり、これからもどんどん魔物を倒して、ボスを倒して、ネームドボスなんかも倒して。
レベルをじゃんじゃん上げまくる、と。
「……これまで通りだな!」
どうやら方針を変える必要はないらしい。
まぁ、俺の切り抜き動画とかも戦闘している動画が多いし、リスナーからの需要もそっち方面に偏っているのだろう。
戦って戦って戦いまくる。
なんともシンプルで分かりやすいじゃないか。俺、そういうの好きだ。
そうと決まれば、次の配信では『餓鬼獣の赤荒野』を自力で攻略しようかな。
ローザネーラとの連携も強化しなきゃだし、バンダースナッチに挑戦もしたい。
「そうと決まれば、さっさと帰って配信の準備を……は?」
スマホから顔を上げた俺は、目の前の光景に思わず固まってしまう。
正面のベンチ。さっきまでサラリーマンが休憩していたところに、近所のお嬢様学校の制服を着てマスクとサングラスで顔を隠した金髪の女子高校生が座っていた。
どっから持ってきたのか、新聞を広げて顔を隠そうとしているが、ボリュームのあるツインテールがはみ出しているし、新聞紙には穴が開いておりサングラス越しの視線が丸見えだった。
あんなベタな監視の仕方、今時漫画でも見ないんだよなぁ……ではなく。
え、なに。怖い怖い怖い。
なんであの人、俺のことあんなにじっと見てるの? ちょっと特殊な事情持ちの美少女でしかないぞ俺は!?
か、軽く身の危険を感じる……と、とりあえず自然な感じでランニングを再開しようかな……。
突き刺さるような視線に少し顔を青くしながら、俺はベンチから立ち上がって走り出した。
すると、謎の金髪女子高校生も立ち上がり、新聞紙を持ったまま追いかけてくる。
スゥ――――。
うん、逃げよう。
「全力疾走ッ!」
「あっ、ちょ! お、お待ちになって!!」
ひぃいいい! 追いかけてくるぅ!
というか、本当になんで追いかけられてるんだよ!? 女子高校生にストーカーされる謂れはないぞ!?
脇腹が痛くなるほど全力で駆けるが、この身体の運動能力はさほど高くない。測ったことはないけど、女子中学生の平均くらいしかないと思う。
まぁ、要するに。
(このままじゃ追いつかれるぅ……!)
俺と金髪女子高校生の変質者の距離は、確実に縮まってきている。
彼女に捕まるのも時間の問題……くっ、どうする? 進路を変えて公園を出るか? いや、進路変更のロスタイムが致命的すぎる。このまま愚直に逃げて、誰かがいる事に賭けるしかないかっ!
そんな分の悪い可能性に縋りつつ、俺は背後をちらりと確認する。
グラサンマスクの女子高校生が、金髪のツインテを振り乱し、新聞紙をばっさばっさしながら追ってくる光景を見て、一瞬で視線を前方に固定した。
……アレはヤバい。俺の直観が盛大な警鐘を鳴らしていた。
「ま、待って下さいまし! 私、怪しいモノではありませんわぁ!」
うーん、説得力が皆無ぅ……。
だが、言い返す時間も惜しいので、疾走に集中。
足を全力で回し、腕を振り、髪を振り乱し、全身を汗でびっしょりにして。
靴底が地面を叩く音が響き、進行方向に落ちている空き缶を飛び越えて、前に前に。
ええい、日課のランニングに勤しんでいただけだというのに、なぜこうなる……!
そう文句を頭に浮かべても、後ろから近づいてくる足音を止めることは出来ない。
このままじゃ……ええい、せめて抵抗を……!
そう覚悟を決めて、俺は振り返り――――。
ガッ!(空き缶を踏み抜く音)
ズルッ!(空き缶が思いっきり滑る音)
ヒュッ!(高らかに脚が上げられる音)
ゴンッッッ!!!(後頭部が地面に強く叩きつけられる音)
「――――――ひゃぴあはぁ!?」(後頭部を強打した人間の悲鳴)
――――不審者女子高校生が、漫画みたいにすっ転ぶのを目撃した。
うっわ、痛そう……思いっきり頭から行ったし、大丈夫なのか? その、脳震盪とか……。
思わず足を止め、相手が不審者であることも忘れて心配の念が湧いてくる。
そんな――ある意味見事といえる――転び方だった。
とりあえず、無事を確認するため仰向けでひっくり返る不審者さんの顔を覗き込み……ふと、既視感を覚えた。
日本人離れした、気の強そうな美貌。今は漫画なら目にぐるぐるマークがついているような顔だが、それでも彼女がとんでもない美少女であることは見て取れた。
しかし――はて? なんか俺、この人に見覚えがあるような……?
そんなことを想いつつ、じっくりと彼女の顔を見つめていると。
ぐわっ!
っと、いきなり、不審者さんが目を開けた。
意志の強そうな紺碧の瞳に、驚き目を見開く俺の顔が映った。
「あっ、あの……大丈夫」
「――――捕まえましたわっ!」
ガシッ、と不審者さんの伸ばした手が俺の手首を掴んだ。
びっくりしてすぐに振りほどこうとするが――力つよっ!? 全然外れない!? ……いや、俺が非力なのか……。
いや、それはどうでもいい。今はまず、この食虫植物めいた不審者さんから逃れないと……!
「は、離してください……!」
「いいえ、もう逃がしませんわ……! うへへへへへ……おててすべすべ……。私は少々お聞きしたいことがあっただけですわ。くふっ、ふへへへぇ、汗の匂いやっべぇ……。やましいことなど一切ございません」
「白々しいにも程がある……!」
欲望駄々洩れじゃないか!? 顔もなんかもう美少女がしちゃいけない類の表情になっているし!
ええい、直視し難いというか、もう二度と見たくないというか、未来永劫目の前に現れてほしくないタイプの不審者なんだけど――この既視感はなんだ?
こんな変態じみた――変態そのものな人、知らないはずなんだけど……どこかで、しかもかなり最近見たことがあるような……。
「――――失礼いたします」
声が、増えた。
その声にまた強烈な既視感を覚えていると、そっと変質者さんに掴まれている俺の腕に、白魚のような手が添えられる。
その手はスルリと俺を縛る変質者さんの手を外す。
変質者さんの顔がさっと青くなり「あっ、やべ」と絶望に染まった表情を浮かべた。
「お嬢様」
「あ、あの、紗月? これはその……そう、誤解ですわ! 何かこう、世界規模の陰謀的なナニカが不思議に作用して――――」
「――――遺言はそれだけですか?」
ゾッとするような声で変質者さんに告げたのは、クラシカルなメイド服を見事に着こなす――非常に見覚えのある女性だった。
「では、お嬢様」
「あっ、あっ、あっ……ゆ、ゆるして……」
「それは聞けない相談でございます――――少々、頭を冷やしなさい」
ひゅんっ、と。
何をしたのかはよく分からなかった――多分、合気とか柔術とか――メイド服の女性の手によって、変質者さんの身体が宙を舞った。
「ひゃひぴぃひゃぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!???」
情けない悲鳴を上げながら上空にすっ飛んだ変質者さんは、そのまま街路樹の枝に引っかかった。
「ぐへぇえ」
……潰れたカエルみたいな声が聞こえたけど、大丈夫なのだろうか。
変質者さんの末路から目を逸らし、俺はメイド服の女性に視線を向けた。
彼女もこちらを――俺の顔を――見て、無表情の中に小さな驚きを浮かべる。
だが、すぐにそれを隠すように、鉄壁のアルカイックスマイルに変わった。
酷く見覚えのある……というか、昨日ぶりのその笑顔を見て、俺はどんな顔をすればいいのかわからず、曖昧に微笑む。
「ええと、初めまして……で、いいんでしょうか?」
「はい、こちらでは初対面ですので」
「では……こほん。初めまして、逆凪恵です」
「こちらこそ初めまして。十環乃紗月と申します。あそこに引っかかっている変質者――もとい、八都神亜理紗お嬢様のメイドをしています。昨日ぶりですね、ヴェンデッタ様」
アルカイックスマイルのまま、メイド服の女性――メイさんこと十環乃紗月さんは、俺のC2での名前を涼やかに紡ぐのだった。
ご拝読ありがとうございます。
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ゲームの話はその次からです。
ではでは、また次回ー。




