405話:交渉
数日後、月島花蓮から『伝言』で連絡があって、公安覚醒者対策課の課長と会うことになった。
『アリウスさんのことは、スパリゾートで接触した相手だということと、名前と強力な魔力を持つ人物とだけしか伝えていません』
『問題ないよ。交渉はこっちでやるって言っただろう』
俺が向かったのは、霞が関にある警視庁本部。向こうが指定する場所に行くとこっちから伝えた。今日は俺一人だ。
前世の頃は自分が警視庁本部に行くなんて想像もしていなかったけど、厳重警戒態勢を取っているのは、俺が来たからか?
入口のところにいた花蓮の案内で建物の中に入る。俺を危険人物だと思っているなら、本部に入れるのは悪手じゃないのか?
『索敵』に反応するたくさんの魔力。公安特殊対策課の連中が待機しているから、俺が何かしても対応できると思っているってところか。
俺が通されたのは会議室のような場所で、部屋には四○代の男がいた。グレイのスーツ姿でフチなし眼鏡を掛けて、髪をワックスで固めた如何にもエリートっぽい奴だ。
「公安覚醒者対策課課長の紫藤武明です。アリウス・ジルベルトさん、良くいらっしゃいました」
落ち着いた堂々とした態度。こいつは組織のトップってだけじゃなくて、実力も一番ってところだろう。結構魔力が強いし隙が無い。
「こちらこそ、時間を取って頂いてありがとうございます」
らしくない喋り方だけど、俺だって状況によって使い分ける。
「月島から聞いていましたが、流暢な日本語ですね」
「はい、元日本人ですから」
紫藤が一瞬眉を顰める。花蓮は本当に俺の正体を伝えていないみたいだな。まあ、下手に報告したら、魔法で洗脳されていると疑われても仕方ないだろう。
「ジルベルトさん、それはどういう意味ですか?」
「俺は日本で死んで異世界に転生した。こんなことを言っても信じるとは思いませんが、貴方が望むなら証拠を見せることはできます」
「ほう……そうですか。でしたら、是非お願いします」
この部屋の周囲は、魔力が強い奴らが固めている。何かあれば、公安覚醒者対策課の連中が飛び込んで来る手筈になっているんだろう。
「アリウスさん……」
花蓮が身構える。花蓮にしたように、いきなり向こうの世界に連れて行くと思ったんだろう。
「紫藤さん、俺は貴方たちを異世界に連れて行くことができる。周りを固めている人たちが一緒でも構いませんが?」
「さすがに気づきますか……おい、入って来い」
紫藤が呼び掛けると、二○人ほどが入って来る。全員スーツ姿。覚醒者対策課のメンバーだろう。スーツの脇が膨らんでいるのは、魔銃を持っているからだ。
「ジルベルトさん。では、お願いします」
何か仕掛けるなら仕掛けてみろって態度だ。自信があるのは悪いことじゃないし、俺が魔力を隠していることにも気づいているだろう。だけど実力を測れない相手に対して、油断し過ぎだろう。
俺は『異世界転移門』を発動する。花蓮を連れて行ったときは、こっちの世界に来るときに作った『異世界転移門』を使ったけど、複数同時に発動できない訳じゃない。
『異世界転移門』の先は空中。『飛行』は発動済みで、花蓮と紫藤を含めた覚醒者対策課の連中が、空に立っていることに唖然とする。
眼下に広がる街の風景は、前世の世界の街とは明らかに違う。
「これだけだと、まずは幻惑系の魔法を使ったと疑うだろう? 紫藤さんは『解除』が使えるよな。試してみてくれないか?」
こいつらのことは当然『鑑定』済みだ。
「……『解除』!」
紫藤が魔法を発動しても、勿論周りの景色は変わらない。それでも紫藤じゃ『解除』できないレベルの魔法って可能性もある。異世界が存在することに比べれば、その方が可能性が高い。紫藤はそう思っているみたいだな。
「この世界の住人と実際に会ってみれば、ここが異世界だって理解できると思う。だけど、もっと手っ取り早い方法がある。身の安全の保障はするから、これからダンジョンに行ってみないか?」
「ダンジョンだと……そんなモノが存在するのか?」
拒否しないから問題ないだろう。俺は紫藤たちを連れて『転移魔法』する。転移した先は、最初の最難関ダンジョン『太古の神々の砦』だ。
一切壁のない広大な空間。彼方から迫って来るのは、フルプレートを纏う巨大な天使の姿をした『至高の天使』の群れだ。
「き、貴様……どういうつもりだ?」
覚醒者対策課の一人が叫ぶ。紫藤たちが青ざめているのは、『至高の天使』の魔力を感じたからだろう。
一体一体が高難易度ダンジョン『竜の王宮』のラスボスを凌ぐ強さ。それが一○○○体以上、同時に襲い掛かって来る。
紫藤たちが魔銃を抜いて放つけど、魔弾が命中しても『至高の天使』は無傷だ。
死を覚悟した絶望の中、光の壁が紫藤たちを包み込む。俺が『絶対防壁』を発動したからだ。
『至高の天使』たちが巨大な魔力の槍を一斉に放つ。集中砲火を浴びても『絶対防壁』は無傷だ。
「身の安全は保証するって言ったっだろう。さっさと片づけて来るよ」
俺は自分だけ『絶対防壁』から出ると、『至高の天使』の群れを一瞬で殲滅した。
異世界に転生したことを証明すると言ったのは半分は本当だけど、半分は方便だ。
俺が異世界に転生したことも、異世界が存在することも、今回の件に関してはそこまで重要じゃない。
力を見せつけるようなやり方は好きじゃないけど、俺の力を理解できる奴らに、どう足掻いても絶対に敵わないと教えること。それが紫藤たちを連れて来た本当の目的だ。
「月島……おまえは全部知っていたのか?」
「異世界の存在は知っていましたが、アリウスさんのこれほどの力があるとは……」
「花蓮が言っていることは嘘じゃないよ」
『絶対防壁』に包まれたままの紫藤たちの前に立つ。
「俺たちに敵意はない。前世で住んでいた世界に興味があるから行っただけで、これからも行くつもりだけど、そっちが手を出さない限りは、害のある行動をするつもりはないよ」
覚醒者対策課の連中が震える手で、魔銃の銃口を向けるけど、紫藤が止める。
「別に撃っても構わないよ。おまえたちの攻撃じゃ光の壁は一切傷つかないし、何なら解除しようか? 核ミサイルを使おうと俺には効かないけど」
「いや、遠慮させて貰う……だが我々を害するつもりがないことを信じろと?」
「信じる信じないはそっちの勝手だけど、どうせ対処のしようがないだろう。魔力が強いってだけで俺たちを嗅ぎ周るのを止めるなら、あんたたちが警戒している海外の組織の奴らを捕らえるのに協力しても構わない」
「そんなことをしても、そちらにメリットがあるとは思えないが」
「日本には俺たちの知り合いもいるし、俺にとっては大した手間じゃないからな。組織の情報を貰えれば勝手に動くよ」
紫藤はしばらく考えてから。
「解った……こちらの世界に来るときは、まず我々と接触して貰えないか。誰が来たのか解れば、部下に手出ししないように通達する」
どこまで本当のことを言っているのか解らないけど、約束を反故にするほど馬鹿じゃないだろう。
俺は『異世界転移門』を再び開くと、紫藤たちを連れて警視庁本部の会議室に戻る。それから連絡方法とか、細かい取り決めをした。
こっちの世界に戻った異世界転移者たちのことも、嗅ぎ回らないように釘を刺すことも考えたけど、下手に情報を出さない方が良いだろう。




