後日談 アナベルとフロランス
今日はアナベルとフロランス、シビルの四人でお茶会を開くこととなった。
会場となったのは私の実家である。
なんでもっとも規模が小さな家でするのか。
理解できなかったが、シビル曰く、私の実家のほうがフロランスが緊張しないのではないか、というアナベルの判断らしい。
フロランスはアナベルとそこまで話す仲ではなかったものの、仲よくなりたい、と言ってくれたのだ。
無理はしなくていい。アナベルは性格はきついし、優しさという感情もあまり持ち合わせていない。
誰しも仲よくなれるわけがないと訴えたものの、フロランスは私とアナベルの入れ替わりの話を聞いてからというもの、アナベルの大ファンになってしまったという。
たしかにアナベルは面白い女であることは認める。けれども、フロランスと気が合うとは思えないのだが……。
そんなわけで、不安に思いながらもお茶会の当日を迎えた。
アナベルは一時間前にやってきて、私が考えたお茶会のセッティングにあれこれ物申す。
「ちょっと、どうして花瓶の花がその辺に生えているぺんぺん草なのよ!」
「ぺんぺん草じゃなくて、シロツメクサなんだけど」
「雑草はぜんぶぺんぺん草でいいのよ!」
なんというアナベル・ルールを披露してくれるのか。
「というか、雑草の種類とかどうでもいいから、きちんとした花を活けなさい!!」
アナベルはそう言って、近くにある伯爵家の本邸から薔薇を持ってきてくれた。
テーブルがいっそう華やかになる。
他にも、お菓子が貧相だとか、茶器の柄が流行遅れとか、いろいろ言ってくれる。
ここまで口出しするのならば、アナベルの実家ですればよかったのに。
しかしながら、ここでやると言ったのはアナベルである。
フロランスを怖がらせないような対策を考えてくれたのだろう。
そうこうしているうちに、フロランスがやってきた。
「アナベルさん、お会いできて嬉しく存じます」
フロランスはガチガチに緊張していた。
アナベルを実際に前にすると、我の強さというか、迫力がとんでもないので、威圧感をびしばし感じているのだろう。
「私もよ」
「嬉しいです」
しーーーーーーん、と静まり返る。
会話が続かず、気まずい空気が流れた。
アナベルが強すぎる眼力で、「なんとかしなさいよ!!」と無言の訴えをしてくる。
「え、えーっと、本日はお日柄もよく~~」
「ちょっと、お見合いの仲人じゃないんだから!!」
アナベル渾身の指摘が炸裂してしまう。
若干ドスの利いた声になっていた。
そんな物言いでは、フロランスを怖がらせてしまうだろう。
そう思っていたが――。
「ふふふ、おかしい! ミラベルから聞いていたように、お二人は楽しい会話をされているのですね」
フロランスが、笑った!?
どうやら遠慮のないアナベルの物言いが笑いの壺に嵌まったらしい。
その後も、アナベルが私に対して毒舌を披露するたびに、フロランスはころころと楽しげに微笑んでいた。
その頃になるとアナベルもフロランスと打ち解けて、ほんの少し仲よくなれた。
ハラハラと見守っていたシビルも、胸を押さえて安堵のため息を吐いていた。
「今日は本当に楽しかったです。また、ご一緒してくださいね」
「ええ、もちろんよ」
アナベルと仲よくしたいと思うご令嬢の存在は貴重だろう。
これからもこのご縁を大切にしてほしい。
そんなわけで、思いがけずお茶会は成功したようだ。




